第102話:戦を止めるために
古代遺跡を巡って、王国軍と帝国軍の大軍が一触即発の状態になる。
魔女の陰謀によって戦になれば、無駄な血が流れてしまう。
オレたちは無益な戦いを止めることにした。
「でも、オードル。どうやって戦を止めるんだ?」
リッチモンドが疑問ももっともだ。
何故なら既に王国はすぐそこまで迫っていた。
両軍の最前線の兵士たちは、殺気だっている。
話し合いで収めることは不可能。
このままでは両軍が衝突してしまうのだ。
「それについてはオレに考えがある。その前に役割分担を伝える」
今回の作戦は各自の役割と、スピードが勝負の決め手となる。
役割と分担して行動することにした。
「まずはエリザベス。お前は王国軍に行ってくれ。レイモンド公と二人で機を見て、行動を起こしてくれ。詳しくは後ほど念話で連絡する」
「分かったわ、オードル! 王国軍の方は私に任せて!」
王国軍の方はエリザベスが担当。
彼女は伯父であるルイ国王に、今も可愛がられていた。
それに幼い頃から剣姫と呼ばれ、王国兵の中でも人気が高い。
王国軍の戦意さえ削げたら、エリザベスたちの出番だ。
「あとリリィ、お前もエリザベスに付いていってくれ。すまないが“聖女”としてのお前の力が必要になるかもしれない」
「かしこました、オードル様。私も覚悟は決まっております」
聖教会の信者は、王国軍の中に多い。
そして聖女の知名度は、桁外れに高い。
リリィは聖女であることを隠して生きてきた。
だが今回は大陸の危機がある。彼女にもひと肌脱いでもらう。
「次にロキ、お前はリッチモンドを連れて、帝国軍の方に侵入してくれ。同じくオレから連絡が入ったら、動いてくれ」
「了解、アニキ! オレっちに任せてくれ」
「わかった、オードル。ガルのことは、この命をかけて止めてみせるよ!」
帝国軍の方はロキとリッチモンドが担当。
塔でのやり取りでは、皇帝はリッチモンドに対して心を許していた。
機をみて接触すれば、リッチモンドの話なら聞いてくれるであろう。
また隠密の達人であるロキがいれば、臨戦態勢の帝国軍にも難なく侵入できる。
「ピエールは馬車の警備を頼む」
「承知!」
留守番のマリアとニースの警護は、ピエールに任せておく。
いざという時、二人の少女を抱きかかえて退避してくれるであろう。
「あと、リッチモンドとピエール、ロキ。お前たち、このフェンの身体に触れておけ。理由は後で説明する……」
三人にもフェンの正体を告げ、念話のネットワークを繋げておく。
こうしておけば連絡も可能。
三人ともフェンの正体に驚いていたが、念話を使うには問題は無さそうだ。
「すまないがマリアは、ニースと留守を頼む」
「うん、パパ! 留守はマリアに任せて!」
「まかせて」
マリアは満面の笑み。
ニースは無表情だけど、瞳の中で笑み。
これからオレたちが向かうのは危険な任務。
だが、こうして待っている家族がいるだけで、怖いモノはない。
危険な地に向かえるのだ。
《最後にフェン、お前はオレのお供だ》
《ボクが? 了解だワン!》
今回の同行者はフェンした。
なぜならフェンの念話を、魔女は妨害できる力がある。
だがフェンがオレの近くにいた時は大丈夫だった。
今回の作戦の肝は、全員との念話のネットワークなのだ。
「ところでオードルは、フェンとどうするの? まさか……」
「ああ、そうだ、エリザベス。遺跡に行ってくる」
「やっぱり……とにかく気を付けてよね」
エリザベスは苦笑いしているが、オレの役割は大きい。
何しろ両軍の目的は、遺跡の塔の力を手に入れること。
つまり戦を止めるには塔の機能を、無効化してしまえばいいのだ。
「よし、それでは作戦を開始するぞ!」
こうしてオレたちは四班に別れ動き出すのであった。
◇
準備を終えて、オレたちはそれぞれの場所へと移動していく。
エリザベスとリリィは王国軍へ。
エリザベスがリリィを抱きかかえたら、高速で移動していける。
ロキはリッチモンドと帝国軍へ。
こちらもロキがリッチモンドを抱きかかえて移動していいた。
留守番のマリアとニースの警備は、ピエールがいれば大丈夫。
オレ以外の三班は無事にいけそうだ。
「よし。オレたちも少し急ぐぞ、フェン」
『わかったワン!』
オレはフェンと盆地を移動していた。
目的は古代遺跡の塔の機能を、無効化するためだ。
「見えてきたぞ。どうやら帝国軍は、すでに撤収したようだな」
塔の入り口が見えてきた。
先ほどまでいた帝国兵の姿は見えない。
ここはもうすぐ万を超える大軍の戦場となる。
皇帝と共に本隊の方に移動したのであろう。
右手の小高い丘の上に、帝国軍の軍旗が立ち並んでいる。
あそこが帝国軍の本陣であろう。
『オードル、見て! 王国が来ているワン!』
「ああ、そうだな」
塔を挟んで左側の丘。
