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勘違いですれ違った恋  作者: 柏木紗月
再スタート編
25/53

逃がさない。逃げない。


 昨日の帰り際の言葉はいったいなんだったんだろう。なんの予定もないお休みの日は朝から掃除をして終わったら録りためていたドラマを見ながらゆっくりするというのが私の日課だ。だけど昨日から先輩の言葉の意味を考えていて掃除を終えたらベッドに横になってずっと考えている。

 逃がさない……逃げる……。そういえば、と再会した日の先輩の悲しそうな表情を思い出す。昔別れを告げた時と重なって胸が痛む。なぜだろう。どうして先輩が辛そうにするんだろう、改めて考えても答えが出ない。7年前はほんの少しでも付き合っていた私に情を持ってくれたからだと思ったけど……。先輩の考えていることがわからない。

 なにも考えが浮かばないまま時間だけが過ぎ気付いたら19時になっていた。えっと、買い物には行かなくて大丈夫だったはず。冷蔵庫を見て簡単に豚しゃぶサラダを作ってからリビングへ戻る。ふと、携帯を見るとメッセージが来ていて慌てる。先輩からだった。


『こんばんは。昨日はありがとう。来週の土曜日だけどショッピングモールに行こう。13時でどうかな?』


 ショッピングモール……。この辺りだとここから電車で30分くらいの所にある大型のショッピングモールかな。


『大丈夫ですよ』

『それじゃあ昨日教えてくれた所で待ってるね』

『わかりました』


 と、返信して私は焦りだした。これじゃ終わっちゃう。もっと続けたい。なんて送ろう。今日はなにをしてたんですか?……そういうの嫌がられるかな。この前見たドラマの男の人が女性から今なにしてるの、どこにいるの、ってメッセージが面倒だって言っていたのを思い出して戸惑う。これじゃ会話終了だと悩んでいるとメッセージが届いた。


『坂下さんは今日なにしてたの?』


 それを見て安心した。聞かれるってこと聞いても大丈夫な話題だったかも。掃除してずっと昨日のことを考えていま……いやいやいや。打っていた文字を消す。


『掃除して、そのあとずっとボーとしてました』


 送ってしまってから私は肩を落とした。せっかく打ち直したのにこれではたいして変わらない。馬鹿っぽい気がする……。なんとか挽回しようと重ねてメッセージを送ってみた。


『でも今は晩ご飯を作って食べようとしてました』


 すぐにまた返事が来た。


『そっか。自炊よくするの?』

『仕事で遅くなった時は買ってきますし外で食べるのも好きなので毎日するってわけではないです』


 私の馬鹿みたいな発言は流してくれたみたいで安心した。


『今日はなにを作ったの?』


 え、そんなこと聞く?知っても面白くないと思うんだけど……。そう思いながら返事をする。


『豚しゃぶサラダを』


 あ……何故か恥ずかしくなってきた。


『写真撮って見せて』


 へ?写真……?


『写真ですか?』

『うん』


 写真……。私は携帯のカメラを起動して立ち上がると写真を撮った。あ、影が……。角度に気を付けてもう一度撮ってみた。何度か撮ってみてたいして変わらないいくつかの写真の中から良さそうなものを選んで送った。

 しかし送ってから私は気付いた。私、からかわれてる……!?


『美味しそうだね』

『先輩!!からかってますよね!!』

『あ、気付いた?』

『やっぱり!!からかったんですね!!』

『冗談だよ。からかってないよ』

『それが嘘です!!』


 恥ずかしい。そういえば昔もよくからかわれてた。恥ずかしいけどなんだか心が温かくなった。


『本当なのになー』

『それじゃあ先輩もなにか写真送ってください』


 少し経って送られてきた写真にはファミリーレストランで先輩と小学生くらいの男の子が数人写っていた。


『なんの写真ですか?』

『バスケのクラブチームの子たちとさっきまで一緒だったんだよ』

『クラブチーム?』


 なんのことだろう……?


『ちょっと縁があってたまに小学生のクラブチームの練習見てるんだ。今日も練習があったんだよ』


 そうなんだ。先輩のことを知れて嬉しくなった。


『そうなんですね!!みんな元気そうで楽しそうですね』

『生意気だし騒がしいし大変だよ』

『そうなんですか?』


 先輩は優しいしきっとみんなから慕われてるんだろうな。そんな様子が思い浮かんで楽しくなった。しばらくやりとりして明日も同じく練習を見るという先輩に挨拶して携帯をテーブルに置いた。

 このなんでもないやりとりに幸せを感じる。まるで先輩に出会ってすぐの頃に戻ったよう。ドキドキして熱くなっている頬に手のひらを当てて改めて思う。今度こそこの幸せを壊したくない。しっかり向き合って逃げないで考えるんだ。


 逃げない……。


 私は改めて強くそう思った。


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