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第104話:戦の仕上げ

 剣聖ガラハッドとの連携?でオレは天空に舞い上がり、古代遺跡の塔を愛剣で真っ二つに斬り裂いた。


 巨大な塔は大きな崩壊音と共に、左右に崩れ落ちていく。


「全員退避だ!」

「退避しろ!」


 もはや戦をしている場合ではない。

 両軍の指揮官は、部下に退却命令を出す。

 蜘蛛の子を散らしたように、両軍の突撃部隊は逃げ去っていく。


「なんだ⁉ 何が起こったんだ⁉」


「何事だ⁉ 報告しろ!」


「遺跡の塔が、何者かに、斬られただと⁉」


「そんなバカな⁉」


 両軍の本陣も、連動して動きを止まる。

 無理もない。


 巨大な塔が一瞬に崩壊。

 何しろ何が起きたか誰も理解でいないのだ


 両軍の本隊は大混乱に陥っている。


 そして、これはオレにとって好機であった。


 《フェン、この戦場いる全員に、念話を解放出来るか?》


 《この場の全員に⁉ 一瞬だけなら出来るかもしれないワン》


 《お前が頼りだ。頼むフェン》


 《ボクが頼りに? わ、分かったワン! 頑張るワン!》


 フェンの念話の能力は、最初に比べて向上していた。

 無理をしたら広範囲に応用できる。


 さて、ここからは一世一代の芝居の出番。

 フェンの念話に繋げながら、オレは崩壊した塔の上に立つ。


 《この戦場にいる全ての戦士に告げる!》


 ガレキの上から念話で叫ぶ。


 《オレの名はオードル……戦鬼オードルだ!》


 ヘパリスから持っていた兜……現役時代に愛用していた、戦鬼の兜を被る。


 《見てのとおり、古代遺跡はオレが破壊した!》


 戦鬼として名乗りを上げるのは、リスクが高い。

 だが今回の戦の元凶……古代の遺跡の機能停止したことを、両軍に伝えるのだ。


「せ、戦鬼オードルだと⁉」


「バカな⁉死んだはずじゃ⁉」


「だが、アイツを見て見ろ……あの兜の形を、馬鹿げたほど巨大な大剣……あれは間違いなく戦鬼オードルだぞ!」


「ああ、間違いない! 王国の英雄が帰還したんだ!」


 まずは王国軍に、ざわめきが起こる。

 彼らにとって、戦鬼オードルは救国の英雄。

 伝説の傭兵の復活に、王国兵は大興奮している。



「せ、戦鬼オードルだと⁉」


「あの悪魔が生きていただと……」


「あ、あんな巨大な塔を……生身の人が剣だけで……」


「まずいぞ、これは……」


 一方で帝国軍は静まりかえっていた。

 彼らにとって戦鬼オードルは、恐怖の対象なのだ。


 よし、両軍ともオレに注目してくれた。

 一世一代の演技のかいがあったな。


 まぁ、認識してくれたのは、愛用の兜と大剣のお蔭が大きい。

 用意してくれた女鍛冶師ヘパリスと、剣聖ガラハッドには、後から礼を言っておかないとな。


 死んだはずの戦鬼オードルの登場。

 両軍の動きが止まり、全員の注目がオレに集まっている。

 戦場にいる全ての兵の足は止まっていた。


「お前足り、そこを通せ!」

「ルイ陛下のお通りだぞ!」


 その時であった。

 王国軍の本隊から一団が、この前線にやってくる。

 総大将であるルイ国王が、報告を受けて駆け付けたのだ。


「あ、あ、あの戦鬼オードルを名乗る不届き者が、現れたとは、本当か⁉」


 国王はどうして確認したかったのであろう。

 自ら馬に乗って、果敢にも最前線に顔を出してきたのだ。


 よし、主役が来てくれたな。

 最後の仕上げといくぞ。


「久しぶりだな、国王よ!」


「ひっ⁉ ひっ⁉ こ、この恐ろしい声は、ほ、本物の戦鬼オードルじゃ!」


 戦鬼をしての強めの声。

 声をかけられただけで、国王は馬から落ちそうになる。

 全身を震わせて、顔を真っ青にしていた。


「兄上、大丈夫ですか⁉」


 落ちそうになった国王に、実弟であるレイモンド公爵が駆け寄る。

 更にエリザベスとリリィの姿も、その後ろに確認できた。

 二人とも上手く、王国軍に入り込めたのだ。


 よし、役者はこれで揃った。

 さて、ここから更に芝居を打たせてもらうぞ。


 フェンに念話に繋いで、全軍に範囲を広げる。


 《王国の英雄の帰還だと? バカなことを言うな。何故なら今のオレは死んだ身。どこの国にも属さぬ冥府の使いなのだ!》


 天高く大剣を掲げて、オレは宣言する。

 戦鬼オードルは間違いなく死んだ。

 だから自分は地獄から舞い戻った死者だと。