帝国軍とは反対側に、進軍してくる集団が見えた。
軍旗からあれは王国軍の先鋒部隊だ。
『もしかして……間に合わないワン?』
「まだ大丈夫。ギリギリだがな」
フェンが焦るのも無理はない。
右手の帝国軍の先鋒部隊も、呼応して前進している。
このままでいけば両軍の中間地点、ちょうど古代遺跡の塔の周囲で、両軍がぶつかり合う形になるのだ。
「時間がない。フェン、ここまま遺跡の中に入るぞ!」
『わかったワン!』
乱戦となれば塔に近づくのも難しい。
だが今は時間が惜しい。
危険を冒してでも、塔の内部に潜入。
遺跡の装置を破壊しないといけない。
オレたちは遺跡の入り口へと駆けていく。
『えっ、入り口が⁉』
フェンが言葉を失う。
入り口を目視できる距離に近づいて、立ち止まってしまう。
何故なら塔の入り口が、意図的に崩され塞がれていたのだ。
「ちっ……帝国軍の仕業か」
おそらく守備兵が撤退時に、入り口をガレキで塞いでいったのであろう。
敵である王国軍に、対する時間稼ぎだ。
このままで中に入って遺跡の装置を破壊できない。
『でもオードルなら、あんなガレキくらい……』
「ああ、排除は出来る。だが時間が足りないな、この様子なら」
最悪のタイミングだ。
両軍の進軍速度は上がっていた。
あと少しで最前線の兵が、ちょうど塔の辺りでぶつかる。
そうなったらもうオレでも止めることは難しいであろう。
多くの血が流されてしまうのだ。
「ん……これは?」
そんな時である。
オレは覚えの気配を感じる。
「まさか、ここまで来るとはな」
「ふふふ……探しましたよ、オードルさん。はやりここにいましたか!」
「ガラハッドか」
不敵な顔で近づいてきたのは一人の剣士。
剣聖ガラハッドであった。
「こんな時に、何の用だ?」
「オードルさんも知ってとおり、今の私は王国軍の指南役。戦場となるここに、いてもおかしくないでしょう? というのは冗談で、私も独自で動いていたのです。オードルさんたちの後を追いながら……」
ガラハッドと無駄話をしている暇はない。
早く遺跡の中に侵入したい。
だが剣聖は既に戦闘態勢に入っている。
こうなったガラハッドを相手に、背中を向けることは死を意味する。
話をしながら相手の隙を見つけるしかない。
「だが何故、このタイミングで出てきた、ガラハッド? 別に後でもいいだろう?」
ガラハッドの登場は偶然ではない。
おそらくは王都から、ずっとオレたち一家のことを追ってきていたのであろう。
そして今の機を狙って登場したのだ。
何故ならこの男には独自の美学がある。
オレに戦いを仕掛けるのは、剣聖としての機が熟した時。
何かの理由がなければ挑んでこないのだ。
「私はここまでずっと調べてきました。オードルさんの戦いの軌跡を。バーモンド城での大隊長たちとの激戦……そして樹海での何者かとの死闘……を……」
驚いたことにガラハッドは、ここまでの戦いの痕跡を調べて追ってきていた。
恐ろしいまでの執念だ。
ここまでくると呆れを通り越して、感心すらしてしまう。
「そして私にはすぐに分かりました。今のオードルさんが現役時代と同じ力を……いえ、あの時以上の力を高めていることを……」
ガラハッドは恍惚な表情で語る。
この男はお戦いの痕跡から、頭の中でイメージしているのであろう。
オレと大隊長たちとの戦いを。
ロキとの激戦を、完璧に近い形で、イメージとして頭の中で再現しているのだ。
「だからこそオードルさんと再び剣を交えるのは、“今”なのです! ついに気は熟したのです! これから数万の大軍がぶつかり合うこの場所! 今こそが戦鬼オードルの最高を味わえる瞬間なのです!」
ガラハッドの興奮は最高潮に至っていた。
つまり激戦をくぐり抜けてきた今こそ、オレとの再戦を臨んでいるのだ。
「そうか」
ガラハッドの言っていることは、相変わらず理解できない。
だが共感できることもある。
オレの闘気が高鳴っているのは間違いない。
しかし今は戦を止めることが先決。
相手にしている場合ではないのだ。
(この剣聖の相手をしながら、遺跡内の機能を無効化するか……これは難題だな……)
こうしている間にも両軍の先鋒部隊が接近している。
オレは絶体絶命の窮地に陥るのであった。
いよいよ
《戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる》
コミカライズスタートしました!
以下で第一話を読めます!
https://www.comic-earthstar.jp/detail/senki/
原作:ハーーナ殿下
:DeeCHA先生
漫画:田野かかし先生
第一話目はフルカラーを含む、いきなり35ページでスタートです。
小説版では書かれていなかった部分も、田野かかし先生が描いてくれました!
無料なのでお気軽にご覧ください。




