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勘違いですれ違った恋  作者: 柏木紗月
高校生編
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初めての出会い

 高校1年の夏休み、書道部の私は数少ない活動日に登校していた。

 私の学校の書道部は通常毎週火曜日と木曜日に活動していて人数は全員で10人、活動日に毎回みんな来るわけではないという比較的緩い部活動だった。

 夏休みも同じ曜日に活動日があり、私は前半のうちに展覧会に出品する作品を仕上げてしまおうと夏休みに入って1週目の活動日に来ていた。そして昼過ぎ、そろそろ帰ろうと支度をしていると教室のドアが開いた。


「お、良かった。坂下まだいたか」

「はい。でももう帰ろうかと思ってましたよ」

「そりゃタイミングが良かった。ちょっと頼まれてくれないか?これ職員室に持っていってくれ」

「え……」


 私はよくいろんな先生から頼まれ事をされている。頼まれると断れなくてつい了承してしまう。


「わかりました。職員室ですね」

「助かるよ。頼むな」


 こうして書道部の顧問の大木先生から渡されたのは道具が詰まった段ボール。今はそこまで持てないというほどではないけど職員室までの道のりで挫折しそうな重さだ。ここは2号館の2階で職員室があるのは1号館の1階。1号館は渡り廊下を渡った所にある。そして正門はその方向にあるため、荷物を取りに戻って来なければならない。それは手間がかかる。

 少し考えて、途中で休めば運べるだろうと鞄を肩にかけて段ボールを両手に抱えて教室を出た。

 自分が思っていたより体力がなかった私はだいぶ早く限界がきていた。フラフラとしながらどうにか渡り廊下まで来た。


「ちょっと、休憩しようかな」


 渡り廊下の近くに中庭があるけどそこまで行くのももう無理だと、その場でコンクリートの地面に段ボールを降ろした。

 腕が筋肉痛になりそうだ。それに暑すぎる。暑い暑いと手で仰いでいるとバスケットボールが転がってきて足元で止まった。

 私は特になにも考えずにそのボールを拾って辺りを見渡した。その時そばの体育館の方から声をかけられた。


「すみませーん。そのボールうちのです!!」


 そこまで大きな声ではなかったけどよく通る声が聞こえた。声をかけてきた彼はすぐに私がいる渡り廊下まで走ってきた。

 ダークブラウンのパーマがかかった髪がふんわり風に揺れていて透き通る真っ白な肌に端正な目鼻立ち。日本人離れした雰囲気で、男の人なのに綺麗だと思った。私は彼の優しく笑った顔を前にうっかり口を開けたまま呆けてしまった。


「拾ってくれてありがとう」


 少し遅れて話しかけられたことに気付いた。


「……え?あ、いえ、目の前に転がってきて無視できないですし……」

「ふっ」


 微笑んでいた彼が口元に手を当てて目尻をさげて笑う。

 あ、笑われた……と思い恥ずかしくなって顔が赤くなるのが自分でわかった。


「無視されなくて良かったよ。本当にありがとう」

「いえいえいえ、そんなに感謝されるほどのことはしてませんから」


 本当になにも考えずに拾ったんだから。

 どうぞ、とボールを彼に渡した。彼は私の近くに置かれた段ボールに目を向けた。


「その荷物は?」

「あの、先生から運ぶようにって頼まれていて……」

「そうなの?じゃあ手伝うよ」

「え!?そんなの悪いですよ!!」

「ちょっと待っててくれるかな」

「あ、ちょっと!?」


 私の制止を聞かず彼は体育館に走っていき入り口の近くにいた誰かに声をかけボールを渡すとすぐに戻ってきた。


「さ、行こうか。どこ?」

「職員室です。……じゃなくて!!本当に悪いですよ!!」


 有無を言わせず彼は段ボールを軽々と持ち上げるとどんどん歩きだしてしまった。私は慌てて彼を追いかけた。


「あの、私が頼まれたことなので私が持たないと」

「いいからいいから」

「いや、良くないですから!!」


 私が持ちます、いいから、と繰り返しいつの間にか職員室まで着いてしまった。私は一体何をしていたのか。


「職員室着いたよ。両手出して」

「はい?」


 ドアの前で言われるがままに両手を出した私に段ボールが渡された。不意打ちの重みに少しよろめいた私の腰に彼の大きな手が触れた。


「ひゃあ……」


 情けない声が出てしまってまたしても顔に熱が集まった。そんな私を見て彼はまた手を口元に当てて声を出して笑った。


「さ、君が頼まれた仕事だからね」

「あ、はい」


 彼が職員室ドアの開けて私の背中を押すからまた呆けてしまった。後ろからじゃあね、と聞こえてから慌てて振り返ったけど彼はすでに走り去ってしまった後だった。

 彼にお礼を言いそびれてしまったと気付いたのは呆けたまま職員室の先生の席に段ボールを置いて正門を通り数分過ぎた頃だった。

 


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