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東方魂恋録  作者: 狼々
第4章 幻獣
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第32話 過去

どうも、狼々です!


今回は、天君の過去話を書きます。

それで、内容について不快感を覚えるかたもいらっしゃるかもしれません。

ご注意ください。


ではでは!

俺はゆめを見ていた。

夢でも、ユメでもない、ゆめ。

ゆめと言っても、そんなにハッピーなものじゃない。

これは、オレができる根源を作ったであろうゆめだ。





俺は、新藤の名字と天の名前を授かり、18年前に産まれた。

当時、俺はひどく大人しい赤ん坊だったそうだ。

まぁ、そんなことはどうでもいいか。


それで、俺が6歳の夏の時のことだった。家族でとある駅に行って、両親に駅で待っているように言われた。

俺は待ち続けた。いつまでも、いつまでも。



だが、両親は来ることはなかった。

悲しみに震えていた。駅のホームで、一人だった。

その時のことはよく覚えている。

まだ小学1年生のことなのにな。……それだけショックだったのだろう。


空蝉のように空っぽになった俺の心を満たしてくれた人は、親戚の叔父と叔母だった。

事故の後、叔父と叔母の元に引き取られた。

それで、中学3年まで育ててくれた。本当に感謝している。


ただ、いつまでもその状態は続けられない。叔父と叔母に悪い。

そう考えた俺は、中学の間、必死に勉強をした。

成績上位者の、高校入学優遇の為に。


それで、今の高校に通っている。無事成績上位者として入学できた。

ただ、その優遇は成績の下落が見られると、なくなる体制が取られていた。まぁ、当たり前と言えば当たり前だが。

俺は時間を惜しんで勉強した。他人よりも頑張った。だって、気概が違うのだから。


だが、周りからは避けられて。俺の事情も知らないで。

俺の行動の裏にある真意には、誰にも気付いていなかった。今まで、ずっと。

別に気付いて欲しいわけじゃない。避けられる理由が理由じゃなければ。


無意識の内に、俺は助けを求めていたのかもしれない。

俺は本当はこんな過去を持っているんだ、こんな事情があるんだ、って言って、環境を変えたかった。


だけれど、できなかった。

そして、誰も気付かないまま時だけが過ぎていき、俺への対応は、氷のように冷たくなっていった。



いつからだろうか。オレの考えができ始めたような気がした。自分でも気付かない内に。

周りを見返す、周りなんて信用できない。そんな考えが生まれたのは。


もしかしたら、6歳の時に既に芽生えた感情なのかもしれない。

当時、最愛の両親に捨てられ、周りからも避けられて。どんどんと、俺の存在価値が薄くなっていくのがわかった。

今思えば、幻想郷に来たのもこれが理由なのかもしれない。


今の環境から逃げて、俺を必要としてくれるところへ行く。

ひどい現実逃避だ。だけれど、それほどまでに追い詰められていた。


そして、俺を避けないでくれる人を、沢山見つけた。その中でも、銀髪の剣士は本当に友好的に接してくれた。

後から、庭師と聞かれて驚いたものだ。刀がとても上手いのにな。庭師もやってのけるとは。


そうして、人と接する中で、信頼の必要性を大きく感じていた。人間らしく生きる為には、必要不可欠なんだと知った。

好かれたら、今度は嫌われたくない思いが強くなっていった。もう、前のような生活に戻りたくない。

その思いだけが先行していった。


それで、今に至るわけだが。結局のところ、俺もオレも同じなのだ。

嫌われたくない。この思いからの行動が、さらなる信頼か、縁を切って孤独になるか。これだけの違い。

だが、オレはわかっていない。孤独になったら、悲しむ人がいることに。


悲しんだ人が、嫌いじゃないから嫌いに変わる可能性があることを。

信頼することの尊さを。

それらを、伝える必要がある。オレは、俺だから。






ゆめが覚めた。

体を起こす。今回は、体を限界まで動かした訳ではなかったため、起き上がることができた。

斬られた右腕には、服の切れた跡と、血液の跡が残っている。うわぁ……

どうやら、固定はされていないようだ。腱が切れて固定するのかはわからんが。

……ここは、どこだろうか。


少なくとも、白玉楼じゃない。このような病院特有のアルコールの、鼻を刺激するような匂いはないから。

となると、別の場所。それも、俺が今まで行ったことがないところ。

俺が周りをキョロキョロと見渡していると、部屋に一人の少女が入ってきた。

……女子、高生?


「あ、起きられましたか。待っていてください。師匠を呼んできます」


そう言って、パタパタと部屋を出ていった。

のだが、あれは頭に垂れたうさみみが付いていたよね……コスプレか? 幻想郷に?


そうして、待つこと数分。

さっきの女の子と、恐らく、『お師匠様』にあたるであろう人物が入ってきた。


「こんにちは。貴方が天ね。取り敢えず、ここは永遠亭、って呼ばれる……まぁ、病院みたいなものよ」


病院、か。俺の怪我を考えると、外科の方もやっているのだろうか?

幻想郷にもあったか。医薬品の類とかどうしてるのかと思ったが、この永遠亭と呼ばれるところで売られてるのか?

……ってか、今さっきまで、ここしか病院系の施設を聞いたことが無い。ここだけだとしたら、かなりまずいんじゃ?


