わからないことがもう1つ
そして話題はさっきのトリックアートミュージアムのことになった。
「椿にさっきの写真送ってあげるねー」
「ありがとう。私の携帯で撮ったのも送るね」
私と若菜の携帯で撮った写真をお互いに送り合う。
「あ、この写真隼人に見せてあげなよー」
「え?どれ?」
「ライオンのやつー」
えっと、あった。ライオンに食べられそうになってる私を写した写真を表示させた。……でもどうしてこれなんだろう。
「リアルだから!!」
「他のもリアルだよ?」
「良いから良いから。隼人見てー!!」
「そう言われても運転中だから」
「あ、ですよね。ほら、若菜駄目だって」
「えーじゃあ信号で止まったら」
「どんな写真なの?」
「普通に私がライオンに食べられそうになってる写真ですよ」
先輩に言われて気付いたものの、信号で車が止まるまで待つことになった。
「ふーん、そういうこと」
「え?どういうことですか?」
「隼人ライオンに見えるでしょー」
若菜がそう言うけどいまいちピンとこない。先輩とライオン……ライオンと先輩……。
「……そんなことないと思うけど」
「いや、怖い怖い肉食動物だよ!!椿食べられちゃうよ!!」
「そんなことないよ……」
例え話をしてるのに必死な様子で言う若菜に苦笑いする。
「あえて言うならホワイトタイガーじゃない?肌白いし」
私の安直な発言に若菜が何でもいいけど肉食動物だと言う。優しい先輩に凶暴なイメージは合わないと思うんだけどと考えていると信号で車が一時停止した。
車を一時停止させた先輩に携帯を見せてあげるとよく見えなかったのか先輩の手が私の携帯へと近づいてきたその時若菜が叫ぶ。
「ダメダメー!!」
「な、若菜どうしたの?」
「隼人に携帯を渡しちゃ駄目だよ!!」
「え、どうして?」
「写真自分の携帯に送っちゃうから!!」
「……なんで?」
なんでこの写真を自分の携帯に送る必要があるんだろう。
「そんなことしないよ」
「ほら先輩も言ってるよ?」
「前科あるもん!!」
「えー、そうなの?」
「椿の写真だから!!」
「え!?」
なにか他の写真を、という話かと思って苦笑いしたけど私の写真を?どうして?
「運転中にそんな時間ないよ」
「隼人ならできるでしょ!!」
そう話している間に信号が変わって車が動き出す。
「とにかく椿の写真フォルダがあったんだよ。嫌でしょ?嫌いになった?」
「だから嫌いにはならないって。……でも写真フォルダって?」
「む、昔の話だよ」
先輩に問いかけるとそう答えた。昔ってどういうこと?高校生の時?いつもと違って少し慌てたような先輩は続けて言った。
「今はないよ、大丈夫。昴に預けてるから」
「結城くんに……?」
「う、うん。ちゃんとDVDに保存してるから大丈夫」
「……なにが大丈夫なの?」
先輩と結城くんがそう言うけどなんで動揺してるんだろう。私はどうして高校生の時先輩が私の写真を保存してたかがわからなくて混乱していた。
「ほら、さすがに坂下さんでも気持ち悪いと思うでしょ」
「あ、えっと、そういうこと……?別に知ってる人だし盗撮じゃないんだから……」
結城くんの言葉でなにを慌てていたのか気が付いて私は言った。知らない人に盗撮されて写真持っていられたら怖いと思うけど先輩だし……。理由がわからなくて困るんだけど。
「今度からはちゃんと許可をとるよ」
「そ、そうですか……」
だからなんでそんなに私の写真なんて欲しがるの……?優しく笑う先輩に聞きたいけど他にもたくさん疑問があってなにを聞けばいいのかわからなかった。
結局そのあとも賑やかに家族の話とか仕事の話とかを話してあっという間に私の家のそばに着いた。そこでふと思い出した私は先輩に言う。
「先輩、管理人さんに聞いたんですけどアパートの裏側に駐車場があってそこに車停めて良いそうなんです。今まで車停めることがなかったので知らなくて、聞くの遅くなってしまってすみません」
「なんで謝るの?聞いてくれてありがとう。それじゃあそこに停めるね」
そう言って先輩は車をアパートの裏側にある4台車が停められる小さな駐車場に停めた。
「ふー着いた着いたー!!」
若菜がそう言って車を降りて私も続いた。そして結城くんと先輩も車を降りた。
「楽しかったねー!!」
「うん!!楽しかったね、それに若菜と結城くんに会えて嬉しかったよ」
「ほんとー?」
「え?本当だよ、なんで?」
「会えて嬉しかったのは隼人じゃないの?」
「え!?」
若菜にニヤニヤしながら言われて私は焦る。確かに来週まで会えないと思ってた先輩に会えて嬉しかったけど……。
「ま、3回に1回は協力するって言ったからねー」
「え?若菜もしかしてそれで……?」
単に若菜が私に会いたくて思い付きで来ただけだと思ってたのにそこまで考えてくれてたのかと驚く。
「さあねー!!椿に会いたかったのも隼人に嫌がらせしたかったのも本当だけどねー!!」
「え、それってどっち……」
「ねえ、坂下さんちょっと良い?」
「え?は、はい」
若菜と話しながらアパートに向かおうとしていると先輩に呼び止められた。
「どうしたんですか?」
「ちょっと話したいんだけど、2人で」
「2人で……?」
「昴と若菜だけで荷物取りに行ったらまずい?」
「い、いえ、大丈夫ですけど……。それじゃあ若菜、鍵預けるね」
「はーい」
またなにか先輩に突っかかるかと思ったけど若菜はすんなりと私から鍵を受け取ると結城くんと歩いて行ってしまった。……協力してくれてたっていうのは本当なんだろうな。若菜の優しさが嬉しかった。




