第103話:剣聖との対峙
古代遺跡を巡って王国軍と帝国軍が、今にもぶつかろうとしていた。
これは魔女の陰謀。
オレは無益な戦いを止めために動いていた。
だが、そんな前に突如して、剣聖ガラハッドが立ちはだかる。
「気は熟したのです! これから数万の大軍がぶつかり合うこの場所! 今こそが戦鬼オードルの最高を味わえる瞬間なのです!」
ガラハッドの目的は、オレとの再戦。
相手の興奮は最高潮に至っており、話し合いによる回避は不可能だ。
(この剣聖の相手をしながら、遺跡内の機能を無効化するか……これは難題だな……)
戦闘態勢にはいったガラハッドに、背を向けるのは死を意味する。
何とかして塔にたどり着き、遺跡を無効化しないといけないのだ。
「今こそが戦いの時! オードルさんなら、私の言っていることが理解できるしょう⁉」
「理解だと……ああ、かもな」
ガラハッドの言っていることは、相変わらず理解できない。
だが共感できることもある。
何故ならガラハッドの指摘の通り、今のオレの闘気が高鳴っている。
数々の激戦をくぐり抜けて、大きな戦を前にして、戦鬼としての本能が高まっているのだ。
そして相手は大陸でも最高峰の“剣聖ガラハッド”。
これほど最高の相手はない。
だが今は戦を止めることが先決。
戦が始まるまで、時間がない。
ガラハッドを相手にしている場合ではないのだ。
さて、どうやってくぐり抜けてものか。
「決心がつかないオードルさんのために、素晴らしいプレゼントを持ってきました!」
ガラハッドは指笛を鳴らして、何かを呼ぶ。
こちらにゆっくりと近づいてきたのは、巨大な軍馬。
ガラハッドの愛馬なのであろう。
「さぁ、それを受け取りなさい、戦鬼オードルよ!」
馬の背には巨大な荷物が、括り付けてあった。
これがガラハッドのいうプレゼンなのであろう。
かなり巨大な物だが。特に罠はない。
では本当にプレゼントだというのか。
とりあえず馬の背にある荷の布をほどく。
「これは……」
布をほどいて思わず声もらす。
プレゼントは見覚えのある品だったのだ。
「驚いたでしょう、オードルさん! 何故ならプレゼントのその大剣は、あなたの物なのだから!」
「ああ、そうだな」
出てきたのは巨大な大剣。
忘れるはずのない。
現役時代にオレが使っていた愛剣だった。
「さぁ、それを手にするのですオードルさん! そして、その禍々しいまでの巨大な剣を!そして私と共に、最高の戦いの時を迎えるのです!」
オレの愛剣は王都の城に、厳重に保管されていたはず。
それをガラハッドは盗み出して、ここまで持ってきたのであろう。
目的はオレと戦うため。
最高潮に高まった戦鬼と、今度こそ万全の態勢で剣を交えるために。
「もちろん私も無抵抗で斬られはしません! 先日のルーダ砦の敗北から、私も新たなる極意を見つけ更に進化しております! さぁ、至高の戦いの始まりに銅鑼を鳴らそうではありませんか!」
ロキは腰から剣を抜く。
前の剣とは違う。
恐ろしいほどの鋭い力を、刀身から感じる剣だ。
おそらくは魔剣の類だ。
《オードル、見て! 両軍が……ワン!》
フェンが念話で叫ぶ。
思わず声を上げるのも無理はない。
遠目の塔の付近。
帝国軍と王国軍の突撃部隊が、更に加速しているのだ。
このままで両軍が槍を交えるのは、あと少し。
そうなった戦を止めるのは不可能。
本当に戦が始まってしまうのだ。
「ああ、分かっている」
だがオレは動けずにいた。
なぜなら目の前にいるのは最強の剣聖。
たとえオレが愛剣を手にしても、簡単には倒せないのだ。
(剣聖と剣を交えず、この先の塔に辿りつく方法があれば……ん、そうか!)
