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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【第1章】

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第16話:木の作り物

 村の青年たちの訓練を開始してから、数日が経つ。

 自衛のための訓練は順調に進んでいた。


「よし、今日はここまでだ!」

「「「オードルさん、ありがとうございます!」」」


 今日も2時間の訓練が終わり、ここで終了となる。

 訓練の時間は一日2時間と決めていた。


 何しろ青年たちは、他の村の仕事も抱えている。

 自衛の訓練は、あくまでも空いた時間で行うのだ。


 訓練のあと片づけをしながら青年たちは雑談していた。


「そういえば、オレ、最近、身体の調子がいいんだぜ!」

「なんだ、お前もか⁉ オレも疲れなくなったぞ!」

「たしかに! 辛い農作業も、楽になったよな!」


 青年たちは笑顔であった。

 闘気の初歩を学んだことにより、彼らの身体能力は強化されていた。

 そのお陰で村の仕事も、かなり効率的になってきたのだ。


(村の作業の効率化か……これは嬉しい誤算かもな)


 そんな雑談を聞きながら、オレも嬉しくなる。


 農地の開墾、木材燃料の伐採など、辺境の村の仕事は重労働が多い。

 だが闘気を開花したことにより、村全体の労働力も向上していたのだ


 先日の野牛の農機具パワーを使うことにより、村の生産性はかなり向上していた。

 それに続き今回の青年たちの開花は、村に大きな恩恵を与えていたのだ。


 村の自衛力が上がり、労働力も向上した。

 まさに一石二鳥である。


「さて、オレは別の仕事に向かう」


 青年たちへの訓練が終わったので、自分の仕事に戻ることにした。

 オレは村の外側の森林へと向かうのであった。



 森の中でオレは一人で黙々と作業をしていく。


 村の畑を広げるために、大斧で木を切り倒す。

 樹木の枝を斬り、真っ直ぐ丸太に加工していた。


「……よし。まずは、これで大丈夫か」


 数十本の木を切り倒したところで、ひと息つく。

 闘気術を使って身体能力を強化しているとはいえ、なかなかの肉体労働である。

 水を飲んで休憩する。


「何の音かと思えば、オードルだったのか?」


 そんな休憩時間。

 女騎士エリザベスがふらりとやって来た。

 オレが木を切り倒す音を、聞きつけてきたのであろう。


「ん? オードル、この丸太の山は何だ?」

「よくぞ聞いてくれた。これは村を囲うための防衛柵だ、エリザベス」


 オレがコツコツと作っていた物は、柵のための丸太であった。

 丸太の所々は加工して、柵として組み立てられるようにしている。


「防衛柵……だと?」

「ああ、外敵の侵入を防ぐ柵だ」


 今までの村は、外部からの侵入に対して無防備すぎた。

 その気になれば賊は、多方面から攻め込んでこられるであろう。

 そうなったらオレ一人だけでは、手に余る。


 だからオレは作り始めたのである。

 村を囲う防御用の柵を。


「この広い村の周りを、全部囲うだと⁉ 本気か、オードル⁉」

「ああ、本気だ。材料の丸太は森に腐るほどある。それに簡易的な柵だ。それほど難しい作業ではない」


 エリザベスが絶句しているが、今回作っている柵はそれほど複雑なものではない。

 丸太を組んで、作った簡易的な柵。

 だが山賊が相手なら、これで十分であろう。


 柵で防いでいる間に、時間さえ稼げればいい。

 その間に、槍とクロスボウで反撃の体勢を整える。

 これで村の防衛力は、更に強化されるであろう。


「いや、簡易的と言っているが、本気なのか、オードル? この村はかなり広いぞ⁉」

「全部を囲う必要はない。地形を利用して、最低限の防衛ラインを作るつもりだ」


 この辺境の村は、高低差がある地形。

 だから柵の設置個所は、最低限の侵入ルートを塞ぐだけでいい。

 崖や深い川の部分は、低い柵で大丈夫だ。


 数百本の丸太があれば大丈夫であろう。

 このペースでいけば10日もかからず完成する予定だ。


「たった一人で、そんなに大量にだと……。そんなことが出来るのは、大陸広しといえども、オードルぐらいだ……ああ、驚くのが馬鹿らしくなるくらいの、規格外の鬼神だな……」


