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プロローグー2

 そんな土方歳一中佐の想いとは無関係に、純粋に日本サッカーの明るい将来を見ている者の方が、先程、日本代表対フランス代表の親善試合が終わった国立競技場内では圧倒的多数を占めていた。


「うーん。わしも慶応大学ではなく、早稲田大学に入れば良かったな」

 右近徳太郎がぼやいた。

「残念だったな。わしは、早稲田大学で、海兵隊士官任官が決まっている」

 右近の横にいた川本泰三は笑いながら言った。

「今更ながら、自分の判断を悔いるばかりだな」

 右近は、更にぼやいた。


 右近は、慶応大学の予備士官養成課程をとっており、川本も早稲田大学の予備士官養成課程をとっていて、お互いに大学卒業後は、士官に任官することが決まっている身だった。

 だが、慶応大学には、陸軍と空軍の予備士官養成課程しかなく、海兵隊士官への路は閉ざされている。

 一方、早稲田大学には、逆に海軍と海兵隊の予備士官養成課程しかない。

 そのために、右近が陸軍士官への路を歩まざるを得ないのに対し、川本には海兵隊士官への路が開かれているのだった。


「それにしても、日本代表のレギュラーが、海兵隊の現役軍人ばかり、というのはある意味、凄い話だな」

 少し滅入ってしまった自分の気を変えよう、と右近は川本に話を振った。

「全くだな。世界大戦の影響がこんなところに出るとはな」

 川本もしきりに頷きながら言った。


 先の(第一次)世界大戦で、日本は欧州、主に西部戦線に海兵隊を主力とする部隊を派遣した。

 そして、本場の欧州のサッカーに触れた軍人たちによって、第一次世界大戦後の日本では、サッカーブームがもたらされた。

 そして、海兵隊では、欧州や南米のサッカー情報を入手した上での、鎮守府同士の対抗戦すら行われるようになった。

 その精華が発揮されたのが、昨年のベルリンオリンピックだった。


 1940年の東京オリンピックを前に、日本サッカーの精華を見せようということで派遣された佐世保鎮守府所属の海兵隊員を主力とする日本代表チームは、ベルリンオリンピックで、金メダルを獲得して帰国したのだった。

 しかも、日本代表は、帰国前に1934年のイタリアワールドカップで優勝したイタリアのプロ選抜代表を破って帰国するという錦上花を添えることまでやってのけたのである。

 この結果を受けて、1938年のフランスワールドカップや1940年の東京オリンピックの優勝候補筆頭に、世界からも日本代表が挙げられるようになったのは、ある意味で当然の話だった。


 右近も川本も、それぞれの大学のサッカー部では、主力メンバーの一員として鳴らした存在であり、ベルリンオリンピックの際には、日本代表のサブとして随行した身だった。

 だが、その二人にしても、今の日本代表のレギュラーのレベルと、自分達のレベルを比較すると溜息が出るのが現実だった。


「聞いたか。フランスのプロサッカーチームの幾つかから、日本代表のメンバーの何人かに接触があったらしいぞ。私達のチームに入ってくれませんか、とな」

 川本の話に、右近は驚愕した。

「それで、どういう話になった」

 右近は、慌てて川本に尋ねた。


「自分も噂で聞いただけだから、どこまで本当か分からないが、日本代表の面々は、全員が断ったらしい。自分達は、日本の軍人だ、幾ら金を積まれても、フランスでサッカーをする気はない。サムライは、金で動く存在ではない、とね」

「はあ。カッコいいセリフだな。自分も、そういう啖呵を切ってみたいよ」

 川本の答えに、右近は溜息が出るばかりだった。


「ともかく来年のワールドカップ優勝が、日本には見えてきている。楽しみに思おうじゃないか」

「全くだな」

 気持ちを変えようとする川本の言葉に、右近は明るく答えた。

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