第五十話
真っ赤な夕日が見える。
あれ?
誰かが目の前で何かを話している。
なんでそんなに悲しそうな顔をしているの?
なんでそんなにつらそうなの?
目の前にいる女の子の後ろには、大きな男の人がいる。
この子の親だったかな?
大きなカバンを二人して持っている。
大きな男の人は家に鍵をしめた。
どこかへ行くの?
どこへ行くの?
女の子は首を振った。
もう会うことはないかもしれないと。
え?
なんでそんなこと言うの?
女の子が男の人に手を引かれ、行ってしまう。
待ってよ。
そんな……。
もっとたくさん遊ぼうよ。
お話しようよ。
女の子はこちらを振り向いて、手を振った。
綺麗な白い髪をふわりと靡かせ、こちらを見つめる紅い瞳はうっすらと消えていく。
俺は一生懸命走って追いかける。
それでも二人の影はどんどん遠ざかっていく。
ねぇ、待ってよ!
どこに行くの?
そんな声は届かない。
勢い余った俺は、転んでしまった。
顔を上げてみると、悲しそうな表情をした紅い瞳の女の子がこちらを見ていた。
さよなら。
たしかにその子はそう言った。
赤い夕焼けは、町を赤く照らしていた。
※※※
「はっ……!?」
なんだ……!
周りを見回す。
なんの変りもない俺の部屋だ。
全身汗でびしゃびしゃだ。
「夢……か」
なんだろう。
あの夢。
懐かしいようなそうじゃないような。
トントン。
扉をノックする音が聞こえる。
「にぃ、入るよ~。ってどうしたの!?」
「いや、嫌な夢を見てさ」
「そうなんだ……。大丈夫?」
「うん、もう大丈夫」
「そっか。ならよかった」
乃愛は心底安心したような顔をした。
いつもはツンツンしてるのに、こういう時はとても優しいんだよね。
これがツンデレか……?
いやいや。
「シャワー浴びる?」
「うん。そうする」
「じゃあごはん準備して待ってるね」
「先に食べてていいよ」
「待ってるっ」
乃愛はそういうと、部屋を出て行った。
「かわいいやつめ」
俺は伸びをすると、着替えを持って部屋を出た。
※※※
「おはよう、サユ」
「おはよ」
玄関を出てサユと合流し、登校する。
秋になって涼しくなってきていた。
「季節の変わり目だから、風邪引かないようにね」
「大丈夫」
今日は天気がいいので、ぽかぽかとしている。
日向ぼっこがしたくなるような気候だ。
とても過ごしやすい。
「おはよっ。大翔くんっ、桜雪ちゃんっ」
「おはよ、月」
「おはよー」
途中で月と合流する。
「二人ともあったかくしてる?」
「大丈夫だよ。サユにもよく言ってるし」
「問題ない。というか、二人ともその話題。世話好き」
「たしかに」
月がくすりと笑う。
「乃愛ちゃんは大丈夫?」
「大丈夫だよ。乃愛自身がしっかりしてるし」
「でもまだ小さいんだから、ちゃんと見てなきゃダメだよ?」
「わかってる」
乃愛には本当に助けてもらっている。
俺にも力になれているといいんだけど。
両親は仕事で基本的に家にはいないし、寂しい思いをさせないようにしないと。
今日帰りに何か買って行こうかな。
「そういえば、今日は学園祭の出し物を決めるんだったよね」
「あーそういえばそうだったね」
秋の学校行事と言えば学園祭!
各クラスや、部活動での出し物を回り、遊んだり何かを食べたりする。
必ずメイド喫茶がいいとか言う男子がいるんだよね。
「二人は何かやりたいものとかあるの?」
「う~ん……俺は特に思いつかないかなぁ……」
「わたしもとくに」
「そっかぁ~。私はメイド喫茶でもいいと思うんだけど」
なんだと!?
メイド喫茶がいいと言う女の子がここに!?
月のメイド服か……。
ごくり。
「メイド喫茶だと、メイド服を着ることになる」
「桜雪ちゃんは嫌?」
「ヒロに見られるのはいいけど、ほかの人に見られるのは微妙」
サユのメイド服……。
これも様になっててかわいいな……。
「ヒロ、妄想は順調?」
「えっ!?してないよ!?」
「誤魔化さなくていい。ヒロも男の子」
「だからそういう問題じゃないよね!?」
わちゃわちゃと話しながら教室に着いた。
あれ?
「あれ?話しかけてこないね?」
「うん」
月も気づいたようで、いつも騒がしいあいつが「おはよう」と言ってこないことに違和感を持っている。
「祐樹、どうかしたか?」
「おう大翔。それに月と桜雪ちゃんも」
「おはよっ」
「おはよー」
「ああ、おはよう」
何やら深刻な表情をしてる。
「どうしたんだ?そんな世界の滅亡でも予知したみたいな顔して」
「そんな顔はしてなくね!?」
「で、どうしたんだよ」
「ああ。俺は今、とても悩んでいるんだ……」
「見ればわかるんだけど……」
なんだかどうでもいいことのような気がしてきた。
「学園祭の出し物、メイド喫茶かお化け屋敷か……」
「お前に決定権はないからな」
「くっ……ゼロより確率を上げるんだ……!」
やっぱりどうでもいいこと……。
でもないかもしれない。
メイド喫茶……お化け屋敷……ふむ。
サユは本気で怖いのが苦手だから、どちらかというとメイド喫茶にしてほしいところだな。
「やはりメイド喫茶か!」
「そうなるといいね」
※※※
「では、何か出し物の提案はありますか?」
クラス委員長がそう聞いた瞬間。
ほとんどの男子が我先にと大きな返事をして手を挙げた。
その中には祐樹の姿もある。
「では谷治さん」
「メイド喫茶!」
祐樹が即答で答えると、周りの女子から「え~」という不満の声が上がった。
男子からは「その通りだ」という声が上がっている。
「ほかにありますか~?」
「じゃあ、はい!」
「風祭さん」
「執事喫茶なんてどうでしょう!」
女子からは「お~」という声と、男子からは「なんだと!?」みたいな雰囲気が伝わってきた。
そのあともいろいろ案が出たが、なんだかみんな乗り気ではなさそうだった。
いかに、メイド喫茶にするか、もしくは執事喫茶にするか。
そこだけを考えているようだ。
「では、多数決を取りますね。一度だけ、手を挙げてください。まず、メイド喫茶が良いという方」
男子全員が無言でさっと手を挙げる。
そこには俺も含まれている。
だってサユと月のメイド服、みたいもん。
「次に、執事喫茶が良いという方」
女子全員がさっと手を挙げる。
自分たちがそういう格好をするなら男子もみたいな感じだろうか。
「では、この二つが残りましたので、合わせるということでどうでしょうか?」
「おー!」という歓声が上がった。
みんな合わせるという発想はなかったようだ。
これなら男子も女子も楽しめそうな感じになるだろう。
「では、これから係を決めます。まず必要なのは料理ですね」
「ていうか、一年生でも料理とかしていいの?」
「うちの学校は部活動なども多いですからね。その辺は問題ないそうです」
さらっと決まったことだけど、たしかに料理ができるのか疑問だよな。
ていうか、できるのか。
すごいなこの学校。
「料理は沖倉さんがいいんじゃないかな?」
「だよね。お弁当いつもすごいもんね」
誰かがそういうと、たしかにと多数の声が上がった。
まぁ俺も、サユが適任だと思う。
俺が作ったものもあるんだけどね!
「沖倉さん、料理長をお願いしてよろしいですか?」
「任せて」
そのあとも、終始盛り上がりながら、順調に係は決まっていった。




