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間章1-4

「それにしても、不謹慎のそしりを受けかねない話です。祖父の土方勇志伯爵は、スペインの戦場で戦っているというのに、孫の土方勇は、恋愛に現を抜かすとは」

 北白川宮提督は、少し渋い顔をしながら言った。


「そうはいってもな。日清戦争以来、日本が平和でいられた期間は、10年も持った試しがない。特に昭和になってからは、平和だった年の方が少ない有様だ。こんな状況で、若者が恋愛をするのに、不謹慎も何もないものだ」

 林忠崇侯爵は、北白川宮提督をたしなめた。


「それは、その通りですが」

 北白川宮提督も同意せざるを得なかった。

 昭和になってからに限っても、1927年の日(英米)中の限定戦争、1928年の山東出兵、1931年の満州事変等、戦争が相次いでいた。

 土方勇ら以下の年代の若者にしてみれば、物心つく頃には、祖国日本は、戦争をしているのが当たり前の国になっていたのだ。

 戦争中に恋愛をしてはいかん、と他人に言われては、永久に恋愛ができないような想いに、彼らは駆られるのではないだろうか。


 ま、それを言えば、篠田千恵子や岸総司、村山幸恵も大概な話になるな。

 林侯爵は、口には出さずに、皮肉な思いを抱いた。

 その3人の異母弟になるアラン・ダヴーは、今、スペインの戦場で、日系義勇兵として戦っている筈だ。


 ちなみに、アラン・ダヴーが、岸総司や篠田千恵子の異母弟なのが、ほぼ間違いないのを知っているのは、土方勇志伯爵や自分を含めても、10人に満たないはずだ。

 後は、どうも怪しい、という噂レベルに止まっている。

 何しろ、アラン・ダヴーの母親が母親である。

 母親が、マルセイユの街娼の間でも、指折りの街娼、淫売として、一時、その名を馳せていては、幾ら母親が改心して、あの人の子に間違いないと言い張っても、信用できるか、というのが自然な考えだった。

 だが、状況証拠から推察する限り、林侯爵としては、アラン・ダヴーが、岸総司や篠田千恵子、村山幸恵の異母弟なのは、ほぼ間違いない、と考えていた。


 本当に、弟は既に初陣を飾り、今もソ連の戦車に生身で火炎瓶をぶつけ、破壊することを考えつつ、戦塵に塗れている有様なのに、兄は一応は、軍学校の生徒ではあるが、平和を謳歌しているのだ。

 また、姉二人の内、一人は結婚して家庭生活を営んでおり、もう一人も恋愛に身を焦がしていて、弟の戦場の苦難を全く知らない。

 お互いに知らないとはいえ、何とも皮肉な話ではないか。

 林侯爵は、そう思わざるを得なかった。


 そんなふうに、林侯爵は考えるうちに、思ったより自分の考えにふけっていたらしい。

 北白川宮提督が、顔色を改めて、自分に声を掛けているのに気づく羽目になった。

「林侯爵、どうかされましたか」

「いや、いろいろとな。いろいろと、土方勇と篠田千恵子の恋愛のことを考えていただけだ」

 林侯爵は、改めて内心を韜晦した。


「土方勇志伯爵が、スペインから帰ってきたら、改めて土方勇と篠田千恵子の恋愛について、土方伯爵の意向を聞こう。結婚させてもいいのか、とな」

「分かりました。ですが、前向きな意見を、土方伯爵が持ったとして、何とかなるのですか」

 林侯爵の言葉に、北白川宮提督は疑問を呈した。


「だから、君に動いてもらいたいのだ。皇族の間で反対意見が出ては、どうにもならなくなるからな」

「裏返せば、皇族以外の華族の意見は、何とか封じられる自信がある、ということですか」

 林侯爵と北白川宮提督は会話した。


「自分は、大名華族や軍人を中心とする新華族は、説得して見せるさ。公家華族については、西園寺公望公爵に逆らえる華族は、そうはいないからな」

 林侯爵は悪い顔をしていた。

「全く敵いませんな」

 北白川宮提督は苦笑した。

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