その時であった。
オレの脳裏に妙案が浮かび上がる。
一か八かの策だが、上手くいけば、この場をしのげるかもしれない。
あとは、ガラハッドが上手くのってくれたらだ。
そのためには多少の演技も必要になるな。
さて、一世一代の名演技といくとするか。
「ガラハッド、この剣を持ってきてくれて感謝する」
馬にあったら大剣を手にする。
ヤル気をガラハッドに見せるためだ。
それにしても重い剣。
ずしりとした重みがオレの腕に……いや、全身にのしかかる。
剣しては異質なまでの超重量。
屈強な戦士ですら、一人では持ち上げることもできない大剣。
このオレですら闘気術を使わなければ、持つことすら出来ない愛剣なのだ。
「おぉおおお! 剣を手に! ついにヤル気になってくれたのですねぇえ!」
ガラハッドの興奮状態は最高潮だ。
比例して闘気が更に高まっていく。
対峙しているだけで、押し込まれそうになる相手の闘気。
オレも全身の闘気を高めていく。
「さて、いくぞ、ガラハッド! 覇ぁああああああああ!」
気合の声を上げる。
全身神経を集中して、身体中の闘気を高めるためだ。
身体中の血が沸騰しそうなる。
全身の細部の闘気を集中。
手にする大剣に闘気を漲らせていく。
「おぉおお! 素晴らしい! これが戦鬼オードルの本気……まさに戦場に降臨した“戦の鬼神”……」
ガラハッドは言葉を失っていた。
清々しいまでの顔。
まるで神を崇める敬虔な信者のようだ。
「さて、こちらの準備は整った。いくぞ、ガラハッド!」
互いの闘気は高まった。
先に動いたのはオレの方。
ガラハッドに向かって、飛びかかる。
「心よりお待ちしておりました、オードルさん!!」
ガラハッドはカウンターで迎え撃つ。
相変わらず隙のない構えだ。
「この攻撃を、受け止められるかな⁉ ガラハッドよ!」
オレはあえて挑発した。
空中に跳躍して、頭上に向かって大剣で攻撃をしかける。
「私の今の力を甘く見ないでください、オードルさん!」
ガラハッドは挑発に乗ってくれた。
怯まずカウンターで反撃してくる。
大剣と魔剣が正面から激突。
凄まじい衝撃が手に伝わる。
信じられないことに、空中にいて剣を交えたオレの動きが、一瞬止まる。
さすがは剣聖。
凄まじい鋭さと威力の斬り返し。
このまま気を抜けば、大剣ごとオレは吹き飛ばされてしまいそうだ。
だが、この状態はオレが望んでいた形だった。
「さすがは剣聖……感謝するぞ、ガラハッド!」
ガラハッドの力を利用して、一気に跳躍する。
互いの闘気と力が反発しあい、信じられない距離まで高跳びできた。
「なっ⁉ ど、どこに行くのですか、オードルさん⁉」
「お前との勝負は後だ。先にあっちを仕留めてくる!」
唖然とするガラハッドが、一気に遠くなってしまう。
オレはかなりの空中まで跳躍していたのだ。
これも計算通り。
「さて、着地地点も計算通りだな」
眼下に巨大な塔が見えてきた。
オレは遺跡の上空まで、一気に移動できたのだ。
「さて、闘気も本気でいくぞ……覇ぁああああああああ!」
オレは空中で再び闘気を高めていく。
集めるのは手に握る巨大な鉄塊。
大陸で最強の攻撃力を誇るオレの愛剣だ。
「さぁあ、覚悟しろ、古代の塔よ!」
闘気は最高潮に高まった。
攻撃のターゲットは巨大な塔。
狙うは塔の屋上だ。
「怒らぁあああああああああああ!」
大剣が塔の屋上をとらえる。
このまま全ての闘気を解放。
塔を斬り、砕いていく。
普通の武器には不可能であろう。
だがオレの愛剣は普通ではない。
このまま一直線に地面まで一気にいく。
「打ぁあああああああ!」
一気に塔を切り裂いていく。
全身の闘気をさらに大剣に注入。
頑丈な古代の遺跡が相手でも問題ない。
巨大な石巨人を頭から唐竹斬りしていく、そんなイメージで真っ二つにしていくのだ。
「ふう……こんなものか」
塔を真っ二つに斬り裂いた。
地面に着地して、オレは見上げる。
縦に真っ二つになった塔は、大きな崩壊音を立て初めていた。
半分になったことで自分の重さに耐え切れなったのであろう。
このままいけはあと少しで、塔は両側に倒れて全壊するはずだ。
「ひっ⁉ 塔が割れただと⁉」
「見ろ、崩れ落ちてくるぞ!」
両軍の突撃部隊の足が止まる。
無理もない。
目の前で巨大な塔が崩壊しているのだ。
そのまま前進していたら、両軍とも下敷きになってしまうであろう。
もはや戦をしている場合ではない。
「全員退避だ!」
「退避しろ!」
両軍の指揮官は退却命令を出す。
蜘蛛の子を散らしたように、両軍の突撃部隊は逃げ去っていく。
(よし、第一段階は終わったな。ここから第二段階に移るとするか)
両軍の突撃部隊を止めること成功した。
こうして両軍の本隊を止めるために、オレは次の策に移るのであった。




