第6章ー5
とはいえ、実際問題として、他に方策があるのか、と参謀本部に反問されると、海兵隊の幹部の多くに返す言葉がないのも事実だった。
蒋介石政権の基盤を広げ、確立することを考えると、日本としては、中国本土に手を出さざるを得ない。
そして、前述した4省を確保し、農業基盤を再確立できれば、蒋介石政権は、少なくとも食糧に関しては心配する必要がなくなるはずだった。
これらの4省の多くが、穀倉地帯であり、かつて
「江浙熟せば、天下足る」
と謳われた土地が含まれている。
時代が流れ、それ以外の土地、湖広等が豊かになったになったため、重要性が低下し、他の農産物の生産に力を注ぐようになっていたが、今でも穀倉地帯であることに、そう変わりはない。
勿論、これまでの共産中国の悪政等により、現地の農地は荒廃していると推測されているし、日満連合軍が進撃すれば、その戦乱により、農地が更に荒れるのは避けられない。
だが、日満連合軍が、その土地を制圧し、農業が安定してできるようになれば、徐々に農地は回復し、住民も蒋介石政権になびくだろう。
蒋介石は、そう主張しているし、参謀本部も、その意見を後押ししていた。
そうはいっても、と土方歳一中佐は、想いを巡らせた。
日本は、陸軍の予備役師団を動員し、交代用の師団を含めれば、12個師団は動員しないといけない状況を、数年は続けざるを得ないだろう。
海兵隊も、しばらく動員体制を完全に解く訳には行くまい。
米内光政内閣は、野党の立憲民政党に協力を呼びかけ、国家総動員法を成立させることで、この苦境を乗り切ろうとしている。
日本は、先の見えない泥沼に落ち込もうとしているのではないか。
土方中佐は、昏い思いがこみ上げてくるのを止められなかった。
その翌日、最終的な基本計画が、南京に設置された華中派遣軍司令部で討議されていた。
土方中佐も、その一員として参加している。
華中派遣軍総司令官は、陸軍の松井石根大将が務めており、海兵隊の北白川宮中将が、参謀長として控えている。
華中派遣軍は、海兵隊6個師団を基幹としている以上、華中派遣軍総司令官を海兵隊から出したい、というのが、海兵隊の本音だったが、陸軍が中国内戦介入においては主力となる以上、海兵隊としては、総司令官を陸軍に譲らざるを得なかった。
まず、海兵隊2個師団を後方警備、具体的には南京、上海方面の防衛等の任務に充てる。
なお、この中の戦車部隊等、一部の部隊は、攻勢を展開するための部隊に配属する。
残りの4個師団余りで、徐州方面への攻勢を展開する、というのが、基本構想だった。
但し、戦況によっては、部隊の入れ替えも行うことになっている。
余りにも攻勢の際に損耗した師団が出た場合、その師団を後方警備任務に下げ、後方警備に当たっている師団を代わりに前線に投入することで、攻勢を維持しようというのが、基本計画の骨子だった。
最も、実際に、そのような事態に陥った場合、徐州方面への攻勢は失敗と判定されても仕方なかった。
参謀本部としては、迅速な攻勢を展開することで、徐州方面に展開している共産中国軍を包囲殲滅しようという構想から、この計画を立てていた。
だから、部隊の入れ替え等のために、攻勢を停止してしまう、というのは望ましい事態ではないのだ。
土方中佐は、北白川宮中将が説明する基本計画案を、頭の中で咀嚼した。
無理な攻勢とは言わない、だが、我々は助攻を務めるのが精一杯だろう。
徐州方面に共産中国軍、数十個師団、約100万程の兵力が展開しているのは間違いないらしい。
そうなると、華北に展開している部隊が主攻になるのはやむを得ない話だ。
華北では、どのような作戦を立てているのだろう。
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