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第1章ー15

 1937年当時、対ソ連、共産中国との二正面戦争になった場合、日本の取れる手段は限られていた。

 海空戦力では、何とかなるだろうが、陸軍と海兵隊の戦力、陸戦兵力では、どうにもならない差があり、満州国や韓国が味方に加わったとしても、その差は埋まるものではなかった。


 日本陸軍と海兵隊を、完全動員状態においたとして、日本軍は44個師団に過ぎない。

 満州国、韓国軍を併せて、予備役部隊まで動員を完結しても、満州国軍が20個師団、韓国軍が10個師団といったところで、日満韓を併せても、合計74個師団が精一杯だった。


 一方、極東ソ連軍の平時兵力だけでも、この1937年当時、20個師団である。

 共産中国軍も、40個師団を編制して、中国内戦再開に備えていた。

 更にソ連と共産中国の人口や国力等から、動員可能兵力を推算するならば。

 日本の参謀本部の推算によれば、この当時、ソ連軍は300個師団以上、共産中国軍は100個師団以上を最大で動員した上、総力戦を遂行することが可能と見積もられていた。


 つまり、最大で5倍以上の大軍と、日満韓の陸戦兵力は対峙していることになる。

 ソ連と共産中国の関係を裂いた上で、蒋介石により、中国を統一させ、それによって、中国との関係を再構築するというのが、この当時の日本の与野党を問わない政治家や軍部、行財界の指導者の共通した想いではあったが、その道はどうにも険しいものに他ならなかった。


 では、悪夢の対ソ、共産中国の二正面戦争を展開しないといけない場合、どうやって勝つのか。

 この当時、参謀本部第一部長であった小畑敏四郎中将らを中心とする日本の参謀本部は、軍令部と協議のうえで、次のような大計画を立てていた。


1、ソ連軍の大攻勢が始まったら、蒋介石を説得して北満州を放棄し、奉天以南に一時、主力部隊を後退させて、兵力を温存する。

2、共産中国軍の攻勢に対しては、熱河省等は放棄して、遼河を防衛線として考え、こちらでも後退する。

3、それによって、満州国軍の兵力を集中し、それと共に、日本から陸軍を大量に派遣する。

4、日本からの援軍が到着するまでの間は、空軍による攻撃により、ソ連、共産中国両軍の戦力を削っていく。

5、日本陸軍の援軍が南満州に到着し、戦力が整い次第、反攻を開始して共産中国軍とソ連軍を各個に撃破した上で勝利を収める。


 とはいえ、これとても、どうにも希望的観測に満ち溢れている内容なのは、小畑敏四郎将軍自身にとっても否定できない話だった。

 従って、対ソ連、共産中国との二正面戦争になった場合、米国の本格的な参戦がないと、陸上での勝利はおぼつかない、というのが、参謀本部の基本的な考えになっていた。

 勿論、非常の手段がない訳ではない。

 だが、リスクが余りにも大きかった。


 それは、シベリア鉄道を重爆撃機隊により集中攻撃し、破壊するという非常手段だった。

 極東ソ連は、シベリア鉄道に民生、軍需を依存している。

 これが破壊され、運行不能になれば、極東ソ連軍は補給切れで崩壊する。

 だが、報復として、ソ連空軍は、東京、皇居等に対する無差別爆撃を行いかねない。

 それによって、もし、天皇陛下が崩御されないまでも御体が傷つく等のことがあっては。


 そのリスクを考える限り、シベリア鉄道に対する空襲は、1937年当時、日本の軍部にとっては、やってはならない非常手段だった。

 そして、この非常手段が封じられている限り、対ソ、共産中国との二正面戦争は、どうにも日満韓だけでは勝算が立たない、少なくとも米国の(陸上兵力の派遣を含む)本格的な参戦がないと勝てない事態であると、当時の日本の軍部には認識されており、そのために苦悩していたのである。

 第1章の終わりです。

 次から第2章になり、欧州情勢について、基本的に国別に順次、描写します。


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