第71話 イチャイチャデー
どうも、狼々です!
タイトルからわかるでしょうが、イチャイチャ回です。
そんなにイチャイチャしてないかもしれませんが。
その分、イチャイチャする話数は二、三話立てる予定です。
では、本編どうぞ!
冬。雪も降り始め、人里には積もりもしただろうか。
寒空の下で今日も今日とて修行の一日だった。
すっかり日も沈んだ今、外の窓から見える満月を眺めて思う。
あの病室で、小さな女の子に泣きじゃくる俺の姿。あぁ、思い出しただけでも恥ずかしさが沸いて出てくる。
黒歴史かと思えばそうでもなく、純粋に嬉し泣きしたことに誇りを感じたというかなんというか。後悔していないことは確かだ。
暖かい言葉をかけられることが、あそこまで励みになるとは、救われるとは思わなかった。
純粋な一点の曇りさえもない眼で言われることに。俺は喜んだ。
自責の念に駆られた俺にとっては、至高だった。
だからこそ、俺はもっと強くなって皆を守るべきだ。
前のように強さに固執するのではなく、あくまでも目的は守護を掲げる。
そう心にもう一度誓った。
のだが……
「天君、私達は明日、休暇をもらいました。幽々子様に」
「おう、そうだな」
「……やっぱり、恋人というものは、イチャイチャデーなるものを作る必要があると思うんです」
「お、おう、そうだな……うん、わからんでもない」
いや、実際は何を言いたいのかがわからない。
風情ある満月を眺めて心を落ち着けていたはずなのに、布団の上に座る寝間着の妖夢が目に入ると、どうしても萌えてしまう。
仕方がないと思うんです、はい。そこまでは。
「明日、イチャイチャデーにしましょう!」
「直球だなおい!」
両手を胸の前で握って、意気込んでいるポーズ。可愛い。
目の輝き方もGOOD。点数を付けられないほど可愛いが、あえて点数を付けるとするならば、百点満点中の百五十点くらいだな。俺もおかしいなおい。
「もっとラブラブしたいです!」
「もっと直球になりましたねぇ!? いつからそんなになったんですかね!?」
「天君大好き~!」
そう言って、こちらに飛び込んでくる妖夢。
完全に受けてもらう前提の飛びの姿勢。
手を広げながら、笑顔でこっちに向かってくる。受け止めるけども。
重さが軽い分、俺にかかる衝撃は想像よりもずっと軽いものとなっていた。
引き寄せると同時に抱きしめ返すと、俺の胸と腹の中間くらいに、顔を埋めていた。
左右に擦りつけている。全く、可愛いなぁもうあはは。俺もまずいなぁあはは。
「ん~! そ~ら~!」
「……妖夢、その……恥ずかしく、ないのか?」
「恥ずかしくないわけではないですよ! でも、こうやって甘えたい時もあるんです~!」
「はいはい。今日は一緒に寝ましょうね~っと」
彼女を片手で抱きながら、もう一方の手で掛け布団を引き寄せる。
自分の体重を利用して、後ろになるべく優しく倒れ込む。
腕の中で笑う彼女は、さぞご満悦なようで。
明かりを消した後、二人で一つの布団に入った。
しきりに俺の胸中で顔を動かしていた彼女も、動きを止めて静かになる。
が、手はその分しっかりとお互いに回していて、体の殆どが密着してしまっている。
その感覚が、どうにも心地良い。
そして、彼女の腕は俺の首に回され。
「おやすみなさい、天君……んっ」
「んっ……おやすみのキスって、それずるいだろ」
「えへへぇ。どうです? 惚れちゃいました?」
触れるだけの小さく軽いキスの後に、暗がりの中で妖艶に、悪戯に笑う彼女。
えっ何この可愛い小動物。ぎゅってしたい。もうしてたわ。
全く、この行為一つ一つに、俺の心はかきまわされ、乱される。
ドキッとしたことが、今までに何回あったことか。数え始めたらきりがない。
「……そっちこそ。こっちはとっくのとうに何回も惚れてるっつーの」
「え、あ、えぅ、ぅ……お、おやすみなさい!」
俺が本心で、包み隠すことなく言った言葉に、彼女は動揺を隠しきれていなかった。
顔を真紅に染め上げて、掛け布団で自分の赤くなった顔を隠している。
のだが、少しはみ出た耳が隠しきれておらず、急いで隠した意味もなし。可愛い。
(ねぇ、毎晩毎晩これを見せさせられるこっちの気持ち、考えられる、天?)
