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勘違いですれ違った恋  作者: 柏木紗月
再スタート編
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なにげない会話


 車に乗って家へと向かう。今日は楽しかったな。いろんな先輩の表情も見れたし知らないこともたくさん知れた。もっと一緒にいれたら良いのにと思うけど明日は月曜日だしゆっくり休んだ方がいいよね。


「坂下さんはお盆どうするの?」

「木曜日まで休みなんですけど両親がなにかと忙しいらしくて今年は帰らなくて良いかなって。月曜と火曜友達と一泊二日の旅行に行くんです。先輩はどうするんですか?」

「俺は水曜と木曜に実家に帰るよ」

「そうなんですね。あ、若菜と結城くんも帰るんですかね?私も会いたかったなー。もうだいぶ会ってないですよ」

「んー、帰ってくると思うよ。っていうかあの2人は実家のすぐ近くに住んでるんだから家出てる意味ないよね」

「電車で10分ですよね。実家も近くて昔から泊まったりしてたらそう思えちゃいますね。でも若菜は気分が違うって言ってましたよ」

「そう?だいたい若菜が家事をしてるところが想像できないなー」

「ご飯作ってるって言ってましたよ?」

「どうせ丼ものでしょ。優菜さんも丼ものしか作らないもんな」


 優菜さんというのは若菜のお母さんの名前だ。先輩も若菜も結城くんもそれぞれのお母さんお父さんを名前で呼んでる。


「そうなんですかね……?」

「きっとそうだよ。優菜さんが丼ものとお菓子以外のもの作ったの見たことないよ。一応和食ならなんでもできるらしいけどうちでは丼ものしか作らないからね」

「いくらなんでもお家ではいろいろ作ると思いますけどね……」

「いや、わからないよ。うちの母さんは洋食とか中華とかは作るけど和食は全然駄目だから。前に珍しく筑前煮が出てきたけど全然味がしなくてね。台所から調味料持ってこようとしたんだけど親父に止められてこういう時はなにも言わずに笑って食べるんだって言われた。その週末に家族で懐石料理屋に行ったんだけどそこで、和食なら食べに来れば良いよって言ったんだ。母さんは琉依さん素敵って言ってたけど絶対親父が一番酷いよね。不味いから二度と作るなって意味だからね」

「……そ、そうです……ね?」


 答えに詰まってしまった。調味料付け足されるのも遠回しに作るなって言われるのもショックだけど……。なんて答えるのが正解なんだろう。結局それ以上言えずに話を変えてしまうことにした。


「お父さんって琉依さんってお名前なんですね」

「そうだよ」

「お母さんも名前で呼んでるんですね。仲良さそうで素敵です」

「素敵かなー?けどなんだかんだで親父だけみんな名前で呼んでるよ。若菜のとこはお互いパパママって呼んでるし昴のとこはお父さんお母さんって呼んでる。母さんはいつまで経っても女子高生みたいなんだよ。あ、それは優菜さんもだけど」

「ふふ、可愛いじゃないですか」

「みんな親父を誤解してるんだよ。あれはエセフェミニストだ。確かに根っから良い人には違いないんだけどね。ただなー、なんていうか危険なんだよね……」

「危険……ですか?」

「うん、口にしたら終わりだと思うから言えないけど誰も入れさせない書斎がね……昔ちょっと興味本意で覗いてみたんだけどね……ああ、恐ろしい」

「……」


 なんなんだろう。すごく気になるけど教えてくれなさそう。先輩は怖い話をするみたいに神妙な顔をしていたけどそこまで言うと元の笑顔に戻った。


「ま、害はないから良いんだけどね。どうせ母さんが知ってもいつもみたいに琉依さん素敵って言うだけだろうし。母さんはいつまでも自分が親父を追いかけてるって思ってるんだよ。高校1年の時優菜さんと遊ぶために家に来た日5歳離れた親父を見て一目惚れしてからずっとね」

