アフターエピソード6:オードル傭兵団 vs 戦鬼オードル(後編)
現オードル傭兵団の力を試すため、オレは完全武装で砦を強襲。
砦の奥から姿を現したのは、巨漢の戦士タルカス。
まるで山のような体躯と、岩のような筋肉の半裸の戦士だ。
(タルカスか……昔よりも更に大きくなったか)
現れたのは大隊長の一人タルカスだった。
西方部族出身で団随一のパワーの持ち主。
巨大戦斧の凄腕の使い手だ。
「お前、何者だ?」
タルカスは距離を取りながら、こちらを牽制してきた。
この男はパワーファイターだが、力押ししか出来ない愚者ではない。
対峙したオレの力量を測りながら、こちらの隙を狙っているのだ。
「オレか? 敵だろう、この場合は」
「でも、お前“普通”でない。昔、団長言っていた。こういう相手、一番厄介だって」
今のオレは声色を使っている。顔も兜で見えない。
だがタルカスは明らかに危険な存在だと、こちらを警戒していた。
(ん? やるな、タルカス。時間稼ぎだったのか、今のは)
新たな気配が、この場に到着する。
タルカスは牽制しながら、時間を稼ぎしていたのだ。
「ん? 騒がしいと思って来てみたら~、相手はたった一人じゃん?」
オレの背後から姿を現したのは、一人の女。
ダルそうな口調な癖の女戦士だ。
(ミュー・ファンか……)
次に現れたのも大隊長の一人ミュー・ファン。
辺境の山岳地帯の少数民族で、カラフルな民族衣装を着込んでいる小柄な女だ。
ダル口調と見た目とは裏腹に、恐ろしい剣術の使い手だ。
「こんな相手に踏み込まれるなんて、どういうこと、タルカスちゃん? オードル団長が知ったら怒るわよ~?」
「油断するな、ミュー・ファン。こいつ普通じゃない。下手したら、大隊長より上の強さ」
「それって、どういうこと、タルカスちゃん? つまり“団長レベル”ってことなの~?」
「……それは、ない。オードル団長、特別だから」
雑談をしながらも、二人は間合いを詰めてきている。
見事なものだ。
こうして相手を油断させるのも、オードル傭兵団の戦い方。
オレがこいつらに徹底的に仕込んだ、対強敵用の戦法なのだ。
「いつまでお喋りしているつもりだ? 他の援軍が来るまでか? 団長だった“戦鬼オードル”とやらの“レベルの低さ”が、これで丸分かりだな」
オレはそんな二人を敢えて挑発。
オレの名を強調して侮辱する。
「こいつ⁉ 愛しの団長を愚弄するなんて、万死に値するんだからぁあ!」
「団長、侮辱、許さない!」
二人とも昔からオレの名を、大事にしていた。
怒りに任せて斬り込んでくる。
「殲!」
「砕!」
ミュー・ファンとタルカスが挟撃してくる。
怒りに身をかませたとはいえ、見事なタイミングの攻撃。
凄腕の戦士ですら防げない。
「最高だな、お前たち!」
だから攻撃をオレは防御しない。
二人の攻撃に向かって、自分の両手のハンマーで攻撃し返す。
そのまま一気に押し返していく。
「覇ぁあああああ!」
二人を吹き飛ばす。
嬉しさのあまり手加減を、忘れてしまうほどだ。
「くっ⁉ コイツ、予想以上にヤバイやつじゃん……でも!」
「うぐ……オラたち、負けない。団長のためにも!」
吹き飛んだミュー・ファンとタルカスは起き上がる。
もはや自分たちが敵わないことを、彼らも察している。
だが最後までオードル傭兵団として、果敢に戦おうとしているのだ。
「いい顔だな、お前たち!」
そんな果敢に二人の勇気に、オレの血が滾る。
戦士として魂が甦ったのだ。
さて、第二ラウンドに移るぞ。
ここ先はどう向かってくる?
