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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【最終章】

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第113話:魔女のもくろみ

 マリアとニースを助け出すために、天空に浮かぶ遺跡に潜入。


 屋敷の奥の不気味な迷宮を、全員の力で突破していく。

 突破した先にあったのは、古代の神殿のような空洞。


 そこで待ちかまえていたのは黒髪の魔女。

 魔女の口から出てきたのは、衝撃的な内容。


 “マリアの産みの母親は黒髪の魔女”だったという事実だ。


「そ、そんな……こいつが、マリアの実の母親だなんて……⁉」


 一番衝撃を受けていたのはエリザベスであった。

 まさかの事実に顔面蒼白。

 言葉を失っている。


「マリアちゃんの母親が、古代の魔女か……でもマリアちゃんの髪の毛の遺伝から推測するに、やっぱり父親はオードルなのか?」


 リッチモンドは恐る恐る魔女に訊ねる。

 恐怖もあるが、学者としての探求心が抑えられないのであろう。


『そうね。たしかに“父親”……生物しての男親は、そこの戦鬼よ』


 リッチモンドの仮説は当たっていた。

 マリアと実の親子であった……オレ個人的には嬉しい事実。


 だが一つだけ大きな矛盾もある。


「黒髪の魔女よ、オレはお前と会ったことがないぞ?」


 子どもを授かる原理を、今のオレは知っていた。

 子は……男女が肌で結ばれた後、幸運が重なり、十月十日後に授かることがあるのだ。


 だが目の前の黒髪の女のことは、今まで一度も見たことがない。

 つまり魔女と会ったことがないオレは、父親になることは出来ない。


 かなり大きな矛盾である。


『古代文明では子孫を増やすために、男女で生殖行為をする必要はないわ。必要なのは女性の肉体と、男の体液だけで大丈夫。今回のケースは戦鬼、あなたの血液が手に入れて、“この身体”を使ってマリアを体内で作ったのよ』


「なるほどな。難しい話は分からないがようは、『お前はオレの血を勝手に使って、マリアを産んだ』ということか?」


 勝手に自由に子供を作れるか……古代文明は今とは別次元の文明度なのであろうか。


『簡単に説明すると、そう。生物学的に「マリアの男親は戦鬼、女親はこの身体」ということになるわ』


 魔女は淡々と答えてくる。

 相変わらずその言葉には、一切の感情が籠っていない。


 母親としての……いや、人としての感情が欠落しているのだ。


「えーと、リッチモンド先生。つまり、オードルは、あの魔女とは手も握ったこともないってこと……?」


「そうですね、エリザベスさん」


「よ、よかった……つまりオードルはマリアの本当の父親だけど……でも、この魔女とは愛し合っていなかったのね!」


 後ろで何やらエリザベスが喜んでいる。

 急に元気を取り戻し、飛び跳ねていた。


「なるほどな。最後にもう一つ質問だ、黒髪の魔女。なぜオレの血を選んだ? 他の者でも良かったのではないか?」


 これは個人的な疑問だ。


 何故ならオレは何の血統もない捨て子。

 誇れるもモノといえば戦うことだけ。


 だが戦いに長けた者など、大陸にはオレ以外にも多く存在する。

 それなのに何故、オレの血を選らんだのであろうか?


