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第1章ー5

 日本の対ソ、対中戦争という場合に備えた陸軍や海兵隊の戦備は、徐々に整いつつあったが、海軍や空軍に手を抜くわけにはいかなかった。

 陸軍や海兵隊の量的劣勢は、質的優位と海空軍の支援で補うというのが、日本の考えだったからである。


 ワシントン、ロンドン海軍軍縮条約により、新しい軍艦の建造に制限は掛かっていたが、改装に制限は掛かっていなかった。

 そのため、満州事変後、日本では軍艦の改装が相次いだ。

 その最大の改装が、空母「伊勢」、「日向」だった。


「すごいな」

 1937年5月半ばのある日、大改装が完了した空母「伊勢」の艦長、吉良俊一大佐は、艦橋上でうめき声を挙げた。

 横では、源田実少佐が飛行長として控えているが、感極まった、という表情を浮かべている。

 二人は、空母「伊勢」の艦橋で、96式シリーズの艦載機の相次ぐ発艦を眺めていた。


 改装が完了した空母「伊勢」は、艦容を一新していた。

 米海軍のレキシントン級空母と同様に、全通式一段飛行甲板を採用、傾斜式煙突と艦橋を一体化した島型艦橋を右舷に装備している。

 少しでも搭載機を増やそうと努力に努めた結果、常用80機、補用10機を搭載可能になった。

 吉良大佐も、源田少佐も、根っからの搭乗員、戦闘機乗りである。

 これだけの艦載機を搭載し、相次いで発艦させていくことが可能な空母に乗り組み、実際にその発艦の指揮を執る。

 二人にとって、これほど心躍る状況はなかった。


「うーん。96式艦上戦闘機の操縦桿を握って、飛び回りたい」

 吉良大佐が思わず言うと、源田少佐がすかさず突っ込んだ。

「私を飛行長の任務があるから、と引き留めたのは、艦長です。自分の言葉に責任を持ってください」

「分かっとる」

 吉良大佐は、苦虫を噛み潰したような顔色になった。


「しかしな、この光景を見て、飛びたくない奴は、搭乗員資格を持つ者の中に一人もいない、とわしは断言するぞ」

「確かにそうですね」

 吉良大佐の言葉に、源田少佐も同意した。


「4隻の空母、「伊勢」、「日向」、「龍驤」、「鳳翔」が実動可能になった暁には、一時に200機以上の航空機をまとめて運用することが可能になる。夢のような現実だな」

 吉良大佐は、半ば独り言を言った。

「確かにそうですね。それにしては、いらぬ砲がありますが」

 源田少佐は、艦橋の前後を見て、皮肉った。


「伊勢」は、発艦作業の邪魔になるにも関わらず、飛行甲板上に20サンチの連装砲塔3基を積んでおり、いざとなれば、「古鷹」級重巡洋艦と砲撃戦を対等に行える能力が付与されている。

 吉良大佐や源田少佐といった海軍の航空関係者らは、「伊勢」の20サンチ砲は、無用の長物だと主張して、大改装の際に撤去することを求めたが、建造当初から搭載されていたものであり、下手に撤去すると艦のバランスに与える影響が大きいという造艦関係者らの主張により撤去されなかったのである。

(本当は、撤去費用を出すくらいなら、その分を他に使いたい、という予算上の問題だったという説や、元戦艦だった「伊勢」から主砲が撤去されるのは、感情的に忍び難いといういわゆる「大砲屋」の主張があったからだという説もある。)

 ちなみに、「日向」も同様の事情から、改装後も20サンチ砲6門が搭載されたままになっている。


「全く航空巡洋艦がどうしても必要というわけでもあるまいに。それに、常用機80機があれば、「古鷹」でも航空攻撃で沈めることは容易なのに」

 吉良大佐も、源田少佐と同様に皮肉な口調で言った。

 だが、歴史は直線的には流れない。

 皮肉なことに、「伊勢」、「日向」の主砲は、第二次世界大戦の際に、対艦戦闘において咆哮することになり、敵艦撃沈の戦果を挙げるのである。 

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