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ゲーム人生ぷらすリアル人生  作者: 小倉桜
第八章 クリスマス!
80/100

第七十六話

 開始から約四十分。

 俺はすでに見学になっていた。


「ずるい……けど……」


 誰にも聞こえないように呟いていたが、この先は心に留めた。

 嬉しいという言葉を。


 目の前ではサンタコスをした女の子たちがゲームを続けている。

 銀行役になったため、そちらは見なければいけない。不可抗力だ。


大翔ひろとくん、両替お願い」

「はいよ」


 うん。素晴らしい。


 でも、俺はこのせいで負けたんだ。

 というのも、遡ること約二十分前……。



※※※



「ヒロ、そこの土地、交換して?」

「え、うーん……」


 このゲームの特徴の一つである交渉。

 サユが持ちかけてきたのは、土地と土地の交換だった。

 この交換が成立すると、お互いに一色揃うことになる。


 しかし、サユが揃う土地の方が基本的に高い。

 少しためらわれる。

 それでも、こっちは家を建てたりするのがサユより安いのでそこは有利だ。


 とりあえず、サユの心情を読もうと、サユに視線を戻す。


「っ!?」


 しかし、すぐに視線をさりげなく逸らした。


 少し大きめのサユのサンタコス。

 サユが前傾になることで、破壊力が高まっていた。


 もともと出ていた肩はさらに顔を出し、反対の肩が隠れているのがその異常さを引き立たせる。

 ゆるゆるになった胸元からは小さな膨らみが今にも顔を出しそうだ。


「ヒロ、どうした?」

「いや……」


 いつもならすぐに気づくくせにまったく気づいていない。

 萌え袖になった手で、自分が差し出す土地のカードをこちらに見せてくる。


「交換する? しない?」


 そう言いながらサユはどんどん近づいてくる。

 服はさらにずれ、肩の露出を増やしていく。

 下着が見えるんじゃないかと思ったが、病的なまでに白い肌が続いている。


 そして、もう片方の肩も露出しそうになったところで、


「わかった! 交換する! するからちゃんと座ってて!」


 とサユの両肩を掴んで座らせた。


「ふふーん」


 俺の気も知らずに、サユは交換が成立して満足そうだ。


 一方俺は、手に残るサユの肩の感触に、ドキドキしてしまっていた。

 すべすべで細くて……。


 いやいや! ゲームのことを考えろ!!


「大翔くん、私とはこれを交換しない?」


 そう得意げな顔で言うのはあかりだ。

 左手を顔の近くでピースにして、右手でカードを見せてくる。

 決まりつけにはウインクをしてきた。


 その姿にさらに鼓動が高まる。

 周りにまで聞こえているんじゃないかと錯覚するレベルだ。


「す、いや……」

「す?」


 危うく即答で「する」と答えそうになったが、出されたカードはまた頭を悩ませるカードだ。

 また考え終わる前に渡すことになったらまずい!


「今ならこれもつけるよ!」


 そう言った月はスカートをひらりと翻しながら席を立つ。

 ちらっと見えた薄ピンクの布は、裏地だと思う。


「どう?」

「も、もう無理……」

「無理?」

「こ、交換します。わかりました……」

「そ、そう? やったっ!」


 嬉しそうに跳ねる月を見ていると、交換してよかったなと思える。

 また見えた薄ピンクの布は、やはり裏地だと思う。


「魔性の女ってこんことではおまへん?」

「大翔に対して限定だと思うがな」


 眞智まち先輩と久美くみ先輩のその言葉を聞いたことを最後に、俺は自分の敗北まで無の境地にいた……。



※※※



 なんてことがあった。

 勝ち目なんて最初に潰されたんだよ。うん。言い訳じゃないから。


「大翔、これ頼む」

「あ、はい」


 事務的だぁ……。


「あっ……。むぅ……」

「うふふ♪ 残念でした♪」


 おぉ……。月が黒い笑みを浮かべている……。


「ヒロ、わたしも破産した……」

「残念だったな」


 そう言いながら隣に来るサユを無意識に撫でてしまうが、そこでまたサユの露出度に気づき、こっそりと手を引っ込める。

 危うく深淵を除くところだった。


「悪いなぁ~久美~」

「くっそぉぉぉぉぉ!!!!」


 なんと久美先輩まで続けて破産のようだ。

 最後は眞智先輩と月の一騎打ち!


「うっし。……こほん。さぁ、一騎打ちとなったのは月選手と眞智選手です。状況はほぼ五分と言ってもいいのでしょうか? 解説の桜雪さゆきさん」

「そうですね。少々月が有利でしょうか」

「ノリノリですね……」


 唐突に始まった久美先輩の実況とサユの解説。まるで打ち合わせをしてきたかのようだ。


「有利と言いますと?」

「揃っている色が多いからですね。高額レンタルの土地が並んでいると、単純に引っかかる確率が上がりますから」

「なるほど」

「え、続く感じなんですか? そのスタイル」


 ダメだ。俺の話聞いてない。


「あ、しもた……。もうダメや……」

「やったー!」

「まさかの決着! てか早く終わりすぎだろ」

「早期決着。びっくり」

「だね……」


 眞智先輩がすぐに月の持つ土地に止まってしまった。

 そこはホテルもできていて、高額なレンタル料だった。いくらなんでも払える額ではない。


「ほかのゲームもすっか」

「次やると時間かかった場合途中でやめなきゃになっちゃいますって」

「それもそうだな……」


 さすがにずっといるわけにはいかないからね。


「じゃあ、着替えもあるし、ここまでにしとくか……」

「せやね~」

「わかった」

「わかりました!」

「それが良いと思います」


 真剣に頷きながら、俺は最後にみんなのサンタコスを熱心に脳内に焼き付けた。

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