『特別な存在よ。貴女は “稀代なる王”の血を受け継ぐ者。だから鍵の生み主の片親として選んだ』


「なんだと? つまりオレが“稀代なる王”の血筋だというのか?」


『そう。栄光を誇った古代文明の頂点に立つ王、その血筋である魂を引き継ぐ者の一人』


 とんでもない答えが返ってきた。

 まさか大昔の古代の王の血を、このオレが引いていたとはな。


「オードルが古代文明の王の血筋って……でも、たしかにカッコイイし、王者の風格があるから、不思議じゃないかもね」


「そうですね。やはりオードル様は特別な存在。生まれ持っての覇者の資質を、もっておられたのですね」


 魔女の話を聞いて、エリザベスとリリィは何やら盛り上がっている。

 緊張感はあるのだろうが、何かの嬉しさが勝っているのかもしれない。


「ふふふ……古代文明の王なる者とは、さすがはオードルさん! 私が認めた唯一無二の存在です!」


 それ以上に隣のガラハッドは興奮している。

 魔女を警戒しながらも、オレに恍惚こうこつな視線を向けてくる。


 まったく、こいつらときたら。


「待ってくれ、黒髪の魔女よ。それならニースちゃんも、オードルとの子どもなのか?」


 一人だけ冷静なのはリッチモンド。

 自分の仮説を恐れずに魔女にぶつけていく。


『ニース……あれ違う。アレは鍵の代用品として、マリアから複製したモノ』


「なんだって、マリアちゃんからの複製を⁉ 古代文明にはそんな高い技術があったのか⁉」


『先ほども説明したけど、古代文明では男女による繁殖活動は無意味。クローン複製も可能。でも結局のところ鍵の複製には失敗。アレは髪の毛に魔力を生み出せるだけの奇作だったわ』


 なるほど、そういうことか。

 二人のやり取りを聞いて、何となく分かった。


 ニースがマリアと、あそこまで酷似している理由が。

 そしてニースの髪の毛に不思議な力があったことも。


「それでもニースはお前の子どもだろ? 失敗作だからといって捨てたのか? 可哀想だとは思わなかったのか?」


 出会った時、ニースは悲しそうに口にしていた。

 冷たい母親に捨てられたと。


 彼女は真っ暗な王都の地下水路で、隠れるように暮らしていた。

 ニースはまだ幼い子ども。

 親に捨てられて、どれほど寂しかったか、想像もつかない。


『「可哀想」? それは知らない感情ね』


 魔女は何の反応もなかった。

 こいつには人としての感情が欠落しているのだ。


『最終的に人の感情は不要なもの。私の目的は一つだけ。この空中庭園と大陸各地の“真の遺跡”を再起動すること。起動するためには“鍵”が必要だった。だから数年前に“稀代なる王”の魂の後継者である戦鬼を見つけ、その血を入手。この身体を使って“鍵”であるマリアを産み出しただけ。説明は以上よ』


 黒髪の魔女は自分の目的を、淡々と説明してくる。

 理論的に聞いていると、おかしいところはない。


 この黒髪の魔女は自分の目的のために、ひたすら行動してきたのだ。


「たしかに方法論としては間違っていない。でも……」


 そんな魔女に向かって、疑問を投げかける者がいた。


「でも、どうしても解けない、一つだけ疑問がある。なぜ大事な鍵であるマリアちゃんのことを、オードルに所によこしたんだ? 彼女は鍵として、成功していたんじゃないのか?」


 学者的な見解でリッチモンドは、疑問を口にする。


 たしかにその疑問は、オレの中にも浮かんでいた。

 先ほどの魔女の説明では、必要なのはオレの血筋だけ。

 生まれた後は。男親は必要ないはずだ。


『“鍵”マリアはたしかに成功品だった。でも、何故か鍵として起動はしなかった。そこで私は文献を調査して、理由を解明した。マリアに足りなかったのは“鍵”としての知性と感情だったのよ』


「知能と感情だと?」


 思わずオレは聞き返す。

 魔女の説明していた古代文明とは、まるで別の次元の単語だ。


『ええ。古代文明では感情は不必要なもの。でも“鍵”だけには、何故か必要だったのよ』


 なるほど、そういうことか。

 数年前、魔女は鍵としてのマリアを産むことに成功した。

 だが感情のない魔女は、マリアに感情を教えることは不可能。


 だからマリアが五歳の時に……父親であるオレの前に、マリアを置いていったのであろう。


 あの時は急にマリアに出会って驚いた。

 だが魔女の不思議な術さえあれば、村の前に幼子を置くなど、簡単な芸当なのだ。


『あと文献には“鍵”には「ラマ」も必要と書いてあった』


「『ラマ』だと?」


『この時代の言葉で説明するなら……「愛情ラマ」。これも私にはない感情。だからマリアの記憶を薄めて、戦鬼オードルが父親であると刷り込み、男親である戦鬼に託したのよ』


 愛情が必要か……。

 たしかにこの魔女には、愛情を伝えることなど絶対に不可能。


 何しろ自分が腹を痛めて産んだマリアのことを、作品呼ばわりしているのだ。


「なるほど、そういうことだったのか……」


 黒髪の魔女の話を聞いて、今までの疑問が全て解けた。


 なぜ帰郷したオレの目の前に、突然マリアが現れたのか?


