先輩と電話
先輩は日曜日の朝早くクラブチームの練習試合に付き添いに行くと言っていたから夜中にメッセージを送ったら迷惑になるかもしれないと思い日曜日の昼前にメッセージを送った。あの電話を切った後若菜から先輩に余計なことを言うなって怒っておくと連絡があった。だから先輩にはそのことも含めて諸々ごめんなさい、というようなメッセージを送った。そして夕方に返事が来た。
『気にしないで。若菜と昴と話をできたみたいで良かったよ』
『はい。2人と話せて良かったです。改めて若菜にたくさん助けてもらってたんだって思いました』
モヤモヤしていたけど電話をして2人の話を聞いて若菜の思いも聞いて改めて若菜の存在の大切さを実感した。
『妬けるなー』
『え？どういうことですか？』
『ねえ、俺も電話していい？今大丈夫？』
え、電話？なんでいきなり電話？
『大丈夫ですけど……』
電話で先輩と話すなんて今まであったかな……。あ、仕事であった。……でも緊張する。そう思ってると携帯が着信画面になって慌ててタップして恐る恐る携帯を耳に当てた。
『もしもし』
「も、もしもし……」
直接近くで話してる時と違う感覚に動揺して声が上ずってしまった。
『急にごめんね？』
「い、いえ。先輩は大丈夫だったんですか？」
『さっき解散したとこだから大丈夫』
「そうなんですね」
少し沈黙になって、私は話を切り出した。
「改めて、先輩にはたくさん迷惑をかけてしまってすみませんでした」
『だから迷惑だと思ってないから気にしないでってば』
「でも……」
『はい、この件に関して謝るのはもう終わり』
「え、え……」
『それより若菜には感謝してるのに俺には？』
「も、もちろん感謝してますよ!!」
先輩はなんとも思ってない私と付き合ってくれて傷付けてられても振り回されても気を使ってくれた。それに今でもこんなに優しい。感謝してもしきれないよ。
『本当に？』
「本当ですよ。若菜にはたくさん助けられていて大切な親友でそれを昨日改めて思ったんですけどもちろん先輩にも感謝してます。ありがとうございます」
『……坂下さんは本当に若菜のことが好きだね』
「大好きです!!先輩も好きですもんね」
若菜は私の自慢の親友だ。大好きな親友だ。若菜は物事をはっきり言えて感情豊かで自分に正直で、でもそれだけじゃない。誰よりも愛情深くて優しい素敵な女の子だ。そんな若菜だから先輩も好きになったんだろう。
『え、俺？……別にあいつのことは好きでも嫌いでもどっちでもないんだけど……。でもまあ従妹だし、俺はあいつと違って大人だから嫌いだとは言わないよ』
「ふふ。素直じゃないですね」
『え？……そういうんじゃないんだけど』
「大丈夫です、わかってますから」
先輩も若菜のことを乗り越えてなぜか別れてしまったみたいだけど新しい恋をして今がある。私も過去のことは変えられないし目を逸らしてきた分向き合わないといけないことがたくさんある。若菜やあの後先輩を立ち直らせてくれた恋人以上にはなれないだろうけどいろんなことに向き合って先輩に見合うようになりたい。そのために自分からもっと動かないと。
『え、なにが？……もしもし、坂下さん聞いてる……？』
「あ、あの……来週の土曜か日曜空いてますか？」
『え!?空いてる!!日曜日なら空いてるよ!!』
「あの、それじゃあ、良かったら日曜日私が大学生の時によく行ってた公園があるんですけど、そこに行きませんか？」
『うん!!行こう!!』
「あの、ただここからだと少し遠いんです」
大学生の時は大学のすぐそばにある学生マンションに住んでいた。そこの近くに自然公園があってよく行っていた。自分がよく知っている場所なら案内もできるし良いかと思うんだけど今住んでいる所からだと1時間以上かかるから電車かレンタカーでも借りて運転していこうかと思った。だけどその公園の名前を告げると先輩は思いもよらなかったことを言う。
『その公園知ってるよ。花畑とか緑道とかすごく綺麗な所だよね』
「え!?なんで知ってるんですか!?ここから遠いしすごく有名ってわけじゃない所なんですけど」
『えっと……ちょっと行ったことがあってね』
「なにするんですか？なにもないですよ？」
『んーちょっと公園巡りがブームの時があってね』
「え、そうなんですか!?」
意外な事実だ。また先輩の知らないところを知れた。
『じゃあ日曜日はそこに行こう。昨日と同じ所に車停めるから。時間は11時とかどう？向こうでお昼食べよう』
「ええ？電車とかレンタカー借りて私が運転しますよ」
『なんで車あるのにわざわざ借りたり電車で行くの？』
「だって先輩に悪いと思って……」
『全然良いよ。運転好きなんだ』
『そうですか？……そう言うなら良いですけど』
「良いの良いの」
よし、とにかくこれでリベンジできる。密かに気合いを入れた私はその後少し先輩と話をしてから電話を終えた。
