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勘違いですれ違った恋  作者: 柏木紗月
高校生編
10/53

佐々木先輩と渡り廊下で

 佐々木先輩と2度目に会った土曜日から2日経った週明け月曜日。私は不思議と気分が高まっていた。

 今日は会えるかな、でも新学期が始まってから1度も会えてないし、やっぱり会えないかな。

 そんなふわふわした気持ちで過ごし、既に午後。やっぱりそう簡単に会えないか、と思って昼休みの後、午後の授業のため理科室がある2号館に向かうため若菜と2人で渡り廊下を歩いている時だった。本当に会えると思わなかった彼が正面から歩いてきた。


「げ……」


 隣で若菜が呟いた。……そんなに会いたくなかったのか。彼も私たちに気付いて優しく笑ってくれた。


「こんにちは」

「あ、えっと、こんにちは」


「隼人、先に行ってるな」

「ああ」


 佐々木先輩は友達と一緒だったけど友達は私たちの横を通り過ぎていってしまった。


「あの、良かったんですか?お友達……」

「大丈夫大丈夫」


 佐々木先輩は笑って私の目の前に歩いてきた。


「授業?」

「はい。理科の授業で」

「そうなんだ」

「あの、佐々木先輩は?」


 そう言ってから、名前を聞いてないのに呼んでしまった事に気付いた。内心ひやひやしている私に、先輩は自然に応えた。


「昼休みに視聴覚室で土曜日の練習試合のビデオを見ててね。教室に戻るところなんだよ」

「そ、そうなんですか!!……すみません!!」

「え?なんで謝るの?」

「あ、いえ……。名前知っててすみません。あの、結城くんに聞いてしまって」


 会ったばかりの人に自分の名前を知られてて気持ち悪いとか、思われたかもしれない。俯いてる私は先輩の笑い声に思わず顔を上げた。

 先輩はあの時みたいに口元に手を当てて目尻を下げて笑っていた。


「あ、あの……?」

「あー、ごめん」


 先輩は目尻にうっすら浮かんだ涙を手で押さえている。涙が出るほど笑うことを言った覚えはないんだけど。あの時もだったけど先輩って普段から優しく笑ってるけどこうやって笑うことも多いんだな。


「えーと、なんだっけ……。そう、名前だね」

「は、はい」


 ようやく落ち着いたのか、先輩はまっすぐ私を見た。


「そんなこと気にしないよ。でも……じゃあ自己紹介しようか」

「あ、はい」

「俺は佐々木隼人」

「あの、坂下椿です。よろしくお願いします。」

「うん、よろし……」

「よろしくしないからー!!」


 若菜の突然の叫び声に驚いて肩が跳ねる。若菜、ごめん。先輩と話すのに必死で若菜のこと少し忘れてた……。

 そんな若菜は土曜日のように怒った顔で私の手を握ると2号館に走りだした。

 今日こそはちゃんと挨拶をしたいと、若菜に手を引かれながらも振り返ると佐々木先輩は笑って手を振っていた。


「坂下さん、またね」

「は、はい!!」


 名前呼んでもらえた……。


 


 一度会うと今まで会えなかったのが嘘のように佐々木先輩との遭遇率が高くなった。さすがに毎日とは言わないけど移動教室の途中に……あ、今日も会えた。


「坂下さん、こんにちは」

「こんにちは、佐々木先輩」

「また来たのね!!このストーカー!!」

「酷いな。偶然だよ」

「そんな嘘が通じるわけないでしょ!!」


 佐々木先輩に会うたびに若菜は先輩に突っかかるようになった。なんだかそのやり取りは気安い感じで見ていて少し面白い。若菜に言うとこっちは必死なの!!と怒りだしてしまうんだけど。


「坂下さんって食べ物はなにが好き?」

「え、いきなりですね。食べ物ですか?えーと、オムライスとかですかね。子どもっぽいですか?」

「そんなことないよ。可愛い」

「え!?可愛い!?」


 会うたびになにか質問されてからかわれてる気がする。この前は映画派かDVD派か聞かれて家でリラックスしてDVDを見るのが好きだと言ったらテレビに近付きすぎて親に怒られてそうと言われた。昔はよく怒られてたけど今はそんなことしませんと否定したら笑われた。先輩は人をからかうのが好きみたいだ。


「この前椿は私と2人で2時間待ちの洋食屋さんに行ったんだよねー。隼人行列嫌いでしょー。隼人とは美味しい人気のお店に入れないけど私となら行きたい放題だよー」


 佐々木先輩って並ぶの嫌いなんだ。あの洋食屋さんのオムライス美味しかったからおすすめしたいけど嫌いなら仕方ないな。


「坂下さんのためだったら2時間待ちでも4時間待ちでも並ぶよ。若菜と昴と並ぶと喋りっぱなしで疲れるから嫌いなの。保護者になってる気分だよ」

「いーや、保護者ポジションは昴だから。わーわー煩い隼人を宥めてる昴が一番大人だから」

「きーきー煩いのは若菜だよね」

「きー!!授業遅れる!!椿行こう!!」

「え、うん!!先輩、失礼します」

「バイバイ」


 時計を見ると授業までもう1分しかなかった。若菜が気付いてくれて良かった……。




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