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第105話:襲来

 帝国軍と王国軍は、完全に撤退していった。

 魔女のよって仕組まれた戦を、未然に防ぐことが出来たのだ。


「さて、戻るとするか」


 マリアたちの待つ馬車のところに、戻ることにした。


「帰ったぞ、マリア」


「パパ、おかえりなさい! 無事でよかった!」


 到着した途端、マリアが抱きついてきた。

 よほど心配していたのであろう。目には涙が浮かんでいた。


「もちろん無事だ。オレは強いから、心配は無用だ」


「そうだね! マリアのパパは世界一だね!」


 いつもの力こぶを見せてやると、マリアに笑顔が戻る。

 泣き顔も可愛いが、やはり笑顔の方が何倍も良い。


「オードル、せかいち」


「そうだね、世界一だね!」


 ニースと楽しそうに真似している。

 馬車の周囲は明るい雰囲気だ。


「オードル、お疲れ様」

「ああ、エリザベスたちも、よく動いてくれたな」


 両軍で工作をしていた、王国軍にいたエリザベスとリリィ。

 帝国軍のリッチモンドとロキの、二班も戻って来ていた。


 特にトラブルが起きた様子もなく、全員が無事だ。


「ところで、オードル……さっきの塔の崩壊って……」


「ああ、そうだ。この剣でぶった斬った」


 今回のことの説明を、エリザベスたちにしていく。


 塔の装置の停止に向かおうとしたら、剣聖ガラハッドが待ちかまえていたこと。


 ちょうど愛剣があったので、そのまま遺跡の塔を破壊したことを。


「やっぱり、そうだったのね。『さすがはオードル!』って言いたいところだけど、今回のアレは流石に、私も言葉がないわ……」


 完全に瓦礫と化した塔。

 遠目で見ながら、エリザベスは言葉を失っている。


「遺跡を破壊できたことか? 少し硬かったが、相手は動かない建造物だったからな」


「少し硬かった、って……普通は人はあんな巨大な塔を、一人で破壊できないわよ!」


「そうか? だが今回はこの愛剣があったからな。普通の剣では、オレでも無理だった。運が良かった」


「そもそも、そんな巨大な大剣を、振り回せるのが異常なのよ、オードルは!」


「そうか? たしかのこの大剣は破壊力がありすぎるからな」


 たしかにエリザベスの指摘にも、正しい部分がある。


 オレの愛剣は尋常ではない超重量。

 だが、その分だけ破壊力も尋常ではない。


 ゆえに傭兵時代でも、オレは普段は控えていた。

 攻城戦や地形破壊など、いざという時にしか使っていかなった代物なのだ。


「まぁ、オレっちは団長大剣の凄さは知っていたけど、今回のアレは流石にビビったかなー」


「そうですね、ロキ。あなたの話では、あの塔はハンマーも通らない、特殊な強固な素材で作られていたとか。さすがは団長殿……としか言いようがありませんね」


 傭兵時代の仲間であるロキとピエールも、半ば呆れかえっている。


 ピエールが言うように、たしかに遺跡の塔は普通ではない固さであった。

 オレも愛剣が無ければ、あそこまで完璧には真っ二つに斬れなかったであろう。


「はっはっは……まさか古代の塔を真っ二つとは……でも、お蔭でボクも諦めがついて、スッキリしたよ、オードル」


 リッチモンドの本職は古代遺跡の研究者。

 本当は大陸でも類を見ない塔を、もっと調査したかったのであろう。


 だが無益な戦を回避できた。

 リッチモンドは清々しい顔をしている。


「たしかにオードル様の英断で、多くの命を救うことが出来ました。本当の英雄とはまさに、このような方のことを示すのでしょう」


 無益な戦を回避できたことで、リリィも喜んでいた。

 仕える天神に祈りを捧げていた。


 こちらこそ、全員には感謝する。

 皆のお蔭で作戦が上手くいったのだ。


『ワン!』


 おっと、フェンのことを忘れていたな。

 今回フェンは大活躍してくれた。


 戦場にいた両軍の兵士に、オレの念話を仲介して伝えてくれた。

 お蔭で戦鬼としての威圧が、効果的に発揮。

 両軍はしばらく恐怖で、戦など出来ない状態だろう。


 そう考えるとフェンは功労賞。

 王都に還ったら、好きなだけご馳走してやるぞ。


『ワン!』


 なんだと、『客が来ている』だと?


