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勘違いですれ違った恋  作者: 柏木紗月
高校生編
18/53

予想外の出来事と転落への始まり

 季節はまた巡り先輩は部活を引退し、9月になった。少しずつ涼しくなってきたある日。帰りのホームルーム後、教室で少し若菜と話したあと帰ろうと昇降口まで来たとき周りが騒がしいことに気付いた。


「どうしたんだろうね?」

「あ、椿。あっちみたいだよ?」


 ざわざわとしている集団になんとなく近づいてみると去年同じクラスだった浅岡さんと有吉さんがいた。


「浅岡さん、有吉さん、なにかあったの?」

「あ、坂下さん?なんか事故があったみたい」

「事故?」

「なんか女の子をかばって頭から血を流してる男の子がいてね」

「今私と同じクラスの結城昴くんって男の子なんだけど……」

「昴が!?」


 よく知る友達の名前を聞き、驚いて呆然とする私に対して、若菜は浅岡さんの腕をガシッと掴んで声をあげる。


「どこ!?昴どこ!?」

「え……と、保健室に」

「椿は待っててね!!」


 動けなかった私にすばやくそう言って若菜は走っていった。


「ゆ、結城くん大丈夫かな!?」


 よくやく私も慌てだすが浅岡さんの近くにいた女の子が声をかけてきた。


「あ、あの……。私偶然見たんだけど、野球ボールが飛んできて女の子に当たりそうになったところを男の子が庇ったの。その時そばにあった木の枝に手がかすったみたいで血が出たんだけど直後に頭を押さえたから手についてた血がうつってしまって……。それをみんなが頭から出血したって……」

「そ、そうなんだ……」

「その後も普通にしてたから大丈夫だとは思うけど……」


 脳震盪とか起こしてたら大変……。病院には行った方が良いだろうけど、ひとまず思ってたほど大きな怪我じゃなさそうで安心した。

 私も保健室に様子を見に行こうかと思ったけど若菜に待っててと言われたから昇降口で待つことにしよう、と浅岡さんたちに挨拶した。

 昇降口で待ってしばらくすると携帯が震えた。鞄から携帯を出してメッセージを開く。


『昴、全然たいした怪我じゃなかった!!心配して損した!!待っててもらってごめんだけど椿は先に帰っちゃって大丈夫だよ!!』


 よかった。大丈夫そうなんだ。私は安心したよ、先に帰ってるね、と返信して家に帰った。

 その日の夜また若菜からメッセージが届いた。


『昴と付き合うことになったよ!!』


「え!?」


 私は驚いて声を上げていた。急いで返信する。


『ほんと!?良かったね!!おめでとう!!』


 すぐ既読になって通話画面に切り替わった。もちろん若菜からだ。


『もしもーし』

「もしもし!!もう驚いたよ!!」

『えへへ』

「なんで!?なにがあったの!!」

『えっとね……』


 若菜から保健室での出来事を教えてもらって幸せそうな若菜に私も嬉しくなった。


『というわけで、無事に付き合うことになったんだよ』

「ほんとに良かったね!!」


 2人で興奮して少しそのあと話しててそろそろ寝ようか、と通話を切った。

 静かな部屋でしばらく放心状態になった私だけど思い出してまた嬉しくなった。

 だけど直後に先輩のことを思い浮かべる。先輩は2人のことどう思うんだろう。昔から知った仲だから両思いって知ってたかもしれないけど付き合ったって聞いたらやっぱり落ち込んでしまうかもしれない。あの笑顔を曇らせたくない。私にできること、なにかないかな……。

 結局寝ずに考えたけど良い案は浮かばなかった。

ふらふらする体に気合いを入れて学校に行くと、いつもより可愛らしさが増したような気がする若菜に抱きつかれた。


「椿おはよー!!」

「お、おはよう若菜。ごきげんだね」

「まあねー。聞いてよ!!」


 長年好きだからもう毎日ドキドキしたりしないと言っていたけど付き合うと違うみたい。朝ぎゅっと抱き合ってキスして、手を繋いで登校してきたと興奮気味に話す若菜に必死に相づちを打つ。

