第108話:同行者
マリアとニースを救出するために、天空遺跡へと向かう。
そんなオレたちに剣聖ガラハッドが同行を申し出てきたのだ。
「あの魔女に恨みでもあるのか?」
「恨みなどはありませんが、あの魔女は私とオードルさんの間を遮る邪魔な存在。なので排除したいだけです」
ガラハッドは嘘を言っているように見えない。おそらく本当に魔女を排除しただけなのであろう。
「わかった。だが邪魔だけはするなよ、ガラハッド」
「ふっふふ……許可していただきありがとうございます」
天空遺跡までの同行を許可する。
「それなら仕切り直しだ。みんな、いくよ!」
リッチモンドが装置を起動する。
次の瞬間オレたちは眩しい光に包まれた。
かなり不思議な光だが、怪しい悪意は感じられない。
「転移スタート!」
◇
眩しい光が更に強くなった……。
そう思った次の瞬間、光は消えてしまう。
「おぉおお! 転移成功だよ、オードル! 我々は人類で初めて古代文明の転移を体験したんだよ!」
リッチモンドが叫ぶように転移は成功していた。
オレたちは先ほどとは違う部屋に瞬時に移動していたのだ。
「油断はするな。どこに魔女の罠があるかもしれん」
一人で興奮するリッチモンドをおいて、オレたちは部屋の中を警戒する。
「とりあえずは大丈夫そうね、オードル?」
「そうだな。だが油断せずに進むぞ」
周囲に魔女やマリアたちの気配は感じられない。別の場所にいるのであろう。
オレたちは部屋のから慎重に外に出ていく。
「これは……空中庭園?」
「私たち本当に空の上に来たのですね……」
外に出てエリザベスとリリィが言葉を失う。自分たちの周囲には白い雲が飛んでいる。つまり山よりも高い空の上に立っているのだ。
「これは凄い! 巨大な地面ごと遺跡に空中に浮いているのか⁉ 凄すぎてボクには原理すら理解できない! でも凄いことは確かだよ、オードル!」
リッチモンドの言葉の通り、オレたちの立つ場所は空中に浮かぶ大地なのであろう。
周囲を見渡すと、遥か遠くに大陸の山脈が眼下に見える。位置的に塔の上空なのであろう。
「お前たち体調は大丈夫か? 目まいや吐き気は?」
高い山に登ると高山病にかかる者がいる。ここは山脈よりも更に高い上空。全員の体調を確かめる。
「ボクも平気だよ、オードル。もしかしたら遺跡は人が住めるようになっているのかもね?」
「そうだな。気温もちょうどいいし、面白い技術だな」
高山病も低温度も発生しない空の上。改めて古代の文明の高さに認識する。
「オードル様、マリア様とニース様の気配を……あの建物の上から感じます」
リリィは聖女の力で感知をしてくれた。遠目に見える古代の建物から、二人の力を感じるという。
「あれは古代の館かな、オードル? 初めてみる形だけど!」
「そうだな。形状からいって城とは違うな。とにかく向かうぞ」
マリアたちの居場所は判明した。隊列を組んで移動していく。
先頭はオレとガラハッドの、戦闘力が高い二人。
後方はフェンとエリザベス。中盤がリリィとリッチモンドの非戦闘員の二人だ。
「ふっふふ……こうしてオードルさんと肩を並べて歩き日がくるとは、人生何があるか分からないものですね」
「そうだな。『昨日の友は今日の敵』の逆だな」
正確にはリッチモンドのことは敵視していない。だが戦士としていつかは決着をつけなければいけない仲なのだ。
「ちなみにオードルさん、“黒髪の魔女”と剣を交えたことは?」
「オレはない」
「そうでしたか。あの魔女はオードルさんのことを警戒していました。だから姿を現さないようにしていたのでしょう」
以前に聞いた話では、ガラハッドは魔女に二度会っている。
一度目は今から約一年前、オレがルーダの街に住んで数ヶ月した頃。
その時は『ルイ国王の側にいれば、戦鬼オードルに必ず会える』という類の怪しげな言葉で唆されていたという。
「エリザベスさんたちから聞いているかと思いますが、あの魔女には普通の攻撃や闘気術の斬撃は通じません……私クラスでも普通の攻撃では傷すらつけられません」