 こんな辺地な地に、いった誰が?


 ああ、そうか。

 そうだったな。


 フェンの視線の先から、一人の男が近づいてくる。


「ふふふ……オードルさん、こんにちはです」


「ガラハッドか。そういえば忘れていたな」


 やって来たのはガラハッド。

 先ほどまで対峙していた剣聖。


「剣聖ガラハッド卿⁉ なぜ、こんなところに⁉」


「ちっ……あいつは⁉」


「まさかの剣聖殿ですと⁉」


 エリザベスとロキ、ピエールは剣を構える。


 何故ならガラハッドは、オレの命を狙っている存在。

 危険な剣聖の登場によって、空気は一変して緊張が走る。


「お前たち、大丈夫だ。こういった場では、この男は剣を抜かない」


「さすがオードルさん。私のことよくご存知で」


 ガラハッドは戦いに生きる危険な男。

 だが独特の美学があり、他人を巻き込んで、特に弱者を巻きこんで戦うことはない。


「そしてオードルさんの先の一撃……アレは本当にお見事でした。まさか私の斬り払いを踏み台にするとは、予想もできませんでした」


「あの時は戦場を収めるのが、最優先だったからな。協力に感謝する、ガラハッド」


 オレの一人の跳躍力では、あそこまで空高く飛ぶことは出来なかった。

 塔を一撃で斬りさく破壊力も、生み出すことも。


 先ほどの古代遺跡の破壊は、まさにオレとガラハッドとの合体技ともいえよう。


「なるほど、私とオードルさんの合体技ですか。それは私も誉れ高い。ふっふふ……」


 何やらガラハッドは満足そうだった。

 何かがこの男の琴線きんせんに触れていたのであろう。


「ですが忘れていけませんせよ、オードルさん。先ほどの戦いは、まだ終わっていませんよね? 『お前との勝負は後だ』との約束を?」


「そうだったな。お前との勝負が残っていたな」


 ガラハッドの言葉に嘘はない。

 たしかに決着の約束はしていた。

 オレは一人の戦士として、決着をつけないといけないのだ。


「今から剣聖と決闘を⁉ でもオードルの力が……」


 エリザベスは心配していた。

 何しろ莫大な闘気を放出して、オレは塔を破壊していた。

 普通に考えたら、すぐに戦える状況ではないのだ


「大丈夫だ、エリザベス。あの程度では問題ない」


 オレの闘気は十分に残っていた。

 たしかに塔の破壊に、多少の闘気は消費。


 だが闘気の質は高い。

 むしろ剣聖との本気の戦いを前にして、更に燃え上っていたのだ。


「さすがはオードルさん。そうでなくては私も面白くありません!」


 一方でガラハッドの闘気も高い。

 むしろ先ほど対峙した時よりも、更に高まっている。


 塔を破壊したオレの姿を見て、剣聖の更なる力が解放されているのであろう。


「それなら場所をあっちに移すぞ」


「分かりました、オードルさん」


 二人の戦いは、かつてない激闘になるであろう。

 剣技と剣技のぶつかり合い。

 闘気と斬撃の応酬。


 マリアたちの安全を考えて、遠く離れた場所を提案する。


「マリア、少し行ってくる。帰還の準備をしておくんだぞ」


「うん、わかった! パパ、頑張ってね!」


 マリアはオレの勝利を信じてくれている。

 場所を移す前に、最後にマリアの頭を撫でてやる。


「ん? 熱があるのか、マリア?」


「ちょっとだけ頭がクラクラするけど……マリアは元気だよ!」


「そうか。早めに帰ってくる」


 王都から今回は長旅だった。

 幼いマリアは疲労が溜まっていたのであろう。

 ガラハッドとの戦いが終わったら、みんなで一緒にゆっくり休まないとな。


「さて、いくとするか」


 剣聖ガラハッドと最後の勝負をつけるため。

 オレは決闘の場所へと移動するのであった。


 ◇


 馬車からけっこう離れた場所。

 誰もいない盆地に、オレはガラハッドと移動してきた。


「さて、この辺でいいだろう?」


「そうですね。ここなら誰にも邪魔されないですね、オードルさん」


 マリアたちからかなり距離が離れた。

 周囲にも他の気配もない。