(いやわからん。ごめんな栞。俺、もう眠いんだ。おやすみ)
(……まぁ、いいけどさぁ。おやすみ)
最後に一言二言だけ会話して、静かに眠りにつく。
差し込む月光が厳かに俺達を照らしていることを認識して、すぐに眠気に襲われた。
見ると、どうやら彼女も眠りに落ちる寸前のようだ。
「ぁ、ぁぅ、そ、そらぁ~……ふにゅぅ」
「……可愛い。おやすみ」
つい、可愛いと声に出してしまう。たまにはいいだろうか。
こうやって形にするのも、案外悪くない。
ふっと微笑んですぐ、暗闇へと俺の意識は溶け込んでいった。
青白の光がこの部屋に差し込んで、隅々まで光の領域が広がっていく。
暗がりだった闇はどんどんと後退して、やがて姿を消した。
朝が来たことを認識して、俺は隣の彼女を起こさないように布団から体を起こす。
すぐ横には、彼女の定期的に立てられる静かな呼吸音が聞こえ、視界には可愛らしい寝顔が広がる。
この状況の彼女は、どれだけ見てもドキッとしてしまう。
儚げな音が刻まれながら、素の顔を見せられているようで。
「……もう朝だぞ。ほら、起きろ~」
起こすのが随分と忍ばれるが、仕方があるまい。
体を揺らして、意識を呼び戻す。
「あぅ、あぁ~……そらくんが、食べられるぅ~」
「えっ」
何それ怖い。俺が食べられるって……どんな夢なのさ? 可愛いけども。
……もう少し。もう少しだけ、聞いてみようか。
「そ、そらくんが、運ばれるぅ~」
「えっえっ」
最早意味不明である。可愛い。
どこに運ばれて食べられるのだろうか。
思わずくすっと笑いながらも、これ以上聞くと延々と聞き続けてしまいそうなので、この辺にしておこうか。
妖夢の両肩を掴み、揺する。
短い白髪がふわりと合わせて揺れていて、ついつい触ってみたいだとか思ってしまう。
「ほら、妖夢。起きるんだ」
「ふえ……? ――あ、おあようございまふゅ」
「……可愛い」
「ふぇっ!? ……今の一言で、完全に目が覚めましたよ」
多少呆れられながらも、嬉しそうに笑う彼女は、本当に可愛らしい。
この笑顔をずっと眺めていたい、そんな思いを沸々と馳せていた。
朝食の用意に行こうと、彼女よりも先に部屋を出ようとして腕を組まれたことには、さすがに死にそうになった。
それもまた、幸せそうに笑うのだ。幸福すぎて死にそう。
……まずい。
右手の震えが、以前に増してひどくなっている。
箸の扱いもままならない、というわけではない。ギリギリ隠しきれているくらいだ。
箸先は定まらずに忙しなく動き、震え続ける。
それを悟られないように、できるだけ箸を見られないようにするのは大変で、バレた時のことを考えると怖くもあった。
大雑把な、何かを持つとかの動きにはあまり影響はない。
が、こういった箸運動等の細かな動きには、どうしても震えと拙さが出てしまう。
結局、食事時間では自分のことに集中しきって、朴訥としたまま終えてしまった。
異様に長く感じた朝食も取り終わり、二人で部屋に戻った。
……涅槃とは程遠い状況なのだが。
「ふぃ~……ここ、私の定位置がいいです」
「お、おう、そうか……」
俺があぐらで、その上に妖夢が座る。
彼女の座ったときの頭の高さが、ちょうどよく俺の顎と同じ。
後ろでお腹から彼女を抱き締めながら、顎を置くというかなり居心地のいい状況になっている。
「天君。……大きいです」
「おい妖夢どこ振り向いて言ってんだ」
いやもうアレを見ているうん。
思い切り下の方を振り向いて言っている。それも神妙な顔つきで。
まあいやもうホントに、仕方があるまい。男の生理反応だもの。
さて、これ以上接触させると妖夢も思うところがあるのだろう。
腰から少し彼女を離して――
「ちょっと待ってください。何で離そうとしてるんですか」
「いや何で離そうとする手を両手で掴んでるんですか」
それはもうがっちりとホールドして、むしろ押し付けちゃってるもん。
……はい?
