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第6章ー25

「サッカー日本代表監督を務めている石川信吾大佐も、秋月大尉の戦死を知った際、絶句したらしい。それくらい衝撃を受けられたらしい」

 土方勇は、岸総司に、声を潜めたままで言った。

「そうか」


 総司は、そう答えながら、想った。

 未だに中国内戦が終わる目途が立たない中で、不謹慎極まりない想いだ、と自分でも想う。

 だが、日本代表が、ワールドカップ優勝を果たす機会が、永遠に失われた気がする。

 いや、それどころではない、これからも、日本代表選手が、何人も戦死していくだろう。

 この戦争が終わった後、日本代表は、どうなっているだろうか。


「あなたは、知らない話でしょうけど」

 篠田千恵子が、少し口ごもりながら言った。

「本当に、何とか日本代表にも、ワールドカップに参加してほしい、という動きが、各国であったそうよ。中には、オリンピック休戦ならぬ、ワールドカップ休戦をしてはどうか、という主張まであったとか。6月19日に、ワールドカップは終わって、イタリアが優勝したけど、イタリア代表監督のポッツオ氏が、優勝記者会見の席で泣いて言ったらしいわ、日本が出ていない以上、胸を張って、帰国できないとね」


「それは、そうだろうね。イタリアは、このワールドカップでの雪辱に懸けていたからな」

 勇が口を挟んだ。

 ベルリンオリンピックで、その直後のローマでのイタリアプロ代表との親善試合で、イタリア代表は、日本代表に、2回も完膚なきまでに叩きのめされた。

 イタリア代表の面々が、口惜しがるのも、無理はない、総司は、そう想わざるを得なかった。


「ワールドカップの話で思い出したというか、言わなければいけないことがあった。本当に、どうも世界の情勢は、緊迫する一方だ。この3月に墺が消滅した。独と合邦して1つの国になってしまった。裏で独が、色々と画策した結果らしい。そのために、墺の代わりにスウェーデンが、ワールドカップに出場している」

 勇の言葉に、総司は、心の底から驚く羽目になった。

 まさか、1つの国が、あっさり消滅するなんて。


「張鼓峰というところでは、事実上、韓国とソ連が、先月、7月から国境紛争を起こしているわ。本来は蒋介石率いる中国とソ連の間の国境紛争なのだけど、蒋介石が弱腰だ、と韓国が煽って、韓国軍を派遣しているの。日本政府は、米政府にも協力を依頼して、仲裁に動いているけど、韓国は仲裁に応じる気配がない。本当に困ったものだわ」

 続けての千恵子の言葉に、総司は溜息が出る思いしか、しなかった。

 中国内戦で、日本も蒋介石政権も手一杯なのに、面倒事を、同盟国の筈の韓国が増やしてどうするのだ。


「チェコスロバキアのズデーデン地方でも、独に帰属すべきだ、という動きが急速に高まっている。本当に後1年もしないうちに、世界大戦が起きてもおかしくない気がする」

 勇は、総司に、更に追い打ちを掛けるようなことを言った。


 総司は、思いを巡らさざるを得なかった。

 日本にとって、中国内戦への介入でも手一杯に近いのに、韓国のために、対ソ戦にも、日本は突入するのではないだろうか。


 更に欧州情勢も、不穏極まりない。

 墺に加え、ズデーデン地方が独領になったとして、独が、それで満足するだろうか。

 今度は、ポーランド回廊やアルザス=ロレーヌ等も独領だと、これまでの経緯から味を占めたヒトラー率いる独政府は、言い出すのではないだろうか。

 英仏両政府は、独に対して対抗するために、慌てて再軍備を進めているらしいが、まだまだ独の方が、軍備においては圧倒的に先行しているらしい。


 それに、ソ連という存在がある。

 ソ連も、現在の欧州秩序に反感を抱いている。

 独ソが協調したら。

 総司は不安が高まって、仕方なかった。 

 第6章の終わりです。

 次に間章ー2として、この世界の日本軍の対戦車戦闘の話を5話程描いた後、第7章、ズデーデンと張鼓峰の危機(仮題)に入ります。


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