 ここならガラハッドと激しい戦いをしても、他人に被害は出ないであろう。


「さて、仕切り直しといくか、ガラハッド!」


 オレは愛剣を構える。

 普段は対人には使わない大剣。


 だが今の相手は普通ではない。

 大陸でも最強の男、剣聖ガラハッドなのだ。


「こちらこそ感謝いたします、オードルさん!」


 対するガラハッドが構えるのは、怪しげな長剣。

 間違いなく魔剣の類。


 どんな能力を秘めているのか予想もできない。

 だが普通の剣ではない。

 塔を破壊するために跳躍した時。

 斬り払いをガードしただけで、その危険性は体感していた。


 抜剣したオレは、間合いを測り合う。

 闘気をぶつけ合い、ガラハッドの正面から向かい合う。


(剣聖ガラハッドか……こうして改めて向き合うと、かなり腕を上げているな)


 数ヶ月前のルーダ砦の時とは別人のように、剣聖は腕を上げている。

 こちらに愛剣があるとはいえ、決して油断はできない相手。


(スピードと剣技は向こうが上か……こちらが勝っているのは力と反応速度、あと耐久性といったところか……)


 対峙しながら相手の力量を測る。


 天才的な剣士スタイルのガラハッド。

 実戦で磨かれてきた傭兵スタイルなオレ。


 互いの戦い方は全く違い、実力は一長一短。

 どちらが勝つか、優れているか、甲乙はオレにも付けがたい。


 だからこそ最高の相手。

 今回の戦いは、予想以上に長引きそうな予感がする。


(マリアの体調は心配だが、今は目の前の相手に集中しないとな……)


 いつもとは違い、今回の相手は片手間で勝てる相手ではない。

 オレは全神経を、対峙する相手に向ける。


 ガラハッドと何度も闘気をぶつけ合う。

 相手の一瞬の隙すら見逃さないように集中する。


「ふふふ……さすがオードルさん。こうして向き合っているだけで、私は天にも昇る絶頂です!」


 ガラハッドはいつもの不敵な笑みを浮かべている。


 だが一切の隙は見せてこない。

 オレと同じく全神経をこちらに向けていた。


(さて……どう動くか⁉)


 向き合いながら、牽制しあう。

 互いに一歩も動いていない。


 だが精神力と闘気の消費量は半端ない。

 ギリギリの見えない攻防が続いていく。


(さて、いよいよ……くるか……)


 だがガラハッドに変化が見える。

 先ほど以上に闘気を集約。


 勝負を仕掛けてくるのであろう。


「ふふふ……さて、いきますよ、オードルさん!」


 ガラハッドは上段の構えに移る。

 ゆっくりと近づいてく。

 隙がありそうで、全くない動きだ。


「ああ、ガラハッド。こちらもいくぞ」


 オレも大剣を構えながら前進していく。

 ゆっくりと間合いを詰めていく。


 そして間が詰まる。

 互いの攻撃の射程圏内ギリギリ。


 ついに剣聖ガラハッドとの激闘が、幕を上がろうとしていたのだ。


(さぁ、いくぞ! ……ん? なんだ、これは⁉)


 そんな時であった。

 オレの背筋に嫌な汗が流れる。


 戦鬼としての警報が、最大級に警鐘を鳴らし始めたのだ。


(さまか、これは……!?)


 次の瞬間だった。


 遠くで爆炎が起きあがる。


「あの方角は……マリアたちの⁉」


 異変が起きたのは、馬車のある場所。


 何かの事件が起きたのか?



「オードルさん、あれは?」


 ガラハッドは構えを解く。

 おそらくこの男も感じたのであろう。先ほどの嫌な感じを。


 《オ、オードル、大変だよ!》


 直後、フェンから念話が入る。

 かなり焦った様子だ。


 《どうした、フェン?》


 《大変だよ、オードル! いきなり女の人が……“魔女”って奴が現れて、みんなが倒されてちゃって……マリアとニースが魔女にさらわれちゃったんだ!》


 まさかの事件だった。


 オレがいない隙を狙われ、マリアとニースが、魔女に浚われてしまったのだ。


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