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勘違いですれ違った恋  作者: 柏木紗月
再スタート編
35/53

間宮さんのこと


 しばらくすると先輩が立ち上がったから私も同じく立ち上がった。なにもしてないのにほっとするような穏やかな時間だったな。


「もう1時だね。お昼にしようか」

「そうですね。そこの道通るとすぐ出れますよ」


 一周回っても良いけど所々近道で出入口に戻れる場所がある。このまま道なりに行けば芝生があってピクニックをしたりスポーツしたりしてる人がいるし、出口近くには噴水があって周りには彫刻があったり絵が飾ってあったり私的には楽しめる場所がたくさんあるんだけど今日行かなくてもいいだろうし。


「じゃあそうしよう。この先はまた今度行こうか」

「え、今度ですか?」


 また先輩と来ることがあるんだろうか?……そうだった、最終的には先輩に好きになってもらってお付き合いするんだ。最近の気持ちの浮き沈みの激しさに最終的な目標を忘れるところだった。そうそう、積極的にならないと。


「そうですね。この先にも良い場所がたくさんあるのでまた来ましょう」

「ふふ。この前はなにもないって言ってたのに」

「私にとっては楽しいですけどみんなが楽しめるとは限らないじゃないですか。サイクリングコースもないですしアスレチックもないですし」

「俺はこういう所が落ち着くよ」

「あ、私もです。若菜がいたら5分も経たないで暇だーって言いそうですけど」

「あー確かにね。あいつはじっとしてるの駄目だから。風情がないやつだよね」

「いえ、そうは言いませんけどね!!もう!!いつもいつも酷い言い方して好きの裏返しですか!?」

「裏返しって……。別にそんなんじゃないんだけど」

「若菜には賑やかな場所とか可愛くてキラキラしたお店とかが似合うんですよ。そういう場所に一緒に行くのは私も大好きです」

「わかった、わかった。本当に坂下さんは若菜贔屓すぎるね」

「親友ですから!!」


 つまらないっていうかもしれないけど今度ここに若菜も連れてきてみようかな。若菜ならなんだかんだで楽しく過ごしてくれそうだし。

 そして行きとは違ってまっすぐ歩いたから出口にはすぐに着いて車に乗ってさっき話したカフェに来た。店内はモダンで落ち着いた雰囲気だ。大学時代の私は友達とよくここでゆっくりお喋りしてた。私はカレー、先輩はオムライスを頼んだ。


「そういえば先輩が見てるクラブチームってどんなきっかけで見ることになったんですか?」


 私はなんとなく疑問に思ってたことを聞いてみた。


「大学のキャリアーセンターにお世話になった職員さんがいたんだけど、こっちでの就職が決まってから親戚がコーチをしてるクラブチームを紹介してくれたんだ。良かったら暇な時に見てくれないかって。あまりこっちで就職する人がいないからいろいろ面倒見てもらってたしバスケはずっと好きだったから断る理由がなくてね。初めは本当に時々のつもりだったんだけどなんだかんだで結構な頻度で行ってるよ」

「そうなんですねー。……そもそもどうしてこっちに就職したんですか?なんの縁もゆかりもないですよね?」

「んーなんでだろうね」

「……教えてくれないんですね。そう言えば先輩が就職活動中に結城くんから私がこの辺りに住んでるって聞いたんですよね?それなのになんでわざわざ?」

「え、昴が言ったの?……困ったな、昨夜はなにも言ってなかったのに……。えっと……」

「え?今なんて言いました?」

「……いや、なんでもないよ。えーと、それもまた今度ね」

「もう、私のことはいろいろ聞きたがるのに自分のことは全然教えてくれないんですね」

「あ、ほらほら、料理きたよ」

「……わー!!美味しそう!!」


 あきらかにはぐらかされたと思ったけど料理が運ばれてきて美味しそうな匂いにつられてしまった。そして今日は食べるのに集中して最後まで美味しく食べた。


「この辺りに来た時は他にどんな所に行ったんですか?」

「本屋とかかな」

「わざわざこんな所に来てですか?」

「……本屋がそこにあったからね」

「……そうですか。大学の近くにある古書店ですか?私もよく行きましたよー」


 時々間が開くのが気になるけどどうせ教えてくれないんだと学習した私は気にせず話を続けることにした。私は昔から映画やDVDが好きだけど本も好きで暇があると読んでいた。あまり古書を読んだことはなかったけど、ここに住んで古書店を見つけてなんとなく入ってみてから好きになった。


「あ、そういえば間宮さんも古書が好きらしいですよ。少し意外だと思ったんですけど自分は知的な文系男子なんだって言ってました」

「あー、間宮さんはそうだね。うちの大学の近くにもあってよく行くって言ってたよ」

「あ、それで先輩も行くようになったんですね!!」

「いや、俺は行ったことないけど」

「え?そうなんですか?」


 それで古書が好きになってこの近くの古書店にも寄ったという話じゃないのか……。やっぱり先輩は不思議だな。


「間宮さんがそういうの好きって今思い出したし」

「そうなんですね。間宮さんってどんな大学生だったんですか?本人は知的でーとか物静かでーとかモテてたとかいろいろ言ってましたけど」


 多分モテてたっていうのは本当かもしれないけどあんなに明るい人が物静かに窓際でたそがれてたりしてたって聞いてもいまいちピンとこない。


「間宮さんの話は誇張されたりするから適当に流して聞いてれば良いよ」

「えー、そうですか?」

「そう。人を楽しませようってどんどん誇張されてくからね」

「確かに面白いですよね、話上手で。でも聞き上手でもありますよ」

「そうだね、基本的に面倒見がいいんだよね」

「ですよね。それは大学の時もですか?」

「うん。間宮さんがいなかったら俺は今ここにいないからね。感謝してるよ」

「そうなんですか?」


 先輩は懐かしそうに穏やかな顔をして言った。なにか思い出してるのかな。


「あ、どうせ間宮さんから俺が苛めるとか人使いが荒いとか聞いてるんでしょ」

「え!?そんなこと聞いてませんよ?」

「そう?でも絶対思ってる。信じちゃ駄目だよ?感謝してるのは本当なんだから」


 間宮さんからは本当にそんなこと聞いてないけど今度教えてみようかな。先輩の会社と打ち合わせに行ったあと会社戻ってくるとよく先輩の名前を呟きながら頭抱えてるし。あ、それにこの前自分の席でコンビニのお弁当を食べていた間宮さんがなぜか携帯と私を交互に見ながら先輩の名前を口にしてため息をつきながら文字を打ってた。なんだか先輩に関係することで疲れてるみたいだから先輩が感謝してるって言ったら喜ぶかもしれない。


「さてと、そろそろ行こうか?」

「そうですね。……ごちそうさまです」


 席を立つと同時に先輩が伝票を手にしたから私は笑顔で言った。そしたら先輩も笑ってくれてこれが正解なんだと思った。さっきのアイスの時は上手く言えなかったけどこういう風に自然に言えば良いんだと思うと心が軽くなった気がした。






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