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第7章ー6

 場面が変わり、ズデーデン危機に舞台は移ります。

 結果的にだが、張鼓峰事件と連動して起こったのが、いわゆるズデーデン危機である。


 この辺り、今一つ、ズデーデン地方の住民以外には分からない事情が、ある程度は絡んでくる(これについては、いわゆる被害者にしか、本当は分からない、という被害者への第三者からの理解を、半ば拒絶する主張と相通じるものがある事情というべきかもしれない。)。


 それこそ、中世からの民族事情を語る話になるので、できる限り、簡略化して説明するが。

 中世以来、ズデーデン地方は、ドイツ人とチェコ人が、様々な事情から混住してきた土地だった。

 そして、ある程度の歴史変遷はあるものの、三十年戦争終結後は、ズデーデン地方では、基本的にドイツ人の優位が確立することになり、更に、19世紀の普墺戦争等の影響により成立したオーストリア=ハンガリー(二重)帝国の領土に、第一次世界大戦終結までの間、ズデーデン地方はなることになった。


 勿論、こういった状況は、チェコ人の不満を高めるものだった。

 実際、二重帝国成立直後から、多くのチェコ人は、チェコ人も参加する、いわゆる三重帝国化することを求め続け、それに対抗するように、ドイツ人は、二重帝国のままでよい、と主張し続けた。

 また、(主にモラヴィア地方在住の住民を対象とした)チェコ人とドイツ人との言語を対等に扱うべき、という運動は、特にズデーデン地方では、優越的な地位を占めているドイツ人にとっては死活問題となった(多くのズデーデン地方在住のチェコ人は、これまでの歴史的経緯から、ドイツ語とチェコ語を基本的に習得しているのに対し、一方のドイツ人は、ドイツ語しか習得していないことが多く、対等にチェコ語とドイツ語を扱うことは、ドイツ人の就職等の機会を大幅に奪うものとして、大反発を引き起こした。)


 そして、第一次世界大戦の勃発と終結。

 これによって、オーストリア=ハンガリー帝国は、完全に崩壊した。

 チェコスロバキアは、オーストリア=ハンガリー帝国からの分離を果たし、独立国となった。

 そして、ズデーデン地方は、チェコスロバキア領になった。

 だが、それにより、全ての問題が解決するどころか、むしろ、深刻になった。


 チェコスロバキアでは、チェコスロバキア語(細かいことを言うと、チェコ語とスロバキア語は、別の言語になるが、事実上はお互いの方言に近い言語で、チェコ語話者とスロバキア語話者による母語の会話が、通常は成立する位である。)が、唯一の公用語と定められることになった。

 そして、ドイツ語を教える学校は、チェコスロバキア政府が進める公用語政策により、相次いで難癖をつけられて閉鎖に追い込まれてしまい、ここに至り、チェコスロバキア領内のドイツ人は、自らの言語を奪われる危機にさらされることになった。


 更に悪いことに、1929年には、世界大恐慌が勃発したことにより、チェコスロバキア領内でも失業者が、1930年代には、多数、溢れる事態が引き起こされた。

 そして、チェコスロバキア政府は、(半ば当然のことながら)自国の民族を優遇したために、チェコスロバキア領内のチェコスロバキア人と、ドイツ人の失業率を比較した場合、ドイツ人の失業率は2倍以上、という事態が引き起こされた。

 だが、チェコスロバキア政府は、そもそもの母数が違う、と主張して、こういった事態が国際的に公表されても、チェコスロバキア人の失業者の方が多いことから、チェコスロバキアの失業者を優先する、という態度を堅持し、チェコスロバキア人の多くも政府の態度を支持した。


 こういった事の積み重ねによって、ドイツ政府がズデーデン地方に介入する口実となり、ズデーデン危機が引き起こされた。

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