メッセージのやりとり
鼻唄を歌いながらお風呂に入ってご飯を食べた。いつ返事が返ってくるかな……と、ベッドに座ってドキドキしながら携帯を手にすると先輩からメッセージが届いていると表示されていて思わず携帯を落としそうになった。ドキドキしながらメッセージを開く。
『俺も会えて嬉しかったよ。そしたら明後日の金曜日は空いてる?』
先輩からのメッセージだ……。じっと見つめて呆けてしまう。ふと、届いた時間を見ると2時間も前に届いていたと知って急いで返事をする。
『空いてます!!』
するとすぐに返事が来た。
『それじゃあお店探しておくね。行きたいお店ある?』
行きたいお店かー、どこが良いかな……。あ、でもそれより。
『この前は遠いところこっちに来てもらったので今度は先輩の家から近い場所にしましょう』
『気にしなくていいのに。じゃあ、坂下さんの最寄り駅にしようか。俺の所から10分かからないし』
10分……。そっか、改めて考えると4駅って近いな。そんなに近くにいただなんて思わなかった。
『それなら先輩の最寄り駅でも良いと思いますけど今回は私の最寄り駅にしましょうか。ありがとうございます』
ポンポンと素早く続くやり取りに心が踊る。
『いえいえ。じゃあ今日はもう遅いから明日また連絡するね。おやすみ』
あ、終わっちゃうんだ。時計を見ると23時。
『おやすみなさい』
返事を返して放心する。もっと続けたかったな。
「はあ……。なんで2時間前に気付かなかったのー私の馬鹿ー……。2時間前ってメッセージ送ったすぐあとだよ……」
一人暮らしを初めてから誰に気を使うこともなく、一人言が多くなった。もっと話したかったけど仕方がない。明後日になれば会えるんだ。緊張で上手く喋れないかもしれないけど楽しみだな。ふわふわとした頭でしばらく幸せな気分に浸っていた。早く明後日にならないかな……。
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昨日は早く金曜日になってほしいと思ったけど今日は今日でお店を決める大事なやりとりがあった。
木曜日の残業後、20時前に仕事を上がって携帯を見ると先輩からのメッセージが届いていた。幸せな気持ちになってメッセージを開く。
『お疲れさま。いくつかお店を探してみたよ。行きたい所はあるかな?この中になかったら遠慮なく言ってね』
メッセージと一緒にお店のURLが3つ載っていた。イタリアンレストラン、中華料理店、和食居酒屋。この中華のお店と居酒屋は行ったことがあったけどイタリアンレストランは敷居が高い高級なお店で私が行っても緊張しちゃって料理の味なんてわからなくなってしまいそうなお店だ。それに対して中華料理店と居酒屋は1人で時々行くこともある好きなお店。行くならこのどちらかだけど、この前先輩はお酒を結構飲んでたし居酒屋の方が飲みやすいかな。
『お疲れ様です。私は居酒屋が良いと思いますけど良いですか?』
返信をして駅に向かう。電車に乗っていると先輩から返事が来た。
『それじゃあ居酒屋にしよう。坂下さんはいつも遅くまで仕事してるの?』
『昨日今日と20時近くまでやってますけど日によります。定時に帰れる時もありますよ』
『そうなんだ。そしたら今は電車かな』
『あ、そうです。先輩は残業多いですか?』
『だいたい残業するかな。今ちょっと息抜き中。明日早く帰れるようにもう1時間は残る予定だよ』
『そうなんですか!?無理しないでくださいね。私も早く上がれるかわかりませんし』
『うん。そしたら明日は20時に待ち合わせにしようか』
『そうですね』
『そろそろ仕事戻るよ』
『はい。頑張ってくださいね』
『ありがとう。坂下さんは帰り道気を付けて』
先輩が今なにをしてるのかを知るってなんだかソワソワする。先輩の生活を覗いてしまった気がして少し罪悪感を感じる。いやいや、先輩が自分から教えてくれたんだから……。
けど先輩はちょっと警戒した方がいいかもしれない。今のだけでスーツをきっちり着こなした先輩が屋上で夜風に当たって休んでいるすごく絵になる姿を想像できてしまった。……私って危ない人かもしれない。とにかく先輩は私に変な妄想されないように自分の言動に気を付けた方がいい。私自身のことは棚にあげてそう思う。
なんて考えてる場合じゃないんだった。ここからは今後の方針に関わる真面目なことを考えないと。それはつまり先輩が結婚しているか、彼女はいないのかということを知ることだ。それによって略奪の方法をネットで調べないといけないし、不倫は絶対よくないからそこはネットで奥さんがいる人を好きになってしまった女性について調べれば冷静に、この気持ちをどうすればいいのか、ためになる話が載ってるはず。あまり気乗りはしないけど。というか既婚者だったらここでいろいろ全部終了だ。というわけで先輩が完全にフリーかどうかを知ることは目下最重要事項。
そして肝心な方法だけど……。私のことだから先輩を前にしたら聞く度胸もなく不戦勝というのが目に見えている。そこで考えたのはまず左手に結婚指輪があるかどうかを確かめるということ。それで指輪をはめてなければとりあえず結婚している可能性は低い。理由があってつけていないという可能性は一先ず置いておく。
それからそれとなく先輩に女性の影がないかを調べるために今女性の間で流行っていることを話題にする。例えばごく最近流行りだしたお店のこととか。と、そこでハッと気付く。ごく最近の流行りってなにがあるんだろう。最近どころかこの1年仕事ばかりで流行なんてまったくわかならない。
若菜と結城くん、それに大学時代の友達に会っても近況報告とか知り合いの噂話とかで世間の流行りに乗った話はあまりしない。
こうしてはいられないからとりあえずすぐに覚えられそうな流行りものをご飯とお風呂を済ませてからネットであれやこれやと調べているといつの間にか眠りについていた。




