表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違いですれ違った恋  作者: 柏木紗月
高校生編
8/53

試合

 彼と会って話せるかな……。でも向こうは私のこと覚えてないかも。どうだろう。お礼を言うだけだし、大丈夫かな……。


「椿?つーばーきー!!」

「わ!!若菜!!びっくりした。おはよう」

「おはよう。ってもう5回も言ってるのに。聞こえてなかったみたいだけど」

「え、そうだったの?ごめんね」


 約束の土曜日。私は学校の正門に来ていた。今は9時50分で試合が始まるのは10分後だ。彼にお礼を言うだけなのにドキドキして不思議。若菜が来たことにも気付かないほど落ち着きがないみたい。平常心平常心。

 若菜はそんな私を訝しげに見ていた。……あれ?ふと彼と若菜は似ているような気がした。ふんわりした茶色い髪とか。若菜はミディアムで彼はショートだけど。でも雰囲気はあんまり似てないかも。気のせいかな。

 そう考えているうちに若菜に続いてすぐに結城くんも到着した。


「お待たせー!!じゃあ行こうか」

「ん」

「そうだね」


 体育館には満席とまではいかないけど大勢の人が座っていた。


「結構人多いんだね。いつもこうなの?」

「僕も時々しか来ないけどだいたいこんな感じかな。隼人くんいるし」

「隼人なんて見ても面白くないのにー。ね、椿。この後駅前にできたケーキ屋さん行こう」

「え、うん。行こう」


 バスケ見に来たのにもうその後の話をしてる若菜に苦笑いする。なんだか逆に従兄がどんな人なのか気になる。


「若菜、従兄ってどんな人?」

「隼人のことなんてどうでもいいよー。それより何のケーキにしよう。レアチーズケーキがおすすめらしいよ」

「あ、そうなんだね。それで、従兄って……」

「もう!!隼人のことばっかり!!あれだよ!!あの向こう側のコートにいる──」


 どの人だろう、とコートに目を向けると彼がいた。何人もいる中で一際目を引く彼があの時と同じように優しく笑っていた。向こう側のコートのベンチで立ち上がってる4人に囲まれて唯一椅子に座っていた。


「あの、ベンチで固まってる集団の1人座ってるやつが隼人だよ」

「へ!?」

「え?」


 彼が若菜の従兄なの……?


「椿、隼人と知り合い?」

「え?そ、そういうわけじゃないけど……」

「ふーん……」

「あ、試合が始まるよ!!」


 なんとなくごまかしてしまった。

 そっか、隼人先輩っていうのか……。って、名前呼んだら失礼だから名字聞かないと。でも若菜にはなんだか聞きづらいな。

 試合が始まるとそんな思考も一旦中断した。あ、彼がボールカットした……。あ、ドリブル……。あんなに遠くからシュート決まった。かっこいい……。


「キャー!!」

「な、なに!?」


 近くにいた女の子たちの歓声に驚いた思わず声をあげる。冷静な結城くんが答えてくれた。


「うん、だから彼女たち、隼人くん目当てだからね」

「そ、そうなの……」


 隼人先輩って人気者なんだな。なんだかドラマとか漫画みたい。でもわかる気がする、だってかっこいいもん。

 仲間とハイタッチしている彼の笑顔に何故かわからないけど胸が痛んだ。

 試合はうちの学校が勝った。この後は別の学校同士が対決して次に試合をするのは午後だそうだ。私たちは今の1試合だけ見て帰ることになっていた。

 それじゃあ……と、ケーキ屋さんに行こうと立ち上がる。


「じゃあ隼人くんのとこ行こうか」

「えー、なんでよ」

「いいからいいから」


 え!?会いに行くの!?会えるの?

 朝は会ってお礼を言おうと思っていたはずが、今はなんだかお腹いっぱいというか、試合をしている彼を見て満足していた私の胸が高鳴った。こっちだよ、と結城くんに言われて3人で観客席を降りて体育館の裏口まで来た。

 そこにさっきまで試合をしていたのに全然疲れてないみたいに爽やかに笑ってる彼が待っていた。


「隼人くん、お疲れさま!!」

「ありがとう」


 あの日振りの彼にドキドキする。


「なんでわざわざ呼び出されなきゃなんないのよ。私も暇じゃないの」

「そう言うなって。たまには良いだろ」


 親しげに話す2人はやっぱり従兄弟同士なんだ。と、呆けていると、彼が私に笑いかけた。


「あの時の子だよね。応援来てくれてありがとう」

「い、いえ!!あの、私お礼を言いたくて!!」

「……お礼?」

「はい、荷物運ぶの手伝ってくださってありがとうございました!!」

「え、お礼を言われるほどのことじゃないよ」

「そんなことないです。重かったですし」

「たいしたことないよ。鍛えてるしね」


 そう言って腕に握りこぶしをつくってみせると確かに細いのに筋肉がある。だから、あんなに軽々運べたんだと納得する。


「……椿、ケーキ屋さん!!」

「わ、若菜!?」


 いきなり若菜に左手をぎゅっと握られて彼に背を向ける体勢になってしまう。慌てて、ちゃんと挨拶できないままどんどん遠ざかってしまった。


「わ、若菜、どうしたの?怒ってる?」

「怒ってないよ!!」

「そう……?」

「若菜はお腹すいたんだと思うよ」

「え、そうなの?」


 後ろからいつの間にか追い付いていた結城くんがそう言う。そうだったんだ。それなら試合終わってまっすぐ帰れば良かった。申し訳ないことしちゃったかな。

 駅前のケーキ屋さんは学校からも近くてすぐに着いた。普段運動しないからこんな短い距離でも疲れてしまって席に着いて深く深呼吸した。


「坂下さん、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫だよ」


 正面に座る若菜は頬を膨らませてまだ不機嫌だ。ちょっと可愛いかもと思ってしまった私は気を取り直して若菜にメニューを見せる。


「見てみて、若菜!!美味しそうだね!!やっぱりレアチーズケーキ?チョコレートケーキも定番だけど美味しそうだねー!!ね、若菜はどれが良い?」

「むー……」


 不機嫌ながらもメニューのレアチーズケーキがとチョコレートケーキを見る視線が行ったり来たりする。迷ってるみたい。


「シェアしよっか。私はチョコレートケーキを頼むから若菜はレアチーズケーキにしたら?」

「じゃあ僕はショートケーキにしようかな。若菜も好きでしょ」

「……うん」


 まだご機嫌斜めだけど注文は決まった。店員さんを呼んでオーダーした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