第6章ー9
場面が変わり、岸総司少尉が初陣を飾ります。
「トラックの上面等には、日の丸が明認できるようになっているか」
岸総司少尉は、声を張り上げて、自らが率いる小隊の兵達に確認した。
「大丈夫です」
口々に、小隊の兵達が答えるのを確認した後、岸少尉は、号令を下した。
「それでは、前進を開始する」
第3海兵師団の一員として、岸少尉が率いる海兵小隊は、前進を開始した。
5月1日の午前6時を期して、前進を開始する。
最終的には、華北派遣軍に所属している機甲師団と合流を果たし、徐州方面に展開している共産中国軍を包囲殲滅する。
岸少尉の下に下ってきた命令を要約すると、上記の命令になる。
(勿論、実際の命令は、より複雑なものだが、岸少尉にしてみれば、上記のように要約すれば、自分の果たす役割的には十分だった。)
岸少尉の率いる海兵小隊は、第3海兵師団所属の戦車大隊と共に、第3海兵師団の最先鋒を承っていた。
(細かいことを言うと、岸少尉の所属する海兵大隊は、というべきだったが。)
そのために、味方の空軍から誤爆を受けるリスクが高いものとも考えられており、トラック等、岸少尉が率いる海兵小隊が保有する車両には、全て空から明確に日本軍所属と分かるように、日の丸が明認できるように塗装等が施されていた。
なお、言うまでもなく、戦車大隊の戦車にも、同様の対策が施されている。
他にも、予め連絡ができる限り、現在の所在場所を、味方の空軍に連絡する等の対策を行っている。
そうしないと、(日本)空軍の航空隊は、地上で動く物全てを攻撃しかねないからだった。
実際、味方以外は、全て空爆なり、銃撃なりを行え、という物騒極まりない命令が、当時、中国に派遣されていた日本空軍の各航空隊には、下されていたらしい。
岸少尉が、神経をとがらせるのも当然の話だった。
なお、この時、(日本側の事前諜報通り、)徐州方面には共産中国軍、約100万人(なお、民兵隊や後方部隊を含む数字である)が展開していたらしい。
北京、南京が、日満連合軍の攻撃によって陥落したことから、当時、共産中国政府の威信、中国の民衆からの信頼が失われつつあったこと、また、徐州に多くの部隊を展開することで、南北何れにも部隊を向けることができ、上手くいけば、日満連合軍を各個撃破できる、それが無理でも、内線の利を生かして、日満連合軍を苦戦させることができる、と共産中国軍の幹部の多くが考えたことから、それだけの部隊が展開していた。
そして、その中には、独ソから提供された(旧式だったり、軽戦車に過ぎなかったり、だったが)戦車部隊まで含まれていた。
「敵戦車です」
前進を開始して暫く経った時、遠くを見ていた兵の一人が悲鳴を上げた。
岸少尉は、栗原曹長を横目で見たが、栗原曹長は、平然とした顔色をしたまま、部下に指示を下した。
「落ち着いて、散開しろ。各分隊長は、事前訓練を思い出し、分隊を運用しろ」
本来なら、岸少尉が、命令すべきことだった。
だが、初陣の自分が、指示を下しても、部下は自分を信用していないから、却って上手くいかず、混乱する危険が高い。
ここは、栗原曹長に任せるべきだろう、岸少尉は、すかさず、そう判断していた。
栗原曹長も、阿吽の呼吸で、そう判断したようだ。
栗原曹長が、自分を横目で見るのを感じる。
岸少尉は、栗原曹長に大きく肯いて見せた。
栗原曹長が、微笑を浮かべるのが、自分に見える。
取り合えず、合格の判断を下したようだ、岸少尉は、内心でほっとしたが、まだ戦闘は始まったばかりだ、気を緩めるどころではない。
「皆、速やかに散開。敵の戦車を攻撃する」
岸少尉は(内心では、緊張してたまらなかったが、)、表面上は顔にまで出さずに、部下に改めて命令を下した。
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