 記憶がないのにも関わらず、初対面のオレのことを『パパ』と呼んできたのか?


 全ての魔女の仕業だったのだ。


 またマリアの学力が異様に高いのも、鍵の影響があったのであろう。


 まぁ、髪の毛の色と身体能力の高さは、たぶんオレの方……父親譲りだろう。


(マリア……マリア……)


 色んな衝撃があった。

 かなり胸糞が悪くなることが多い。


(マリアは、オレの本当の娘だった……)


 だが一つだけ嬉しいこと。

 親子のことだけは真実だった。

 それだけ少しは胸が軽くなる。


 今まで以上にマリアのことが、実の娘として愛おしくなった。


「さて、マリアのことはだいたい分かった。最後の質問をする。黒髪の魔女、お前の正体は……いや、“その身体の持ち主”は何者なのだ?」


 これは最初に対面した時から、疑問に思っていたこと。

 何故なら魔女は自分の身体のことを、『この身体』と何度も指していた。

 つまり肉体と精神が別の可能性が大きいのだ。


『鋭いわね、戦鬼。この時代の言葉で、“私”を説明するのは難しい。あえて説明するなら“古代文明の意識”とでも呼びましょうか』


「“古代文明の意識”だと?」


『ええ、そう。今よりも高度な文明を築いていたのに、ある日突然滅んでしまった古代の文明……その残存意思かしら』


「なるほど。“怨念”みたいなものか。それなら、その黒髪の身体は何なのだ? まさか古代時代から生きているのではないだろう?」


 怨念には肉体は存在しない。

 何か秘密があるはずなのだ。


『“この身体”は今の時代の女の意思を、乗っ取って使っているだけよ』


「今の時代の女だと?」


『そうよ。具体的に、あれは九年と二十日ほど前のこと。この黒髪の女が埋没していた古代遺跡の中から“私”を拾った。その時に乗っ取って、今に至るわ』


 魔女は“私”と言いながら、自分の胸元のネックレスを指差す。


 つまり、あのネックレスが“私”であり魔女の本体なのであろう。


 おそらく乗っ取られた黒髪の女は、遺跡を探索するハンターあたりであろう。

 九年前にどこかの古代遺跡を探索した。

 その時に発見したネックレスを手に取り、そのまま意思を魔女に乗っ取られてしまったのだ。


 だから魔女に感情がない口調なのであろう。

 黒髪の女はネックレスの意思のよって、喋らされているだけなのだ。


「お前の話はだいたい分かった。ではオレの要望を、もう一度伝える。マリアとニースを返してもらおうか。それ以外では、お前には干渉するつもりはない」


 古代文明の意志が何をしようが問題ない。

 オレは大事なマリアたちを助けるのが目的なのだ。


『それは不可能よ、戦鬼。何故なら浮遊庭園は既に起動しようとしている。つまり“鍵”であるマリアは返せない』


 黒髪の魔女が空洞の先を指差す。

 先にあったのは巨大な柱。


 その上の一部がめくれて、人影が現れる。


「マリア⁉」


「ニース様⁉」


 エリザベスとリリィが悲痛な叫びを上げる。

 柱に埋まっているのは、銀髪の少女マリアであった。

 隣にはニースの姿もある。


 二人とも何かの装置を頭に取り付けられ、意識はない。

 あまりにも痛々しい姿だ。


『“鍵”は未来永劫、あそこから出ることはない。つまり返すことはできない。これが答えよ戦鬼』


「そうか、交渉決裂だな。それならマリアたちを返してもらおうか……力づくでも取り返していやる!」


 大事な家族を取り戻すため。


 こうしてオレは黒髪の魔女に挑むのであった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ん?黒髪の子勝手に子供を産まされたのか…… [一言] 身体は乗っ取られるは、一児のママにされるは不憫だ
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