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勘違いですれ違った恋  作者: 柏木紗月
再スタート編
33/53

花言葉の意味


 さもなんでもないことのように言う先輩に驚く。


「本当にですか!?」

「本当だよ」

「なんでですか!?なんで付き合わなかったんですか!?」

「いや、なんでと言われても……。勉強教えてるだけだから」

「そんなはずないです。きっと女の子は一目惚れして勉強に集中できないってなってたはずです!!」

「そんなドラマや漫画じゃないんだからないよ」


 そんははずない。こんなかっこいい人を目の前に好きにならない人がいるわけない。


「その子難関の私立大学目指してたすごい真面目な子だったんだよ。俺がちょっと冗談交えて教えただけで真面目に教えてくださいって怒ってきたり」


 そんな……。先輩のイケメンオーラをものともしない女の子がいるというの……?呆然としていたけど今日の目標を思い出して私は自力で戻ってきた。


「そ、それは変わった子でしたね……」

「坂下さんの方が変わってるよ」

「いやいや、そんなことないですって」


 そう話していると辺りは大学4年間を過ごした懐かしい景色になってきて思わず声をあげた。


「わー!!あ、あそこバイトの帰り道だったんですよ!!住んでたのは向こうで、あ、大学はあっち側で!!」


 大学を卒業してからは他の場所で友達と会っていたからこの辺りには卒業して以来初めて来た。私はすっかり興奮してキョロキョロと辺りを見渡した。


「あ、あそこのカフェには友達とよく行ってましたよ!!」

「俺も行ったことあるよ」

「え、そうなんですか?」

「うん、公園に行った後に。そうそう、カレーを食べたよ、美味しかった」

「美味しいですよね!!じゃああとで行きますか?オムライスとかもオススメです。美味しいですよ!!」

「そうだね、行こう」


 なんでこんな所に来ようと思ったのかわからないけど偶然私が4年間過ごした場所で共有できることがあるって嬉しい。その後もあのお店は美味しい、あのお店には可愛いインテリアがたくさんあった、と話しているうちに公園に着いた。いつも歩いて来ていたから駐車場は新鮮だった。


「あれ?眼鏡はずしたんですか?」


 車から降りた先輩は眼鏡をはずしていた。


「うん。どれが一番良いかなって思って」

「どれが一番……?なんのことですか?」

「髪下ろして眼鏡をかけてない時と、かきあげて眼鏡をかけてる時とはずしてる時、どれが良いかな?」

「……え、私がですか?」


 突然の問いかけに反応が遅れてしまった。……どれが良いと言われてもどの先輩もかっこいいんだけど……。


「ど、どれでも……」

「どんなでもかっこいい?」

「……またからかっただけですね!?かっこいいですよ!!これで良いですか!?」


 これだから自分がかっこいいってわかってるイケメンは……。私はすたすたと歩いてから振り返って後ろで笑ってる先輩に言う。


「もう、いつまでも笑っていないでください。まずどっちに行きますか?お花畑?噴水?」


 小さいけどぐるっと一周回るとそれなりにたっぷりと楽しめる公園だ。夏は噴水を見ながらベンチで読書するだけで帰ったりお花畑、緑道と散歩してその先の芝生で寝転がったりと過ごしていた。


「じゃあ花畑の方からゆっくり見ていこうか」

「そうですね、じゃあ行きましょう」


 花畑にはひまわりやアサガオ、ダリア、サルスベリなど、色とりどりの花が咲いていた。


「そういえばこの前間宮さんが営業先からドライフラワーのリースをいただいてきたんですよ。オフィスに飾ってるんです」

「そうなんだ。なんの花かわかる?」

「確か……センニチコウです」

「へー、良いね」

「すごく綺麗です。そうそう、間宮さんが花言葉を教えてくれたんです。それが「変わらない愛」え、知ってたんですか?」


 重なった声に驚く。


「うん。間宮さんに教えたの俺だからね。覚えてるとは思わなかったけど」

「そうだったんですか?あ、そういえば知り合いに聞いたって言ってました。先輩のことだったんですね」

「間宮さん余計なこと言ってなかった?」

「え?……特に言ってなかったと思いますけど」

「そう、なら良いんだ」

「その時に若菜の家ってお花がたくさん飾ってあったのを思い出したんです」

「うちもだよ。母さんたち昔から花が好きでね。花言葉とかも詳しいから俺も自然に覚えて」

「そうなんですか。なんだかお花に囲まれてるって素敵ですね」

「そうなのかなー。でもまあ俺も好きだから良いんだけどね」

「あ、だから公園巡りが好きだったんですね」

「ん?まーそれもある……かな。親父もなにかあるとすぐ花を買ってくるから母さんがこの花言葉はあれこれだって喜んで」

「素敵ですね!!憧れちゃいます!!」

「坂下さんはなんの花が好き?」

「私そんなに詳しくないんです。あ、でも今は咲いてないですけどあの花は好きです」


 そう言って少し離れた場所に植えてある咲いていない花を指差す。


「月下美人ですよね。この時期よくここで見てました。夜に咲くんですよね」

「うん」


 バイト帰りの夜に公園に寄ってこの花を見ると心が落ち着いた。忙しい生活で先輩のことを思い出さないことも多くあったけどふとした時に思い出して辛くなった。先輩に背格好が似ている人の後ろ姿を見た時。男の人に食事に誘われた時、告白された時……。だけどこの花を見ながら先輩を思うとなぜか穏やかに思い出に浸れた……。


「先輩、月下美人の花言葉は知ってますか?」

「……月下美人の花言葉は"はかない恋"だね」

「……そうなんですね」


 それを聞いてその花言葉がストンと胸に落ちた気がする。初恋に気付いた途端に失恋した……気付かなければ気持ちを知らないまま幸せな気持ちでいれたのに気付いてしまったから、はかなく散ってしまった恋。自分の心にそっくりなこの花が誰にも話さなかった自分の気持ちを知っていてそっとそばにいてくれているような気がしていたのかもしれない。


「坂下さん?」

「どうしました?」

「いや、どうしたの?」

「どうもしないですよ。むしろすっきりした気分です」

「……」


 わからなくても疑問に思ってなかったけど理由がわかったら妙に納得してすっきりした。ただ、それだけでなんでもないことだと思ったんだけど私とは逆に先輩はなにか考え込んでるようだった。


「先輩?行かないんですか?」

「あ、ごめんね。行こう」




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