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第4章ー5

 山梨勝之進海相と堀悌吉海軍次官が、そのような会話をしている頃、同様に梅津美治郎陸軍次官は、宇垣一成首相の意を忖度して、主にブリュッセル会の仲間を中心に、中国内戦本格再開に備えた準備を整えるように指示を出していた。

 永田鉄山や小畑敏四郎、岡村寧次といった将軍連は、お金、予算の範囲内でできる限りの行動を準備して整えようとした。


 では、山梨海相や梅津陸軍次官は、本当に暴走していたのか。

 同じ頃、首相官邸では、若槻礼二郎元首相や幣原喜重郎元外相を招いて、宇垣首相、井上準之助蔵相、広田弘毅外相、町田忠治商工相といった面々が密談をしていた。


「もう、どうにもならん。内閣総辞職止む無しの段階に達したようだ」

 宇垣首相が、匙を投げるような口調で、まずは言った。

「そんなことは無いのでは。まだ、中国内戦再開回避の路を探るべきです」

 幣原元外相が、宇垣首相を励ましたが、他の面々も沈痛な顔をしている。

「幣原先輩、敢えて言わせてもらいますが、最早、中国内戦再開を阻止する手立てはありません」

 広田外相が、沈痛な表情を浮かべたまま、口を開いた。


 中国内戦が、本格的に再開となった場合、宇垣内閣は総辞職するしかない。

 それが、この場にいる面々の暗黙の了解となっていた。

 何故、隣国とはいえ、内戦再開が、宇垣内閣総辞職にまで至るのか。

 それは、宇垣内閣成立の経緯にあった。


 第一次世界大戦等で、大量の戦死傷者を出したこともあり、この頃の日本国内では、積極的な対外派兵止む無しという勢力と、できる限り対外派兵は避けるべきという勢力が、お互いに競い合っていた。

 そして、敢えて、大雑把に分けるならばだが、立憲政友会が対外派兵積極派を代表し、立憲民政党が対外派兵消極派を代表している現状にあった。

 更に言うならば、立憲民政党が与党となっている宇垣内閣は、国民世論的には、平和主義、中国内戦再開阻止の輿望を担って政権を担っている、と言ってもよかった。

 それなのに、中国内戦再開という事態に至ったのである。


 衆議院では、安定多数を占める与党に立憲民政党がある以上、すぐに内閣総辞職をする必要はない、と言えるが、かと言って、宇垣内閣が居座り、中国内戦に対処するために、中国への本格対外派兵を推進しては、立憲民政党の支持者が離れる事態を招いてしまう。

 それを避けて、捲土重来を策すならば、この際、潔く内閣総辞職をするべきでは、というのが、宇垣首相の考えであり、広田外相らは、その考えを察したという訳だった。


「幾ら何でも、諦めが良すぎるぞ。ルーズベルト米大統領は、何とか中国内戦再開阻止を図るべき、と言ってきているではないか」

 若槻元首相は、宇垣首相を督励したが、宇垣首相は渋い顔のままで、言葉を紡いだ。

「とはいえ、共産中国の対応を考える限り、我が国もそれに対応した措置、具体的には予算措置等を講じない訳にはいきません。それをやる以上、我が内閣としては、中国内戦再開に備えた諸措置を講じることに他ならないことになります」

 他の閣僚の面々も、宇垣首相の言葉に肯いた。


 その様子を見て、宇垣首相は、井上蔵相に指示を下した。

「中国に本格派兵するための予算措置を講ずる準備に入り給え。おっつけ陸海軍部から、事実上の事後承諾という形で、予算請求が来る筈だ」

「分かりました」

 井上蔵相は答えた。


 町田商工相にも、宇垣首相は指示を下した。

「国家総力戦に備えた国内体制を整える法制度を、至急、研究、準備するように。近々必要になる」

「分かりました」

 町田商工相も、宇垣首相の指示に応える態度を示した。


 若槻元首相や幣原元外相は思った。

「最早、これまで」

 という段階に、日本は突入してしまったようだ。

 この話の中で首相官邸で行われている会議ですが、構成メンバーから分かる方が大半と思われますが、敢えて補足すると、この世界の宇垣内閣の与党、立憲民政党の文字通りの最上級の幹部会議です。

 少しでも秘密漏洩を防ぐために、閣議ではなく、一部のメンバーを選りすぐって行われています。


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