 エリザベスが絶句している。

 だが今回はさすがにオレも、一人では重労働だ。


 そうだ。

 今度からはエリザベスに協力をしてもらおう。


 何しろ、この女騎士もかなり闘気術の使い手。

 丸太の数本は一気に運べるであろう。


「手伝うのはいいけど、私はオードルと違って、そこまで怪力じゃない! うら若き乙女なんだぞ!」


 言われてみれば、たしかそうかもしれんな。

 エリザベスの闘気術は、スピードに特化している。

 それに年頃の少女は、丸太を担ぎたくないのであろう。


「では、丸太を運ぶのはオレが行う。エリザベスは斧で木を切り倒す作業を、手伝ってくれ」

「その位ならお安いご用だ。うら若き乙女の私でも可能だな。この私に任せておけ!」


 斧で大木を切り倒すのは、剣の鍛錬にもなる。

 エリザベスの訓練になり、これまた一石二鳥だ。


 だがエリザベスは気が付いていない。

 普通のうら若き乙女は、斧の一撃で大木を切り倒せないぞ。


 まあ……その辺は突っ込まないでやろう。


 とにかく役割分担が決まった。

 エリザベスがドンドン木を切り倒して、丸太に加工する。


 それをオレが数本ずつ運んで、村の周囲に突き刺していく。

 ひたすら、この作業の繰り返しである。


「さあ、休憩も終わりだ。いくぞ」

「任せておけ、オードル!」


 こうしてオレたちは防衛の柵を作っていくのであった。



 それから数日が経つ。

 予定よりも早く、防御柵の設置作業は完了した。


「ふむ。想像以上にいい感じだな」


 完成した柵を眺めながら、オレは満足感に浸る。

 村の周囲を取り囲んだ柵は、予想以上の完成度であった。

 その様は傭兵時代の堅牢な砦を彷彿ほうふつさせる。


「オードル……これは、ちょっとやり過ぎではないか? 普通の村の防御柵ではないぞ」

「そうか、エリザベス? だが今後は、これをもっと改造して、強化していく予定だ」


 エリザベスは唖然としていたが、防衛の柵は更に改造していく

 今後は要所に、見張りやぐらを追加設置。

 村の入り口には、開閉式の門も接ししたい。


 また村の地形を使って、各所に罠も設置する予定だ。

 そのため作為的に、柵は弱い部分を作っていた。


 賊が来たら、そこから侵入しようとするであろう。

 そこを罠で一網打尽いちもうだじんにするのだ。


 その罠は初見では見破ることは不可能。

 外部の集団が攻め込んできたなら、人的被害を覚悟して欲しい。


「そこまで強化するのか……完成したら王国の砦並の堅牢だぞ、オードル⁉ 大丈夫なのか?」

「たしかに、エリザベスの指摘通りかもな」


 この村は予想以上に、守りの戦いに適した地形だった。

 今後は砦並の防衛力となるであろう。


「だがエリザベス。今回はちゃんと村の暮らしのことも、考えている。生活は今まで通り……いや、今まで以上に快適に暮らせるぞ?」


 村を取り囲む柵は、かなり余裕をもって設置している。

 柵の中には畑や小川、牛舎も中あるので、今まで通りに仕事できる。

 村の人口が増えた時にも、予備の土地も用意してあるもで。臨機応変に対応できる。


 ちなみに今回の柵の許可も、村長にも事前に許可は得ていた。

 むしろ『賊に怯えず、安心して暮らせます!』と、村人たちから感謝されたのだ。


「まあ、鬼神オードルのやることだ……私は驚くのは、もう止めにするよ。この村を陥落させるのには、数百の兵が必要になるかもな……」


 エリザベスは苦笑いをしながら、村の光景を眺めていた。

 腕利きの女騎士を感心させたことに、オレも満足な完成度である。



「わー、パパ! すごく大きいね! すごい!」


 そんな時、マリアが柵の近くにやってきた。

 完成した防御柵を、村の子どもたちと見学にきたのだ。


「これすごいね!」

「大きな木の壁だね!」


 子どもたちは巨大な防御柵の光景に、目を輝かせている。


「マリア、見に来たのか? だが見学したら、村の中心に戻るんだぞ」

「うん、わかった、パパ!」


 子供が成長するためには、好奇心は必須。

