表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/120

第6章ー16

 それどころではなかったのが、黄河の堤防破壊と同時に開始された、徐州方面の共産中国軍の反攻正面に晒された第3海兵師団の将兵達だった。

 第3海兵師団は、合肥を制圧した後、共産中国軍の反攻の兆候を掴んだことから、合肥周辺で防御陣地を構築して、共産中国軍の反攻を迎え撃つ準備をしていた。

 南雲少将以下、第3海兵師団の将兵は、「新選組」の異名を受け継ぐ精鋭の誇りをもって、迎撃準備に努めていたが、共産中国軍の反攻は、この迎撃準備で本当に持ち堪えられるだろうか、と南雲少将にさえ、思わせる程の激しさだった。


 岸総司少尉は、武者震いを迎えきれなかった。

 結果的とはいえ、岸少尉は、第3海兵師団の最左翼を守る部隊の一員となっていた。

 そして、第3海兵師団の最左翼ということは、南京方面から進撃してきた華中方面軍の最先端ということにもなっていた。

 共産中国軍が、単純に徐州方面から西方への脱出を図るのならば、第3海兵師団と、華北から南下を図っている日本の機甲軍団が手を結び、包囲網を完成させる前に、ひたすら日満連合軍との交戦を避けて、部隊の脱出を図るべきだった。

 だが、共産中国軍の思惑通りに、第3海兵師団は動いていなかったため、共産中国軍は、第3海兵師団を突破しての脱出作戦が必要だと誤解したようだった。

 徐州方面から脱出を図る共産中国軍の予備兵力の主力は、第3海兵師団の防衛線に突っ込んできていた。


「ともかく、ここに海兵隊が展開していることが、空から分かるようにしろ。間違えて誤爆されては、冗談では済まないからな」

 岸少尉は、上からの指示を受け、部下の小隊員達に、そのように指示を下した。

 実際、部下達は、日の丸の旗が、空から見えるようにする等、様々な工夫を凝らして対応している。

 岸少尉に、これ以上できることは、味方が誤爆しないように、祈ることくらいだった。

 そして、味方の空軍の諸部隊は、敵、共産中国軍の反攻を阻止しようと、全力を尽くし、爆撃を加え、銃撃を浴びせ、ということを、岸少尉が見る限りではしているようだった。

 だが、敵の数は多く、空軍の攻撃では阻止しきれていないようだ。


 その状況から、味方の砲兵部隊も阻止砲撃を開始する。

 明治の頃ならいざ知らず、(第一次)世界大戦で流した大量の血の代償として、海兵師団の砲兵火力は、大幅に増強されている。

 105ミリ野砲36門、155ミリ榴弾砲12門を保有する海兵師団司令部直属の砲兵部隊を筆頭に、海兵師団が保有する歩兵砲、迫撃砲等が、突撃を仕掛けてくる共産中国軍の兵に砲弾の雨を降らせる。

 だが、岸少尉の見る限り、自分達より10倍以上の兵力という人海戦術で、突撃を仕掛けてくる共産中国軍を砲撃だけで完全阻止することは困難なようだ。


 その光景を見ていた岸少尉は、養父、祖父の岸三郎提督から、昔語りの一節で聞いた、奉天会戦末期、奉天から脱出しようとする露軍の攻撃を、海兵隊が迎え撃った際のことを思い起こした。

 あの時とは、投入される兵器等、様々な違いはある、だが、敵軍が味方の包囲網から逃れようとしていることに違いは無い。

「何としても、敵軍の脱出を阻止しろ。奉天会戦の栄光を思い起こせ。あの時と同じように、何としても敵を脱出させるな」

 岸少尉は、思わず部下に対して叫んだ。


 栗原曹長以下、部下が自分を思わず凝視しているのに、我に返った岸少尉は気づいた。

 栗原曹長が、大きく肯き、周囲に叫ぶ。

「そうだ。何としても敵の脱出を阻止しろ」

「応」

 他の部下達も叫ぶ。

 軽機関銃班は、機関銃の掃射を敵に浴びせ、擲弾筒班は、擲弾を敵に向かって浴びせる等し出した。

 岸少尉は、大息を吐き、敵を見据えた。

 何としても阻止してやる。

 

 ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