花言葉の話と3家族の話
そして再び1週間が始まった。そんな週の半ば、水曜日のこと。営業から戻ってきた間宮さんがビニール袋を手にしていた。
「間宮くん、お帰りー。なにか買ってきてくれたの?」
「ただいま戻りましたー。いえ、得意先の人にもらってしまいまして」
「なになに?わー!!綺麗な花!!坂下さんもおいで!!」
「え?あ、はい」
青木さんに呼ばれて2人の元に行き間宮さんが袋から取り出したものを見る。
「わー!!綺麗。ドライフラワーですね」
それは赤色や赤紫色の花で作られたリースだった。
「せっかくだからその辺りに飾ろうかと思って」
「確かにこの部屋殺風景だもんね。あの辺りとかいいかも」
「そうですね。じゃ、坂下よろしく」
「はい!!」
フックって100円ショップに売ってるよね。お昼に行ってこよう。そう思いながらそのリースを受け取った。
「ところでこの花ってなんて名前なの?」
「センニチコウですよ」
「センニチコウ……聞いたことありますね。あんまりよく知らないですけど」
「私も花って見るの好きだけど詳しくはないなー」
「俺も詳しくはないですよ。けど花言葉は"変わらぬ愛"だそうです」
「へー!!素敵ね!!」
「間宮さん花言葉なんて知ってるんですね」
「知り合いにやたらそういうのに詳しいやつがいて聞いたことがあってね」
なぜか間宮さんがニヤニヤしながら私を見る。……なぜ?
「でも花言葉って素敵だし、花言葉で選んでプレゼントしたりされたりとかロマンチックよね。私も旦那に贈ってみようかしら」
「あ、それ素敵だと思います!!良いですねー」
「ちなみに椿の花言葉は"控えめな素晴らしさ"とか"謙虚な美徳"とからしい」
「え!?」
「え?あ!!そういえば坂下さんの下の名前って椿ちゃんだっけ?ぴったりねー」
「いえいえ、全然ですよ!!」
全然控えめじゃないし謙虚じゃないしそんな綺麗なイメージ私にぴったりなわけない。青木さんと、ぴったりよ、違います、と言うやり取りをしていて間宮さんの小さい呟きがよく聞き取れなかった。
「控えめで美しいカミーリア、ね……もっと早く気付けっていうのも横暴だよな……せめて本名だって言っておいてくれれば……」
「間宮さん?なにか言いました?」
「え?なんでもないなんでもない。じゃ、それ頼むよ」
「はい!!」
ちょうどお昼にしようかなと思っていたので私はランチに行くついでに壁に付けられる簡易的なフックを買うことにした。
そういえば若菜の家にはお花がたくさん飾ってあったな。それを思うと若菜たちのお母さんたちのことも思い出す。
高校生の時若菜の家に行くと先輩のお母さんがいることがよくあった。先輩はお母さんよりもお父さんにそっくりだし、2人のお母さんの雰囲気が独特というか……変わってるから特になにも思ってなかった。そういえばこれも若菜が気遣ってくれてたのか、先輩と別れてから若菜の家で遊ぶことはなかったから先輩のお母さんと会うこともなかった。
若菜、先輩、結城くんの3つの家族はすごく仲がいい。若菜のお母さんと先輩のお母さんが高校時代からの親友で結婚したタイミングも近くて、いっそのこと一緒に住もうという話もあったくらい。幼稚園の時に結城くんの家族が引っ越してきて若菜家とすぐに仲良くなって先輩の家族とも仲良くなって結城くんのお母さんは一度仕事を辞めていたんだけど越してきてから復帰した。それはこの3家族の誰がいつどこの家にいても不思議じゃない関係になったから。初めて聞いた時は不思議に思ったけど当事者たちにとったら普通のことみたい。
例えば結城くんのお母さんが残業で遅くなる時は若菜の家でご飯を食べる。先輩のお母さんが用事がある時は若菜のお母さんが先輩の家でご飯を作ったり洗濯物を取り込んだりするらしい。
若菜のお母さんと先輩のお母さんの雰囲気はそっくりで、話してるとまさに女子高生のようだった。私たちがたまにリビングでテレビを見ながらお菓子を食べて話をしていると外出から帰ってきた2人が買ってきたケーキを4人で一緒に食べるということもあった。2人は最近オープンしたお店とかハマってるドラマとか私よりも全然詳しくて自然に現役の女子高生に馴染んでいるようなふわっとした人たちだ。
そういえばどんな話の流れか忘れてしまったけど昔先輩が、脳内お花畑だって言ってたことがあったな。
それに対して結城くんのお母さんはあまり会ってお話したことがないけどバリバリのキャリアウーマンって感じのスーツをきっきり着こなすかっこいい人だった。聞いた話だとしっかりものだからふわっとした若菜と先輩のお母さんだけだと纏まらないこともスパッと締めてくれるような存在らしい。3家族の決め事も結城くんのお母さんが提案することが多いと聞いたことがある。若菜のお母さんが、若菜がお転婆で結城くんと2人だけじゃ遠出が心配だと言えばしっかりした先輩も一緒に行けば良いんじゃないかと結城くんのお母さんが提案する。すると先輩のお母さんが、年齢より大人っぽくて落ち着いてるからきっと大丈夫ね、と言う。結城くんのお母さんが、でもそれだと先輩も大変だろうから中学までにしましょう……とそんな感じでいろいろ決まり事が決まっていくらしい。
お母さんたちのことはそれなりに知ってるけどお父さんのことはあまりわからない。それはまあ、日中お仕事してるんだから当たり前だ。この前の先輩のお父さんの話の時もそうだけどあまり人となりは知らない。若菜のお父さんが公務員で若菜にすごく甘いってことくらいしか知らない。若菜がよくパパにおねだりしたら買ってくれたと見せてくれることがよくあったから。でも同じくらい怒ると怖いと言ってた。そして怒られた若菜がパパ嫌いって言うとお父さんは2、3日家に帰ってこなくなってしまうらしい。
と、思い出している間にランチを終えリースを飾り付け午後の仕事に向かう。今日も、毎日続いている先輩とのメッセージのやりとりを楽しみにもう一頑張りしよう。