「離されるのは……なんか、嫌です」
「……はいはい。定位置だもんな、そうだったな」
「そ、そうです、そうそう! ……はふぅ」
逆にもう一度、俺の方へ引き寄せる。
安堵したように、力を抜いて顔を緩ませる妖夢。可愛いなぁ。
昼前にも関わらず、冥界はまだ少々薄暗いだろうか。
部屋の灯りだけが俺達を照らしている。
「そ、天君、ちょっと……んっ」
「んっ……全く、昼前にこうやってするのも、早すぎやしないか?」
さっきまで背後から抱き締めていたのだが、彼女が動いた。
完全にこちら側に向いて対面して、俺の腰に足を絡ませて座っている。
その体勢のまま、腕を首に回されてキス。熱々すぎて泣けてくる。幸せだわ。
「しょ、しょうがない、じゃないですか……こんなに好きにさせたんです。天君も悪くて――」
「――んっ……そうかよ。じゃあ俺をこんなに好きにさせた妖夢も悪いわけだ」
彼女の言葉を遮って、お返しと言わんばかりのキス。
目を閉じて受け入れてくれる彼女に、俺は嬉しくなった。満たされた。
まさか、俺が恋するなんて、思いもしなかったんだけどなぁ……
本当に、意外だった。
ここに来る前なんて、彼女どころじゃなかったし。
「……そういう攻め方するの、ちょっとずるいです。……もっと好きになったらどうするんですか」
「っ……そうかい。じゃあもっと好きにさせるかね。んっ……」
危うく暴れかけた衝動を、彼女との長めのキスで蓋をする。
恋愛感情は、満たされても満たされても欲深く求めてしまう感情だ。
かくいう俺も、キスだけでは終わらず、必要以上に彼女を抱き寄せてしまっている。
それに応えるように、彼女の腰に絡めた足も深くなった。
腕も深くして抱きつかれ、お互いがお互いに求めすぎてしまっている。
……ん? この体勢、まさか……
俺のアレの上に跨る彼女は、足と腕を絡めてしっかりと抱きついている。
俺も俺で、華奢な彼女が折れてしまうんじゃないかと心配するほど強く抱き締めている。
……あっ。
―*―*―*―*―*―*―
あぁ、あぁ、この感覚、ゾクゾクしてくる、この感覚。
求め続けても足りない感覚が、私は大好きだ。
どれだけイチャイチャしようとも、もっと上の欲望に上塗りされる、この感覚。
思わず笑顔が出てしまう。少し前までは、恋は苦しいものだったはずなのに。
幸せだった。けれども、嫌われると考えると、それはもう心が締め付けられた。
……まぁ、今でも別の意味で心が締め付けられているのだが。
「あ、あ~……その、だな。妖夢、この体勢って――」
「――へっ?」
自分の体勢をすぐさま確認した。
彼の腰に跨って、後ろまでしっかりと足を巻きつけている。
腕はしきりに彼を離すまいと抱きついたままで――
「――あっ! い、いえいえそそその、えっと、あの……うぅ」
「いや、あれだ、うん。嫌だったらどいていいからな? 俺はいいけども……」
「……嫌じゃない」
結局、こうなってしまう。彼には敵わない。
どうあれ、彼に甘えてしまうのだ。
そして、彼の優しさに包まれた時の得も言えぬ快感と安心感は、破格なものがある。
ついつい、甘えたくなる自分に納得するくらいだ。
……近い内に、彼には今日の私以上に甘えてもらおうか。ふふっ。
甘えるのも好きだけれど、甘えてもらうのも大好きである。
つまり、彼大好き。
こんな破廉恥な体勢だけれども、全身で幸せが感じられるこの体勢は……嫌いではない。
むしろ……好き。恥ずかしいけれども、安心する。
……今度彼が寝た時にでも、もう一度だけしてみようか。
「そ、そうか。おう……」
「ね、眠くなってきましたね……」
彼の腕の中で抱かれるのは、どうにも眠気に誘われる。
残念だが、彼の腕の中で迎える微睡みには、耐えられそうにもない。
……もう少し、イチャイチャしたかったなぁ……
「ご、ごめんなさい、寝ちゃいます」
「そうか、じゃあ一緒に寝るか」
「はい、おやしゅみなしゃい……」
「ふふ、あぁ、おやすみ、妖夢」
既に呂律が回らなくなるほど安眠の導きを受けていたため、すぐに眠ってしまった。
彼にくしゃりと頭を撫でてもらった感覚を最後に、そのままの状態で眠りについた。
ありがとうございました!
一応、この話から最終章ということで。
あんまり長くもならなそうです。
できれば、その後の番外話も見てほしいな~なんて(/ω・\)チラッ
八月の夢見村を、短編から連載に変更しました。
元々短編を予定していただけあり、少し短くなりますが、よろしくお願いします。
ではでは!