 なんだか2人は付き合ってますます仲良しになったみたい。授業は眠かったけどそういう日に限って先生からよく当てられ、授業の間の休み時間はひたすら若菜の話を聞き、そして昼休みになった。

 若菜も話に一段落して一息着く。そこでずっと気になっていたことを聞いてみた。


「若菜、聞いて良い?」

「なにー?」

「あの、佐々木先輩は知ってるのかな。2人のこと……」

「はあー?隼人のことなんてどうでも良いんだけど……。まあ椿だから仕方ないか。昴から聞いてるんじゃない?知らないけど!!興味ないし!!」

「そ、そうなんだ」


 若菜はいつも通り、佐々木先輩の名前を出すと機嫌が悪くなってしまった。だけど……やっぱり知ってるんだ。


「だって聞いてよ。昴と隼人って1日6時間電話してる時あるよ。女子かって感じだよね!!私の昴なのに!!私の昴なのに!!」


 結城くんを取られるみたいで嫌なんだろう。頬を膨らませていじけてる若菜に苦笑いする。

 佐々木先輩大丈夫かな……。今日は移動教室がないし、明日から3連休だし、心配だな。落ち込んでないかな、悲しんでるかな……。

 そして私はまだ言い募る若菜の話を聞きながら決意をした。放課後に会いに行ってみよう。

 放課後になり、結城くんと帰る若菜と別れて急いで佐々木先輩の教室へ向かう。先輩に会うのはいつ振りだろう。渡り廊下でも最近はほとんど話していない。顔をちゃんと見たのはどれくらい前だろう。自分から会いにいくことなんて今まであったかな。

 3年生の教室があるフロアは初めて来た。放課後で人が疎らの中、もう帰っちゃったかな、と思いながらも先輩の教室にたどり着いた。中を覗くと窓際の席の前から3番目に座っていて外を見ていた。

 良かった、まだいた……と安心して声をかけかけたその時に先輩の疲れた表情に気が付いた。


「あれ?坂下さん?どうしたの?」


 気が付いた時には遅くて先輩は私の方を振り向いた。

 私にはいつも笑顔を向けていた彼が、今はそんな余裕もないというように辛そうな表情を変えずにいるのを見て、私は自分の考えが浅はかだったことに気付き、身体から血の気が引くような感覚がした。

 こんなに落ち込むなんて私が思っていたよりずっとずっと辛いんだ……。


「坂下さん?どうしたの?」


 私は衝動的に、椅子から立ち上がった先輩に駆け寄って腕を掴んでいた。そしてなにも言わずに先輩の鞄を持つと腕を引いて走り始めた。


「さ、坂下さん!?ちょっと!?」


 慌てる先輩になにも言わず私は走って1年前はよく2人で話していた体育館近くの中庭まで来た。

 そこまで来て急に止まった私に驚く先輩に向き目を合わせて言った。


「先輩、私と付き合ってください」

「……は?」


 しばらく呆然としていて顔が青くなったり赤くなったりしている先輩を見ていた私も、だんだん自分が何を言ってしまったのか気付いて焦りだした。

 こんなはずじゃ……!!こんなこと言うつもりじゃなかったのに!!先輩が心配で様子を見にきただけだったのになんで!?

 傷付いてる先輩を見てられなくて、笑ってほしくて、元気になってほしくて、辛そうな先輩のそばにいたい、いなくちゃ……そう思ったら体が勝手に動いていた。

 だからって付き合ってほしいだなんて、自分で自分がわからない。とにかく今からでも撤回を……と思って口を開こうとしたけど……。


「うん」

「……はい?」


 今度は私が呆然とする番だった。先輩はさっきまでの表情から一転して優しく笑った。


「付き合おう、椿」


 胸が高鳴って体が熱くなった。だけどいつもと違い、冷水をかけられたように頭の中は冷えきっていた。

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