驚いたことにガラハッドは二度目に合った時、魔女と戦っていたという。時期はオレがルーダの街から引っ越した後。
ルーダ学園に潜入してきた魔女から、リッチモンドを助けるために剣聖は待ちかまえていたのだ。
「だからリッチモンドとお前は顔見知りだったのか」
「そうですね。リッチモンドさんとは魔女を対抗するために手を結んでいたのです」
詳しい話は知らないが、リッチモンドは古代文明を研究することで魔女に目を付けられた。
一方ではガラハッドは邪魔な魔女を排除したい。
その両者の目的が繋がって、オレの知らないところで繋がっていたのであろう。
「そういえばリッチモンドさん。魔女の力を弱める研究は進んでいましたか?」
「その件なんだけど、今のところコレしかないんだ、ガラハッド」
魔女には普通の攻撃は通じない。そのためリッチモンドはくつかの古代文明の遺物を持ち歩いていた。
何でも一時的だが魔女の力を弱める効果がある指輪だという。
「とりあえず二つしかないから、二人に渡しておくね。使う時は軽く念じるだけで大丈夫だったはず」
不思議な形の指輪をリッチモンドから受け取る。たしかに軽く念じるだけで、何かの力が周囲に広がっていく。
「ねぇ、リッチモンド先生。その指輪があったら私やフェンでも魔女と戦えるってこと? 他にないの?」
『ワン⁉』
前回の戦いでエリザベスとフェンは、魔女に苦汁を飲まされた。だから二人とも次の戦いでリベンジをしたいのであろう。
「止めておけ、エリザベス、フェン。たとえ指輪があっても、今のお前たちでは魔女には刃は届かない」
「くっ……悔しいけど、そうね」
『ワン……』
意気込む二人を嗜める。たしかに戦闘力においてエリザベスたちは急成長している。
だが今の段階では危険が大きいのだ。
「オードル様、館が近づいてきました」
聖女の力でリリィが前方を探る。あと少しで館の入り口に到着するのだ。
「見えて、オードル! 館が見えてきたわ!」
庭園が開けた先に芝生が広がっていた。その先に見えた屋敷にエリザベスは声を上げる。あの中にマリアとニースがいるはずなのだ。
思わずエリザベスはフェンと駆け出しそうになる。
「待て、二人とも! 何か……いる」
そんな二人を制止する。すぐ先に何か嫌な感じがするのだ。
「たしかにそうですね、オードルさん。でも、これは魔女はなく、人の気配でもありませんね?」
「そうだな。何がいるのだ?」
ガラハッドだけが同じく警戒していた。だが何がいるのかオレたちですら認知できない。
魔女でも人でも魔獣でもない。何か危険な存在が待ちかまえているのだ。
「オードル様……あの石壁の中から……」
リリィは聖女の力で何かを感知。芝生の囲う石壁から、嫌な気配を感知したという。
「見て、オードル! 石壁が動き出したわ!」
『ワン! ワン!』
次の瞬間。石壁が動きだし大きく開く。
そして中から巨大な人型の何かが出てきた。
「あれは……鉄の兵士? それにしては大きすぎるな」
「そうですね。私の見たところ、巨躯であるオードルさんの三倍はあります」
鉄の鎧を着込んで兵士は、異様なまでの大きさ。大陸一の巨躯を誇る西方の蛮族ですら、あれの半分もない。
つまり中身は人が着こんでいるのではない。
「あ、あれは、まさか……“パルマの機械兵”⁉」
「知っているのか、リッチモンド?」
突然声をあげたリッチモンドは古代文明の研究者。どうやら文献で知っているのだ。
「古代文明の文献に出ていた姿なんだけど……あれ一体で……蛮族の国を一つ滅ぼした……という記録があったんだ……」
なるほど古代文明の力で動く兵士なのか。それなら気配を感じないのも無理はない。
「み、見て、オードル! 石壁の中から!」
『ワン!』
石壁の中から二体目が出てきた。巨体のわりには動きも速く、こちらに剣先を向けてきた。
「どうやら、アレを倒さないと、館には行けないみたいだな」
こうして危険な“パルマの機械兵”と対峙するのであった。