「お互いすっごく惚れてるってことですね!!素敵ですね!!憧れちゃいますね!!」

「女の子はこういうの好きだね」

「それはそうですよー!!話を聞いただけでドキドキしちゃいます!!」


 少女漫画みたいでドキドキする。パーマがかかった黒髪の清楚な美少女という感じの先輩のお母さんと先輩にそっくりなお父さんを思い浮かべる。美男美女でずっとお互い想い合ってて憧れちゃう、良いなあとうっとりする。


「ありがとう、伝えとくよ」

「え?私口に出してました?」

「うん」

「は、恥ずかしい……。一人暮らしだと一人言多くなりません?つい口に出しちゃうんですよね……」

「わかるわかる」


 クーラーが効いてるはずの車内なのに手で顔を仰ぎながら言う。


「俺もテレビ見ながら喋ったりするよ」

「ドラマでも普通のニュースでもなにか言っちゃいますよ。この前なんてテレビなんだから誰も聞いてないっていうのに頷いたり相づちしたりしまいにはへーそうなんだ、それそれで?とか言ったりして後で気付いて恥ずかしくなりました」


 私の話に笑ってくれる先輩に嬉しくなる。いつも私のなにげない話を嬉しそうに聞いてくれていた昔と変わらない先輩に胸が高鳴る。これだけのことなのに、ああ、好きだなって思う。他にもかっこいいところとか優しいところとかたくさんあるのにこうやって、なんでもないことを話しているだけで幸せな気持ちになれる。

 昔付き合ってた時に若菜のことを話さないようにしたらなにも話せなくなって話題に困っていたのが嘘みたいだ。若菜の話じゃなくてもこんなに楽しそうにしてくれるんだ……。もしあの頃こんな風に話せたらなにか変わってたのかな。ちゃんと話をできてたら違う未来があったのかな。

 そこまで思ったけどそれは考えても仕方ないことだと思う。過去は変えられないしあの頃があって今の私たちがいるんだから。だから今できることをしないと。その後もなにげないことをたくさん話して今住んでいるすっかり見慣れた風景を車が走る。


「お盆の前……って言うんですかね?土日は予定あるんですか?」

「うん、両方ともクラブがあるんだ」

「そうなんですね……」

「その前の土日は?」

「土曜日は旅行に行く友達と打ち合わせという名目で会う予定です。日曜日なら空いてます」

「俺は土曜日は空いてるんだけど日曜は大学の友達と会う予定があるんだ」


 嫌な予感がしながらその前の週は?その前は?と聞いていたら全然予定が合わないと知る。


「予定合わないね」

「……そうですね」

「平日でも良いけどあまり時間がないもんね」

「私別に21時じゃなくても……」

「それは駄目」

「あの……そもそも大学の時はもっと遅くまで出歩いてたんですけど」

「それでも駄目なものは駄目」


 困ったな。これじゃあ1ヶ月近く先輩に会えない。7年も会ってなかったのにこの数週間ほとんど会っていたから寂しく思う。もう、1時間でも30分でも良いから会えませんかって聞いてみようかな。


「あ、そういえば今週の金曜日なら外回りだから直帰したら19時には終わるかも」

「え、本当ですか!?」

「うん。それでも1時間と少しくらいしか会えないけどそれでも良い?」

「大丈夫です!!」


 やった。これで少しだけど先輩に会える。沈んでいた気持ちが少し浮上してきた。


「あと、良かったらこの前みたいに電話しても良い?」

「え?電話ですか?」

「うん。やっぱりメッセージも良いけど声が聞けるだけでだいぶ違うし」

「そ、そうですね。電話……したいです」

「じゃあ時間が合った時は電話で話そう」

「はい!!」


 声が聞ける、そう思ったらどんどん嬉しくなってきた。そしてすぐに私の住むアパートに着いて車を降りると笑顔で手を振って先輩を見送った。




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