表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/120

第6章ー3

 4月上旬に南京近郊、長江北岸の第3海兵師団の駐屯地に到着した岸総司海兵隊少尉は、早速、新米の小隊長として、部下と面談等をして、その性格等を掴み、上官になる中隊長や大隊長と面談して、現況等の把握に努め、と休む間の無い日々を送ることになった。

 勿論、自分自身も含めて小隊の訓練も行わねばならない。

 一通りのことは、海軍兵学校等で学んではいたが、実際の戦場経験から来る指導等は、何物にも代えがたい。

 部下の1人で、第一分隊長を務める栗原曹長は、1927年の日(英米)中限定戦争以来の戦争経験を持つ古強者で、新人の岸少尉を上官にも関わらず、容赦なくしごいた。


「疲れた」

 到着してから2週間ほど後のある日、岸少尉は、寝床に体を投げだしていた。

「栗原は、おそらく中隊長の特命を受けているな」

 口に出さずに、岸少尉は考えた。

 腹が立つことがあるが、養父というか、祖父からも言われている。

 古参の下士官の言うことには、基本的に従え、と。


 実際、頭を冷やして考えると、栗原の言うことは、基本的に正しい。

 栗原から見れば、自分は新米で、どうにも頼りなく思えて仕方ないのだろう。

 倦まず、弛まず、ひたすら励め、か。

 岸少尉が自戒していると、小隊の兵が、声を掛けてきた。

「土方歳一中佐が、自分の下に来るようにとのことです」


 岸少尉が、土方中佐の下に出頭すると、土方中佐が笑みを浮かべながら、声を掛けた。

「公私混同と言われそうだが。良かったな、千恵子と息子の勇の婚姻に許可が出た」

「本当ですか」

 岸少尉は驚いた。

 もう少し時間がかかると思っていたのだが。


「父が許可したからな。林侯爵が根回し済みだから、宮内省宗秩寮もすんなり通って、松平恒雄宮内大臣が許可を与えた」

 林侯爵の根回しか、どれだけ恐ろしい根回しが行われたかは、知らない方が幸せだな。

 岸少尉は、素早く考えを巡らせた。

 実際には大したことはしていないだろうが、元老の西園寺公望公爵の側近で、米内光政首相に直言できる林侯爵が認めてやれ、と運動したら、止められる人は、そうはいない。

 どうしても忖度して、林侯爵の考え通りに動くようになるだろう。


「勇と千恵子の実際の結婚は、海軍兵学校を卒業次第、ということになった」

「ありがとうございます」

 細かいことを言えば、海兵隊士官候補生として、勇の結婚には、後、海兵本部の許可もまだ必要だが、海兵隊の最長老、林侯爵のお声掛かりの結婚に許可が出ない筈がない。

 岸少尉は、姉の結婚が決まったことを、素直に喜んだ。


「話を変えるが、近々、大規模な作戦が展開される。岸少尉は、訓練により励むように」

「はっ」

 私的な話題を終え、公的な話に切り替わった、と判断した岸少尉は、思わず敬礼した。


「正式な指示が数日中に出るが、北京方面にいる陸軍が南下する一方で、南京方面にいる海兵隊が北上、徐州付近で合流し、戦線をつなぐという大作戦だ」

 土方中佐の言葉を聞き、岸少尉は思わず、頭の中で地図を思い浮かべ、進軍経路を考えた。

「もう既に、そのような大規模作戦が発動されるという噂が、それなりに広まっているからな。この際、話しておこうと思った」

 土方中佐は、淡々と話をつづけた。


 岸少尉は、頭の中で考えた。

 栗原曹長も、そんなことを言っていた。

 下士官仲間の間で、大規模な作戦発動準備が整いつつあるという噂が流れていると。

 小隊に緊張感が高まりつつある。


「戦車との共闘、航空支援、砲兵支援の活用等々、学びかつ実戦でやらねばならないことが多々ある。岸少尉は小隊が一丸となって戦えるように、できる限り、自身も訓練に励むと共に、小隊も鍛えるように」

「はっ」

 土方中佐の言葉を聞き、岸少尉は思わず敬礼しながら答えた。

 ご意見、ご感想をお待ちしています。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