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第4章ー10

 そのような国内情勢にも関わらず、中国内戦は激化の一途をたどった。

 1937年8月13日には、1927年の日(英米)中限定戦争以来、上海近郊で続いていた停戦協定は公然と破られる事態に突入した。

(どちらが停戦協定を先に破ったか、については、通説では、共産中国側から攻撃が発動され、停戦協定が破られたとするが、共産中国寄りに立つ歴史家は、日本が破った、としている。)


 もっとも、共産中国の論理に従うならば、上海が、我が国の支配から事実上離れて、自治状態にあることこそ、日本等の侵略行為の明確な証であり、上海に対する攻撃は、日本の侵略に対する、極めて正当な我が国の自衛権発動に他ならない以上、全く問題のない行為だった。

 そもそも、日本の海兵隊が上海に駐屯していることだけでも、国際法上は、全面的な違法行為というのが、共産中国の論理だった。


 これに対して、日本も、海軍本体は、「伊勢」、「日向」を中心とする第一航空戦隊を主力とする艦隊を、上海近郊に派遣して航空支援を展開すると共に、空軍も、上海方面に展開可能な部隊を送り込もうとした。

 こうなっては、少なくとも短期的な和平の路は断たれた、と言っても過言ではなかった。


 それ以前(具体的に言うならば、1937年7月19日の深夜の時点)から、内閣総辞職の決意を固めていた宇垣一成首相は、できる限り秘密を保つために、湯浅倉平内大臣を通じて、今上天皇陛下に、内閣総辞職の意向を伝えていた。

 湯浅内大臣は、今上天皇陛下が、宇垣首相を慰留するつもりがないことを確認し、唯一の元老である西園寺公望元首相に、後継首相の指名を依頼した。


 西園寺元首相は、自らの手足となっている林忠崇侯爵を通じて、宇垣首相の内意を確認した上で、海兵隊の予備役提督でもある米内光政立憲政友会総裁代行を、首相として指名した。

 この指名を聞いた日本の軍部の上層部は、歓迎一色となった。

 対中強硬派として知られている米内提督が、首相に就任するならば、対中妥協がそう容易になされない、と考えられたからだ。

 また、米内提督が首相に就任した場合、第一次世界大戦等で米内提督が英米と共闘した経験からしても、英米からの好意的な反応が期待できた。


 こういった経緯から、1937年8月30日、宇垣内閣の総辞職、米内提督による新内閣の組閣が、正式に発表された。

 立憲政友会を少数与党とする新内閣ではあるが、野党の立憲民政党も、是々非々で臨むと(内閣総辞職の経緯から)表明しており、とりあえずは、政治的な安定が期待できた。


 米内新首相は、新内閣組閣に際して、杉山元陸相と山梨勝之進海相の再度の閣僚就任を拒絶した。

 別の人物を、閣僚にしたい旨を、陸海軍部に対して、米内新首相は伝えた。


「旨いな」

 山梨海相は、苦笑いをしながら、米内新首相の意向を受けた。

「よろしい。堀悌吉海軍次官を海相に推薦しよう」

 山梨海相は、堀海軍次官に、海相になるように勧めた。

「一体、どうして」

 堀海軍次官は、難色を示した。

 堀海軍次官としては、山梨海相の続投を支持したかった。


「米内新首相としては、宇垣内閣総辞職の原因の一つが、陸海軍部の暴走なので、陸海軍部にけじめをつけろ、と暗に言っているのさ。実際、その通りだからな」

「そうは言っても、次官が大臣に横滑りでは、けじめをつけたことにならないのでは」

 山梨海相と堀海軍次官は会話した。


「そうは言うが、閣僚が交代するのは事実だ。それに、陸海軍部が素直に言うことは聞かない、というのを示すことができる」

「それでは、当座の間、引き受けます」

 山梨海相の説得に、堀海軍次官は折れた。


 だが、その当座は、実際は、6年余り続くことになったのだった。

 これで、第4章は終わり、次から第5章になります。


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