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第6章ー23

 米韓等も、日本の外務省の働きかけにより、(渋々とはいえ)黄河の堤防破壊に苦しむ住民救援のために、それなりに物資等の援助を行ったので、これによって、現地の中国派遣軍司令部は、一息つくことができたのだった。

(ちなみに、これによって、世界の穀物価格が上昇し、世界の農民の多くが潤うという副次効果もあった。

そして、ソ連等は、穀物輸出により、更に儲けることに成功した。)


 とはいえ、黄河の堤防破壊によって被災した住民の数は膨大である。

 一部の将兵の帰還を遅らせてまで、住民の救援、救護に日本軍は当たる羽目になった。

 更に、日本軍(及び満州国軍)には、追い打ちが掛けられた。


 徐州方面に潜伏している共産中国軍のゲリラ活動である。

 その兵力は、1938年夏の時点で、協力する住民の数も合わせると、どう少なく見積もっても、100万以上とも推定されるものだった。

 約60万人と推定されていた徐州方面に展開していた共産中国軍の生き残りは、地元という強みもあって、住民からの協力を得やすく、たちまちの内に兵力を膨らませたという訳だった。


 勿論、銃等の武器は不足していたし、正面切って彼らゲリラに日満連合軍と戦う力は、今や無かった。

 とはいえ、鉄道の破壊工作等の直接の脅威や、情報宣伝活動といった後方かく乱行動を、彼らゲリラは、住民の協力もあり、縦横に行うことが、かなりの面で可能だったのである。

 岡村寧次中将や今村均中将は、こういったゲリラ活動にも対処せねばならず、そう言った面でも、日本軍の活動は困難を極めた。

 この当時、岡村中将自身が、東京に当てた報告書の一節の中で、

「やっとの思いで、点と線を制圧しているというのが現状の有様である」

 と書く有様だった。


 蒋介石率いる友軍の満州国軍にしても、日米韓と連携しているのが悪いのか、中々、地元住民からの協力を得られない。

 被災住民に対する救援活動を、赤十字等の海外の民間団体と協力して行いつつ、地元住民に対する宣伝慰撫工作に努めることで、地元住民の歓心を買う一方で、武装抵抗に対しては、場合によっては容赦のない弾圧を加えるという、文字通り、飴と鞭を組み合わせることで、中国派遣軍は、占領地帯を蒋介石政権支持に染め上げるという任務に奮闘せざるを得なかった。


 こうした苦境にあることは、当然のことながら、岸総司少尉にも分かっていた。

 だが、1938年春に派遣されてから数か月、実の祖父、養父に叱られようとも、もう帰国したい、というのが、岸少尉の本音だった。

 多くの住民が敵となっており、安心できない。

 こんな地獄から、早く日本に帰りたい、という想いを、岸少尉はしていた。


 だが、ある程度は、状況を安定させないと、帰国した部隊が、すぐに派遣されるということになってしまい、帰国の意味がない。

 最終的に、岸少尉は1938年7月一杯、治安維持任務に部下達を引き連れて、奔走する羽目になった。

 地域住民の村に小隊と共に乗り込み、物資を提供する一方で、住民が武器等を隠匿していないか、を調査して、武器等があれば没収する。

 更に、地域住民から情報の提供を求めもする。

 岸少尉にしてみれば、神経を使う、本当に嫌な任務だった。 


 最終的に、検疫等もあったことから、帰国を果たした岸少尉が、一時の休暇を得て、養父や実母のいる実家に帰省できたのは、8月13日と文字通り、お盆の頃になった。

 更に次の日の昼間、料亭「北白川」の若女将、村山幸恵の協力で、昼間の休業時間に、「北白川」の個室を借り、異母姉の篠田千恵子や義兄になる予定の土方勇と岸少尉は逢っていた。

 千恵子や勇は、岸少尉が五体満足で、中国の戦地から無事に帰ってきたことを、心から喜んだ。

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