第2章ー6
ボック将軍は、レヴィンスキー将軍に、半ば問いただすかのように言った。
「では、どうやって、祖国ポーランドを守るのが最善だ、と君は考えている。その考えを聞きたい」
会議に列席している面々の多くが思った。
ボック将軍は、祖国ポーランドと言った、本当に皮肉な話だ。
レヴィンスキー将軍も、ボック将軍も、本来から言えば、ポーランドが祖国ではないのに。
二人とも、今となっては、ポーランドが祖国になっている。
ボック将軍も、レヴィンスキー将軍も、ポーランド国内に数多く住んでいるドイツ系民族の出身だった。
更に言うならば、二人とも、ユンカーの家系であり、いわゆるプロイセン出身で、ドイツ第二帝国の光輝ある軍人だった。
だが、歴史の流れが、二人をドイツ軍からポーランド軍へと所属を変更させ、更に、ドイツを敵視した戦略、作戦を立てざるを得ない状況に追いやっていた。
第一次世界大戦において、ロシア革命が勃発し、ソ連が成立した。
そして、ソ連は、かつてのロシア帝国の領土全てが自国領であると主張等した末に、第一次世界大戦後に独立したポーランドと戦争に突入した。
紆余曲折があった末に、ポーランドは首都ワルシャワ等を失陥し、ポーランドは、ソ連に併合されるのでは、という状況にまで至ったのだった。
だが、奇跡ともいえる出来事があった。
共産主義の脅威からドイツを守れ、と第一次世界大戦の名将、ホフマン将軍が、ドイツで義勇軍を募集して、ポーランドに味方したのである。
最終的に10万人を超えるドイツ第二帝国軍人が義勇軍に参加して、ポーランドに味方して戦い、ポーランドに勝利をもたらしたのだ。
だが、彼らがたどった運命は過酷なものだった。
再軍備を秘密裏に進めようとするドイツにとって、ソ連は盟友ともいえる存在だった。
ソ連は、ポーランドに義勇兵として味方して戦ったドイツ帝国軍人を、戦犯であるとし、ソ連に全員を引き渡すことを求め、ドイツ政府はそれに同意して、義勇兵たちを進んで引き渡した。
そして、ソ連に引き渡された義勇兵たちは、全員が拷問の末に嘘の自白を強要され、惨殺された。
それを避けようとした義勇兵たちは、ポーランドに亡命していったのだ。
ボック将軍も、レヴィンスキー将軍も、そういったことから、ポーランドに亡命し、ポーランド軍に奉職する身になっていた。
「ペルシャ戦争時のアテナイ市民と同様の方策を取るしかない、と判断しています」
レヴィンスキー将軍は、表面上は、冷酷ともいえる口調で言った。
だが、それを聞いたボック将軍以下の面々は思った。
レヴィンスキー将軍は、敢えて偽悪的な口調で言ったに過ぎない、苦悩の末の結論なのだと。
「つまり、君の考えを、敢えて要約して述べるならば、我がポーランド軍の力をもってしては、ポーランドの国土を守り切ることはできない。ポーランド民族の生き残りを最優先に考え、アテナイと同様の行動を取るべき、ということなのか」
ボック将軍の言葉も、苦渋に満ちたものだった。
レヴィンスキー将軍は、黙って肯いた。
「分かった。確かにそれ以外の方策は無いだろうな」
暫く考え込んだ後、ボック将軍は自分に言い聞かせるように言って、レヴィンスキー将軍に更に尋ねた。
「ある程度、具体的な方策を更に聞きたい」
「分かりました」
レヴィンスキー将軍、かつて、マンシュタインという姓を持ち、祖国の将来を託すに足りる軍人、と義理の叔父に当たるヒンデンブルク独大統領からは評された軍人は、自分の考えを語り始めた。
その考えを聞いたボック将軍らは、改めて思った。
レヴィンスキー将軍は、我がポーランド陸軍の至宝といえる存在だ。
きっと祖国ポーランドを最終的には救ってくれる。
これで、ポーランドの話は、一旦、終わり、次からイタリアの話になります。
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