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第2章ー10

 パレスチナ、エルサレム問題に詳しい方々から厳重に叱正されそうですが、小説上のこの世界でのことで、ということで、平にお手柔らかにお願いします。

「分かりました」

 イノニュ首相が、アタチュルク大統領の言葉に答えた後、自分の懸念を付け加えた。

「それにしても、パレスチナ問題がきな臭くなっています。我が国は、どうすべきでしょうか」

「それもまた、厄介な話だな」

 アタチュルク大統領は、頭を半ば抱え込んだ。


 現在のトルコは、アタチュルク大統領の方針もあり、世俗主義の徹底に奔っている。

 とはいえ、イスラム教の聖職者や宗教主義者の国内の影響を、完全に無視はできない。

 むしろ、国外の問題だからこそ、イスラム教の聖職者らが、声を上げている側面があった。

 国内の問題について、政府の方針に文句を言うと、反政府運動と取られ、国内の治安機関に目をつけられかねないが、国外の問題だと、それが言いづらいと彼らも考えているのだ。

 更にもう一つ、ここにいる3人は承知しているが、表向きは隠された問題が、これにはあった。


 アタチュルク大統領は、少年時代、(ユダヤ教徒の多くからは異端視されている)シャブタイ派(ドンメ派)ユダヤ教の学校に通っていたことがあった。

 そのため、アタチュルク大統領は、隠れユダヤ教徒ではないか、という疑惑の目が向けられているのだ。

 アタチュルク大統領自身は、地元で西洋式の教育を受けようと思うと、その学校に行くしかなかったからだ、と弁明しており、他の二人もそれを承知しているが、反大統領派のイスラム教聖職者らは、アタチュルク大統領は隠れユダヤ教徒だから、イスラム教を排除する世俗主義を進めているのだという噂を流している。

 パレスチナ問題の無視を続けると、その噂が広まり、反政府運動に結び付く恐れが否定できなかった。


「全く(第一次)世界大戦の、英国の三枚舌外交のおかげで、今やパレスチナに住むユダヤ人は、30万人を超え、40万人に迫る勢いで急増している。独が反ユダヤ政策を取っているために、独やその周辺国からは、パレスチナへの移民が殺到している。あそこに住むアラブ人は、150万人から200万人といったところだが、それだけ異民族にして異教徒が急増しては、アラブ人は気が気ではないだろう」

 アタチュルク大統領は、呟くように言った。


「民族が違い、世俗主義を取っているとはいえ、我が国も、イスラム教徒が多数を占める国家なのは間違いない事実です。このままの勢いで、パレスチナのユダヤ人が急増し、そして、エルサレムが、ユダヤ教徒の手に完全に落ちるという事態が起きては、我が国の国民が激高するのが、目に見えています」

 イノニュ首相が、アタチュルク大統領の言葉に付け加えた。


 エルサレムは、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒、3つの宗教の信者、教徒にとって、聖地という特殊な土地である。

 だからこそ、オスマントルコが領土としているときは、細心の注意を払って統治を行ってきたのに、英国が委任統治を行うようになってからは、それが台無しになった、という想いを、この3人はしている。


「とりあえずは、これ以上は、パレスチナにユダヤ人が入植するのを止めろ、とまでは言わないが、急増させないでほしい、と英国政府に対して働きかけよう。場合によっては、私の名前で声明まで出してもいい」

 アタチュルク大統領は、しばらく考え込んだ末に言った。

「確かにそれが賢明でしょう。外国とはいえ、宗教問題が火を噴くのは、我が国に影響が及びます」

 バヤル経済相が言った。


「それにしても、我が国の現状は、内憂外患だ。これ以上の厄介ごとが起きないことを、私は心から願うが、中々難しそうだな。早く、天国に赴きたいよ」

 アタチュルク大統領は言った。

「冗談にならない言葉ですな。でも、我々も同様に思います」

 他の二人も、異口同音に言った。 

 アタチュルクら、トルコ人が、そんなことを言えるのか、という史実に詳しい方々からの容赦ない批判を浴びそうですが、小説上の登場人物が、自分の都合のいいように記憶して発言している、ということでご宥恕を賜り、生暖かく言っていただけるように、心からお願いします。


 なお、これで第2章は終わり、次から幕間になります。


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