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第6章ー18

 実際、合肥を事実上の最北端の防衛線として、東西からの共産中国軍の猛攻を、自らが築いた防御陣地を死守して凌いでいた華中方面軍と、邯鄲から遥々南下してきた華北方面軍の機甲軍団が、合肥で手を結ぶことができたのは、後から見れば、種のある手品といえることだったが、この時の華北方面軍と華中方面軍、更に東京の参謀本部や軍令部からしてみれば、奇跡といえるレベルの話だった。

 第一次世界大戦からの様々な戦訓の蓄積を、フルに活用したおかげで、この手品は成立した。


「空から物資を受け取るか」

 第1機甲師団所属の西住小次郎中尉は、空を仰ぎ見ながら呟いた。

 20年以上前から行われていた戦術とはいえ、実際に自分が、その航空機から投下される物資を受け取る身になるとは思わなかった。

 牛島満少将等、(第一次)世界大戦に参戦した将帥は、チロル=カポレット戦等で、航空機による物資投下により戦った経験を持っている。

 西住中尉にしてみれば、よくもまあ、と思う戦術だが、牛島少将らにしてみれば、昔、やった戦術の一つに過ぎなかった。


「少ないですが、何とか砲弾等が届きました」

 空中投下された物資を拾い集めた小隊員が、西住中尉に声を掛けてきた。

「よし、前進するぞ。我々は、前へ進むしかない」

 西住中尉は、自らが率いる戦車小隊に号令をかけ、戦車小隊は前進を開始した。


 黄河の堤防破壊という、非情極まりない作戦を展開した共産中国軍にとって、最大の誤算が、日本の機甲軍団が、ほぼ黄河の渡河作戦を完了した後で、黄河の堤防破壊が行われたことだった。

 共産中国軍からしてみれば、まだ黄河の渡河作戦の真っ最中に、日本の機甲軍団はある筈で、黄河の氾濫によって、水底に日本の戦車等は沈むはずだったのだ。

 だが、その一方で、日本の機甲軍団は、文字通り、背水の陣で戦わざるを得なくなり、合肥へと急進して、華中方面軍と合流するしかない状況になったのも事実だった。


 共産中国軍の考えでは、日本の機甲軍団が黄河の渡河を完了するには、まだ時間が掛かる筈だったのだ。

 だが、1日30キロ以上の快進撃を行った日本の機甲軍団にとって、黄河はそんな障害ではなかった。

(航空偵察等を駆使した結果、渡河に適した地点を、日本軍が予め把握したうえで、黄河の渡河作戦を実行したというのもあったが。)

 そのために、黄河の堤防破壊により、日本の機甲軍団の南下を阻止し、その間に徐州方面の共産中国軍を西方に退却させよう、という共産中国軍の作戦は、根本から崩れ去ったのである。


 とはいえ、機甲軍団を支えるだけの大量の物資を、満州方面から北京等を経て機甲軍団の下に運ぶだけでも難事なのに、黄河が氾濫して、黄河を渡河しての物資輸送は、不可能とは言わないが、極めて困難という事態が生じてしまったのも事実だった。

 日本の機甲軍団を動かす燃料の一滴が、文字通り将兵の血の数滴と化すのは、やむを得ない事態だった。


「少しでも燃料を節約しろ。軽油の一滴は、血の数滴と考えろ」

 西住中尉自身が、そう叫びながら、共産中国軍と交戦することになった。

 皮肉なことに、日本の機甲軍団にとって、敵戦車の破壊に最も役立ったのは、事実上の副砲として、97式中戦車に搭載されていた12.7ミリのM2重機関銃だった。

 敵歩兵に対しては、主砲の57ミリ短砲身砲が役立ったが、敵戦車には役立たずだったのだ。


 西住中尉自身が、重傷を負った末、第3海兵師団の防衛線にたどり着き、岸総司少尉と握手することで、日満連合軍による、徐州方面の共産中国軍の事実上の包囲網が完成するのだが、それは、やっとの思いで日本の機甲軍団に届いた空中補給によるものなのは、間違いのない事実だった。 

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