プロローグー7
独が、どこまで要求を出し続けるつもりなのか、それが問題だ。
石川信吾大佐も、土方歳一中佐も、その点については、懸念を覚えざるを得ないことだった。
独のヒトラー率いるナチス党政権は、表向きは反共主義を唱えており、英日にとっては、反共の盾となるべき存在の筈だった。
だが、実際の政策は、全く異なっていた。
共産中国の最大の貿易相手国は、独であり、しかもバーターで大量の武器が、独から共産中国に売り込まれており、軍事顧問団も独から共産中国には派遣されていた。
また、スペイン内戦でも、大量の武器が独からスペイン共和派に対して供給されているというのは、世界的に公知の事実だった。
こういった状況で、ヒトラー以下、ナチス党の幹部が反共主義を幾ら唱えても信用できる筈がなかった。
独が本当に反共主義を実行するのなら、ある程度、独の要求を呑む余地はある、というのが、英日政府の基本的な考えだった。
独と墺の合邦、同じ独民族同士で1つの民族国家を作りたい、ごもっともな考えです。
ズデーデン地方は、独民族が大量に住んでおり、独と一つになるべき、検討の余地はあります。
ですが、それは独が反共の砦となるのが、大前提です。
今の独は、正反対ではないですか、というのが、英日の考えだった。
独ソはラパッロ条約以来、親密な関係を維持し続けている。
独と共産中国の仲も良好極まりない。
ソ連と共産中国の関係は言わずもがなだ。
このままいくと、ユーラシア大陸全土が共産主義の手に落ちるのではないか、という危惧の念を英日は抱くようになっていた。
そして、今の欧州には、英日からしてみれば、頼りになる存在は少なかった。
伊は、ムッソリーニ率いるファシスト党が一党独裁体制を作っていたが、反共の存在として頼りになるかといわれると、(第一次)世界大戦やエチオピア戦争の記憶からすれば、自分達の足を引っ張られないだけで御の字と言わざるを得なかった。
仏は、左右両派の対立から、政府が全く安定しない状況が続いている。
ポーランドは、英日からすれば、反独ソの際に頼りになるそれなりの国力を持ってはいるが、その地勢的な状況から、独ソから一時に攻め込まれた場合、独ソに挟撃され、すぐに崩壊する危険があった。
それでは、それ以外に欧州に頼りになる国があるか、というとそれ以外の国は、国力が小さいために、そう当てにできないという悲しい現実があった。
「仏に背骨が通って、英日からすれば、安心できる同盟国になれば、少なくともオランダ、ベルギーは英仏に誼を通じるだろう。ポーランドは、一時的に国土を捨てざるを得ない状況になるかもしれん。ともかく独から、我々に呑める要求が出る間は何とか平和が維持できるだろう。問題は、どこまでその状況が続くかだな。どうも、ヒトラーは自分で自分の言葉に酔うところがあるみたいだから、要求が際限なく膨らみかねない危険がある」
「確かにそうですね」
石川大佐の言葉に、土方中佐も頷きながら言った。
「かと言って、英も仏も、独が隠密裏に再軍備を進めていた間、軍の整備を進めていなかったからな。今、すぐに独と戦えるか、というと、とてもそれどころではない、というのが、現実だ。もっとも、日本も対ソ戦を本格的に戦えるようになるには、後、2年は欲しいところだ」
「確かに」
石川大佐の言葉に、更に土方中佐は相槌を打った。
「自分としては、ソ中独が戦争に打って出ないように、英と同様、しばらく宥和策を取らざるを得ないきがするな。悔しい話だかな」
「それが現実でしょうね」
石川大佐の言葉に、土方中佐も同意せざるを得なかった。
2人は、その後、痛飲し、お互いに思いのたけを話して、憂さを晴らした。
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