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第6章ー7

 とはいえ、山下奉文中将と言えど、勝算も無しに、このような作戦を立案した訳ではなかった。

 山下中将にしてみれば、この作戦の最大のカギとなる、華北派遣軍所属の3個機甲師団を率いる将帥を、充分に信頼できるからこそ、このような作戦を立案したのだった。


 山下中将自身の言葉を借りれば、

「現場を安心して任せられる師団長が3人いるのだ。更に軍団長に至っては、文句を言いようがない。彼らに任せておけば、臨機応変に対応して、我々に勝利をもたらしてくれる」

 とまで、言える存在だった。


 まずは、第1機甲師団長の酒井鎬次中将だった。

 山下中将からすれば、陸軍士官学校の同期生であり、気心の知れた仲だった。

 共に、第一次世界大戦の際に、欧州に赴き、その後も、ブリュッセル会に共に所属した仲でもある。

 陸軍では、後述する吉田悳少将と共に、戦車のエキスパートとして名を知られている。


 第2機甲師団長の牛島満少将も、山下中将からしてみれば、安心できる部下だった。

 自分と共に、チロルの山麓で、独軍の山岳からの攻勢をしのぎ抜いた仲でもある。

 どちらかと言えば、歩兵の活用が上手いが、機甲師団を任せるのに不安は全くなかった。


 第3機甲師団長の吉田少将も、酒井中将と共に、戦車のエキスパートとして、陸軍内では知られた存在であり、山下中将からすれば、前線を預けるのに不安を覚える要素は無かった。


 そして、軍団長を務める岡村寧次中将である。

 小畑敏四郎、永田鉄山両中将とは士官学校同期生であり、人格者として知られ、ブリュッセル会のまとめ役としても、会の内外に知られた存在だった。

 山下中将からしてみれば、万が一、機甲師団を率いる師団長同士で対立が起きたとしても、岡村中将が軍団長を務めるのならば、岡村軍団長が軍団内で仲裁をしてくれる、と安心できた。


 梅津美治郎陸相が、これだけの人材を選んでくれたことについて、山下中将は素直に感謝している。

 それぞれの師団長の部下等も、選りすぐられた面々だった。

 第一次世界大戦時、戦車を操縦して、ドイツ軍に突撃した経験を持つ栗林忠道大佐等の面々が、各機甲師団には配属されているのだ。

 掛け値なしに、世界でも戦車に通暁した面々を揃えた機甲部隊だった。


 日満連合軍の会議が始まる前、岡村中将と山下中将は会話していた。

「徐州作戦において、共産中国軍の戦線を迅速に突破、包囲殲滅することを我が軍の目的としたい、と私は考えています。岡村閣下は、それが可能だと思いますか」

 山下中将の問いかけに、岡村中将は、自信に満ちた表情を浮かべて答えた。

「不可能だと思える要素があるのかね」

 その答えを聞いた山下中将は、当時としては、大胆不敵と評される作戦の実行を決断した。


 日満連合軍の会議が始まって、早々に、山下中将は、自らの立てた作戦を、皆に示した。


1、華北派遣軍の主攻勢は、西方、右翼に置き、機甲師団は全て右翼に集中する。

2、航空支援も、できる限り、機甲師団に投入する。

3、華中派遣軍も、主力は西方、左翼に置くことで、共産中国軍の脱出を効果的に阻止する。

4、共産中国軍の戦線を突破した後の主目的は、共産中国軍の殲滅に置く。


 満洲国軍の李宗仁将軍は、会議で示された山下中将の立てた作戦を、驚嘆すべき作戦だが、実現がかなり困難な作戦だ、とその時は判断せざるを得なかった、と自身の回顧録で書いている。

 それくらい、山下中将の立てた作戦は、大胆不敵極まりないものだった。

 何しろ、1938年4月末頃には、華北派遣軍と華中派遣軍とは、約1000キロ程も離れていたのであり、その間を100万とも推測される共産中国軍が隔てていたのだ。

 困難どころか、不可能と断じられて当然だった。

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