「大丈夫ですか、タルカス殿!」
「我らが来たから、大丈夫でござるよ、ミュー・ファン殿!」
そんな時、二人の戦士が駆け付ける。
(ピエールとコサブローか……)
やって来たのは細身剣使いのピエールと、東方のサムライのコサブローの二人。
いや、二人だけはなかった。
「我らオードル傭兵団に単騎で攻め込んで来るとは、舐めたマネしやがって!」
「兄ちゃん、気を付けて。あの敵、普通じゃないよ」
続いて駆けつけてきたのは二人。
双剣使いのベラミーと、重戦士ルーニーの兄弟コンビだ。
「おい、お前たち。相手は一人じゃからって、油断はするんじゃないぞ!」
そして最後に駆けつけたのは、老剣士ジン。
八人いる大隊長のうち七人までが、この場に揃ったことになる。
「ジン殿の仰る通り。ここは全員でかかりましょう!」
「「「承知!」」」
ピエールの提案に従い、七人の大隊長が包囲陣を形成。
オレを中心にして隙なく包囲。
七人の刃先から凄まじい殺気が、オレに向けられる。
「七人同時か……面白い!」
取り囲まれながらも、思わず笑みを浮かべてしまう。
団長時代だった時ですら、この七人と同時に相手したことはない。
しかも当時から、コイツらも腕を上げている。
これから始まる激闘を想像しただけで、全身に血が湧きたつのだ。
「ちょっと! オレっちのことを、忘れてもらったら困るし!」
その時、八人目の援軍が登場。
大陸有数の隠密術の使い手であるロキだ。
これで実質、“大隊長クラス”八人に取り囲まれたことになる。
こうなったら無傷で脱出することは不可能。
力づくでもコイツ等をねじ伏せるしかないのだ。
「皆の衆! ロキ殿が来てくれたから、八人で“アレ”をするでござる!」
「そうじゃのう、コサブロー。アレでいくぞ、お前ら!」
東方の侍コサブローの声に反応して、老剣士ジンが動く。
「対“団長クラス用”の必殺技ね……やってやろうじゃん!」
「オラ、本気でいくど!」
同じくミュー・ファンとタルカスも連動して動く。
そして残るピエールとベラミー、ルーニーの三人も動いていく。
“対オレ強さの持つ敵用の必殺技”だと?
どんな強力な一撃がくるのか。楽しみ過ぎて興奮が止まらない。
「…………」
相手の陣形的に、最初に攻撃を仕掛けてくるのはロキだ。
無言でこちらを見つめている。
おそらくは八人同時による連携攻撃……いや、全方位からの一斉攻撃であろう。
さぁ、こいロキ。
お前たちの今の全力を、オレにぶつけてこい!
「……ねぇ、みんな。この侵入者って……団長じゃない?」
だがロキは先陣をきることはなかった。
オレの方を指差してくる。
「「「なっ⁉」」」
他の七人の動きも、ピタリと止まる。
全員が目を見開いて凝視してきた。
――――完全にバレしまったのだ。
ふう。
こうなったら知らないふりをするのは不可能。
「やれやれ……“解除”」
武装を解除。
素顔を晒した状態に戻る。
「「「団長!」」」
団員たちの叫び声が、砦中に響き渡る。
次の瞬間、武器を投げ捨てた大隊長たちが、オレの元に駆け込んでくる。
戦士たちが並のように、押し寄せてきたのだ。
「団長!」
「団長!」
中でも特に大変なのは、タルカスとルーニーの抱きつき。
巨漢の戦士の二人に挟まれて、オレはサンドイッチ状態だ。
「ちょっと、そこのデカブツ、二匹、そこをどきなさい! アタイと団長ちゃんの感動の再会をじゃまするな~!」
更にその二人にミュー・ファンの蹴り攻撃が加わる。
特にタルカスとミュー・ファンは前回のバーモンド領で、オレに再会していない。
その置いてかれた分だけ、感動の押し寄せが凄いのだ。
「「「団長!」」」
「「「団長!」」」
それ以外にも砦にいた数百人の団員が、押し寄せてきた。
オレの周囲はとんでもない状況になる。
「はっはっは……お前ら、少し落ち着け。オレは今日ここに世話になる。ゆっくりと話を聞いてやる」
タルカスとミュー・ファン以外にも、一般の団員はオレとは、約三年ぶりの再開。
押し寄せてくる団員の顔からして、誰もが積もる話があるのであろう。
今宵は酒でも飲みながら、ゆっくりと話を聞いてやる予定だ。
そうだ、エリザベスも呼んで来ないとな。
「さて、誰から話を聞いたものか……」
こうしてオレは昔の部下たちとの再会を、楽しむもことにした。