 だが自分の娘となると、どうしてもハラハラしてしまう。

 オレも心配性になったものだ。


「そうだ、マリア。マリアたちにもプレゼントがあるぞ」

「プレゼント? なに、パパ⁉」


 今回作ったのは防御柵だけはなかった。

 余った材木を使って、オレはある物を作っていたのだ。


「さあ、こっちの広場だ」


 マリアたち村の子どもたちを、村のある場所へと案内していく。


 これから見せるプレゼントは、今日の午後にオレがこっそり組み立てていた。

 だから、学校に行っていたマリアたちは、その存在に気が付いていない。


「さあ、これだ」


 目的地に着き、マリアたちに公開する。

 目の前には木材の建築物があった。


「えっ?」

「すごい! すごい、楽しそう!」

「これは、なに、パパ⁉」


 マリアたち子どもは、プレゼントを見て驚いていた。

 使い方が分からなくても子どもの本能として、楽しそうだと感じているのだ。


「これは遊具だ。子ども用なので、お前たち専用だ」


 オレが密かに作ってプレゼントは、数種類の木材の遊具だった。


ブランコや滑り台、ロープ上り、シーソー、丸太渡り、巨大ハンモックなど……子どもが大好きな木製の遊具である。

 

 大陸各地で見たことがある遊具を、オレが厳選した物ばかり。

 柵の余剰材木とロープで作っておいたのだ。


 もちろん子どもが使っても、安全なように加工している。

 木の枝や尖った部分を削って、丸みを帯びさせていた。


 これなら幼いマリアが使っても、怪我をすることはないであろう。


「すごい! すごい! ねえ、パパ。遊んでもいい?」

「ああ、もちろんだ。皆で仲良く遊ぶんだぞ」


 マリアは目を輝かせて、身体をうずうずさせていた。

 もちろん遊ぶのを許可する。


「やったー! みんな、あそぼう!」

「「「そうだね、マリアちゃん!」」」


 マリアの従って、子どもたちは遊具にダッシュしていく。

 遊び方は簡単である。

 初めて遊ぶ遊具を、誰もが楽しんでいた。


『ワン! ワン!』


 いつの間にかフェンも来ていた。

 子どもたちのはしゃぐ声に、釣られてきたのであろう。


「なんだ、フェン? お前も遊びたいのか? ああ、いいぞ」

『ワオーン!』


 許可を出すと大喜びで、フェンも遊具に駆けていく。

 上位魔獣の白魔狼でも、まだ幼い2歳。

 子ども心を全快にして、マリアたちと楽しそうに遊び始める。


“ごくり”


 隣の騎士の少女から、唾を飲み込む音が聞こえる。

 遊具で遊ぶマリアたちのことを、うらやましそうに見つめていた。


「なんだ、エリザベス? お前も遊具で遊びたいのか?」

「そ、そんな訳は、ないだろう、オードル⁉ わ、私は栄光あるレイモンド家の淑女のエリザベスだぞ……」


 その割には、本当に羨ましそうな顔をしている。

 よく考えたらエリザベスも、まだ16歳の少女。

 本来なら剣を振るわず、遊びたい盛り年頃なのであろう。


「ふう……それなら、エリザベス。遊具の安全の点検を、お前に頼んでもいいか?」

「安全の点検だと⁉ ああ、任せておけ! このエリザベス・レイモンドに任せておけ!」


 そう言い残すと、エリザベスはダッシュで遊具に駆けていく。

 満面の笑みで遊具の遊びを、満喫し始める。

 安全の点検のことを忘れるくらいに楽しんでいた。


 マリアやフェン、エリザベスと村の子どもたち。

 全員が本当に楽しそうに遊んでいた。


「やれやれ、騒がしくなったな……だが、こういう光景も悪くないな……」

 

 村に必要なのは防衛力だけはない。


 こうしてオレは皆の笑顔を見つめて、一日の疲れを癒すのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] エリザベスちゃん可愛い過ぎでしょ だが…そんな可愛い面も出し過ぎると…「お前はまだ子供だろ、結婚は早いんじゃないか?」とオードルに言われ易くもなるという諸刃の剣
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