 《オレはまだ血に飢えている! よって、ここにいる全ての戦士たちの魂を、喰らわせてもらうぞ! この大剣でな!》


 闘気を込めて、オレは斬撃を繰り出す。

 狙う先はルイ国王に。

 もちろん直撃させないように、ワザと外して攻撃だ。


「ひっ⁉」


 だが国王は落馬してしまう。

 混乱のあまり、勝手に自分で落馬したのだ。


「ひっ⁉ ぶっ、ひっー⁉」


 落ちた時、かなり腰を強打してしまったのであろう。

 国王派無様な姿で、這いつくばって逃げようとする。

 もはや言葉を発せられないほど、混乱していた。


 《今だ、レイモンド》


 誰にも気がつかれないように、念話で合図をおくる。


「兄上、大丈夫ですか⁉ 何ですと……『全軍、王都まで退却』ですか? 承知! おい、皆者も良く聞け、王国軍は退却だ! これは国王の命令だ! 戦鬼に喰われてしまう前に、王都に退却するぞ!」


 レイモンドは芝居にのってくれた。

 見事な名演技。

 半狂乱の国王に変わって、全軍に命令を下す。


「退却しろ!」


「あの戦鬼に喰われてしまうぞ!」


 国王の恐怖は、王国軍に伝染していく。

 王国軍は総崩れで退却していく。


 ここまで混乱に陥るのも無理はない。

 何しろ今の王国軍は士気が低い。

 それに戦鬼オードルの恐ろしさは、味方である彼らも知っている。


 全王国軍は蜘蛛の子を散らした様に、一心不乱に逃げていく。


 《不甲斐ない連中だな。さて、それなら帝国の戦士たちよ。次はお前たちの魂を喰らわせてもらおうか?》


 さて、次はこちら。

 立ちつくして帝国軍に、剣先を向ける。


「お、おい、どうする……?」


「このままで、オレたちも戦鬼の死神に……」


「おい? この銅鑼の音は⁉」


 王国軍に比べて、帝国軍の士気は高い。

 だが誰もが立ち尽くす、その時であった。


 奥の本陣から、号令の合図があったのだ。


「これは退却の合図だぞ⁉」


「よし、それなら退くぞ!」


「全軍退却だ!」


「戦鬼に喰われる前に、逃げろ!」


 戦場に鳴り響いたのは、撤退の合図だった。

 恐怖に背中を押されながら、帝国軍も撤退していく。


(あの銅鑼は……リッチモンドとロキが上手くやってくれたんだな)


 王国軍が撤退したタイミングでの、撤退の合図。

 おそらく二人が、皇帝に進言してくれたのであろう。

『古代の塔が完全に破壊されて、王国軍が撤退した今、これ以上の戦いは無意味』、だと。


「退けぇえ!」


「全ての荷を捨てて退くのだ!」


「後ろを振り返るなぁ! 冥府の戦鬼に魂を吸い取られるぞ!」


 戦場は慌ただしいものとなった。

 両軍の兵士たちが、波が引いていくように一気に撤退していく。


 人は信じられない恐怖に陥ると、本能に従って逃げ出す。

 両軍とも武器と防具を投げ捨てて、一心不乱に逃走。


 塔のガレキの上から見ていて、感心してしまうほどの引き際だった。


(さて、これで終わったか?)


 しばらくして遺跡の周囲は誰もいなくなる。

 先ほどの喧騒はどこへ。

 ガレキの周囲は沈黙が支配していた。


 まるで数万の開戦など、元々なかったかのような、信じられないような静けさだ。


「戦鬼オードルよ!」


 そんな時。

 帝国軍が撤退した方角から、声が上がる。


「皇帝ガルか……」


 オレの名前を呼んできたのは、帝国の総大将である皇帝。

 まだ撤退していなかったのだ。

 数基の近衛騎士だけ引き連れて、こちらを視線を送ってきた。


「戦鬼オードルよ……いつかまた戦場で会いまみえよう!」


 皇帝は天高く剣を掲げ、去っていく。


 その後ろ姿からは、清々しさを感じられる。


 男しての見事な去り際だった。


「そうだな。機会があったら、また剣を交えよう、皇帝よ……いや、戦士ガル・フォン・ランフェルデンよ」


 オレの返事は届いていないであろう。


 だが、この思いは本心。

 帝国の戦士ガルは、昔から真の男だった。


 何のしがらみもなく、あの戦士と戦場で会いたいものだ。


 まぁ、傭兵を引退したオレが、そう望むのも不思議なことなんだが。


 皇帝たちも去り、遺跡には誰もいなくなる。


「さて、そろそろマリアのところに戻るとするか」


 こうして最悪の状況は回避できた。


 オレは皆の待つ馬車へと戻るのであった。


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