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勘違いですれ違った恋  作者: 柏木紗月
再スタート編
28/53

先輩の言葉は難しい


 カフェを出た私たち。周りは他人のことなんて気にしていないようで視線も感じなかったし、それには少し安心した。だけど私の中ではモヤモヤして黙って先輩の後ろを歩いていた。気付くと駐車場の先輩の車の助手席に乗っていた。


「あ、え?買い物は?」

「買ったよ」


 そう言って小さいキーケースが入っているであろう包装紙を見て安心……じゃなくて!!


「すみません、私なにもしてなくて……」


 この贈り物を買うために来たというのにこれじゃ、いったいなにしにきたんだか。昔から気付くと周りが見えなくて知らないうちに時間が経っている。こういう所が駄目なんだろうな……。と1人反省する。


「このあとどうする?どこか寄る?遠回りしてドライブでも良いけど……早く帰りたいってとこかな?」


 あんなに楽しみにしてたのに今は早く帰りたい。帰って反省会……そして若菜に謝りたい、いろんなこと。


「……すみません」

「じゃあ帰ろうか」

「それが良いです……」


 じゃあシートベルトしてね、と来る時と同じように言われる。ゆっくりと動き始めた車の外をしばらくの間ぼんやり眺めていると名前を呼ばれて先輩の横顔を見る。


「すごく動揺していっぱいいっぱいなところ悪いけど聞いていて。多分それどころじゃないかもしれないけど」

「……なんですか?」


 確かにそれどころじゃないけど話は聞ける。だってもう逃げないって決めたんだから。もうすでにさっき逃げてしまったけど……。かろうじで残ってる気力を耳に集中する。


「この前会った時坂下さんが言ってたでしょ?俺を傷付けて振り回したって。確かにあの頃辛かったしもう人生終わったってくらい落ち込んでたけどなにか違う気がして……。わからないけど俺たち、なんかすれ違ってるような気がするんだよね。はっきりわからないんだけど。……だからやり直したいんだ。やり直しって言っても今までのことをなかったことにするわけじゃない。あの頃楽しかったことも幸せなこともたくさんあった。だから今までのことを全部なかったことにしてやり直すんじゃなくてお互いに距離を縮めるところからやり直すような感じっていうのかな。えっと、わからない……?」

「い、いえ……。わからないですけど、わかります」


 すれ違ってるはずはない、それが勘違いだと思うからそれはわからない。でもあの日先輩に初めて会った日から渡り廊下や中庭で話してどんどん近づいていった感覚は今でも鮮明に覚えている。7年の間で途方もなく離れていた距離をあの頃のように縮めていくというのはわかる気がする。

 だけどどうして?久しぶりに会った後輩が懐かしくて?あの頃楽しいと、幸せだと思ってくれてたなんて本当なの?先輩の話すことはわかるところもわからないところもあるけど先輩の気持ちは全然わからない。


「ま、今はそれで良いかな。で、俺も二度と同じ間違いはしたくないから遠慮しない。言ったでしょ、逃がさないって」


 それが一番よくわからないんですよ……。


「やっとここまで近付いたんだ。これまでなんの状況も教えてもらえなかった。それなのに親たちはあの2人から聞く話をわざと聞こえるように言ってきて……。でも3年前にようやく道が開けて今はこんなに近くまでたどり着いた。もう絶対諦めないから」


 先輩は私に話してるというより一人言のようにそう言った。私の頭の中はクエスチョンマークだらけだ。もういよいよ先輩の話す言葉が理解できなくて頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 信号で車を一時停めて、先輩が笑って私の髪を撫でる。すぐに信号が変わり車が動いた。


「もう失敗しない。今度はちゃんと合わせるから。だからそのためにも坂下さんが何を考えてるのか、何を感じてるのか知りたいんだ。そしたら本当にすれ違ってるのか本当のことがわかる気がする。純粋に坂下さんのことならなんでも知りたいっていうのもあるけど。……それで、いっぱいいっぱいになってるだろうけど今の気持ちを教えてほしい。俺はこれからも坂下さんと連絡とりあったり時間が合うなら会いたい。坂下さんはどう?嫌?嫌じゃない?」

「……嫌、じゃないです。でも」

「でもの後は聞きません」

「え?今なんでもって……」

「嫌じゃないっていうのが聞ければ良いの」

「でも……」

「着いたよ。今日はゆっくり休んで。明日また連絡するよ」


 私が動けない間に先輩は助手席に回ってきてドアを開けてくれた。なにがなんだかわからないうちに車の外に出て手を振る先輩に手を振り返して車で走り去る先輩を見送った。

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