「で、貴方の怪我……綺麗に腕の腱が切断されてたわ。最小限の傷だわ。事情は急いでた様だから知らないけど、何かあったんでしょう?」

「わかるんですか?」

「ええ。後、敬語は要らない」


そうか。俺はお医者さんとか店員さんには敬語を使う派なんだがな。

一応丁寧にしておこうと思ってね。


それにしても、最小限、か。さすが師匠、さすが妖夢といったところか。

優しさも感じる。あんなになった俺を容赦なく斬ってもおかしくないのに。


「わかった。――ってことは、貴女が治してくれたのか?」

「そうよ。――まだ自己紹介がまだだったわね。私は八意(やごころ) 永琳(えいりん)よ。よろしく」


中央で赤と青に分かれた服とスカートは、やや特徴的だ。

長い銀髪を、三つ編みにして後ろに流している。やはりと言うべきか、美人さん。


「ウドンゲ、貴女も自己紹介しときなさい」

「はい。どうも、私は鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバと言います。鈴仙で構いませんよ?」


最初に気になった女子高生の制服と、垂れたうさみみ。

うさみみのついた髪は薄紫色で、とても長い。どれくらいかと言うと、膝に余裕で届くくらい。

スカートが短すぎるような気もするが気の所為だろう。やはり可愛い。


「よろしく、鈴仙、永琳」

「ええ。で、天の怪我についてはもう大丈夫よ。だけど、少なくとも三日は動かさない方が良いわ。動かすなとは言わないけれど、少なくともその刀を抜くのはやめておいた方が良いわね」


そう言って、部屋の机に置いてあった神憑を指差す。

おお、そこにあったか。寝てて感触がなかったから焦った。

……え?


「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなに早く治るものなのか?」


時計を見るが、倒れたであろう時刻から数時間と経っていない。

腱が綺麗に切断されてたらしいが、そんなに早く治るのか? 少なくとも、手術はしたはずだ。

それに、見たような言い方だったから、その可能性は高いだろう。


「私なら治せるわ。『あらゆる薬を作る程度の能力』だもの。それに、薬だけじゃなくて、手術もできるもの」


何その天才。薬も作れるし、手術もできる。医者として結構すごいんじゃ……。

本当に病院に適した、というような人だな……


「そうなのか……ありがとう」

「いえ、いいのよ。試薬も使えたしね」


……ん? 試薬? 試す薬と書いて試薬? まさか俺って実験d……

これ以上は、考えることをやめた。


「そ、そうだ。鈴仙は何か能力持ってるのか?」

「ええ。『狂気を操る程度の能力』を。文字通りの効果です」


……病院にいていいのか? 狂気を操るって、発狂すんだろ?

あ、いや、操るだから、逆もありえるのか? カウンセリングとか上手そう。


永琳を『師匠』って呼んでたし、永琳が上司なのか? 師匠というより、上司の方が案外的確なのかもしれない。


「狂気か……それで、永遠亭って何処にあるんだ?」

「冥界の反対側よ。白玉楼から見て、妖怪の山とか、紅魔館とかのさらに先にある、迷いの竹林の中」


妖怪の山……? 確か、紅魔館を通った時に大きな山が見えたような見えてないような……まあいいか。

となると、結構遠くに来てるのか。

迷いってことは、相当に広い、もしくは幻術で同じところをぐるぐる回るかだな。

ま、飛べば大丈夫じゃないかな? さすがに冥界まで竹は伸びていないだろう。


「で、傷が完治するまで、貴方をここで預かるわ。患者としてね。三日経ったら戻っていいわよ」


三日か。まぁ大丈夫そうだな。白玉楼には妖夢がいるし。

むしろ期間は短すぎるくらいなんだ。感謝感謝。


「わかった。何から何まですまないな。この礼は必ず」

「そう。幻想郷を幻獣から救うのでチャラでいいわ。それより、その間にまたここを訪れないように気を付けることね」

「ぜ、善処しよう……」


やはり、唯一の病院ということもあり、幻獣は知ってるか。

となると、狂気を操る鈴仙がかなり使えそう。幻獣が操られて暴れてるなら、止められないか?


……けど、それで上手くいくなら俺呼んでねぇよなあ……。

あまり期待はできなさそうだ。


「じゃ、今日はもう寝ておきなさい。後、ここを無理に出ようとしても無駄よ。鈴仙が見つけるだろうから」

「ええ。骨を折ってでも粉々にしてでも連れて帰りますよ♪」


何それ怖い。もう治った後の傷よりも悪化する可能性が……

うさみみの可愛い顔して結構言うんだな……能力も『狂気』だし。


「お、おう。気を付ける」

「私はもう行くわ。何かあったら呼んで頂戴。じゃ、お大事にね」

「お大事にお願いします。失礼します」


二人が部屋から出て、俺が一人になる。

急に静かになったな……


「なぁ栞」

(どうしたの? 声出して。わざわざ声出さなくてもいいでしょ)

「いや、喋ってたい。声に出して、な。暇だし」


凄く、凄く暇だ。

話し相手もいない、修行もできない、何もすることがない。

今振り返って感じるが、俺の日常って結構パターン化されてんな。思いの外単純だ。


「じゃあ私も聞こえるように出すよ。特に意味はないけど。で……大丈夫? またあいつでしょ?」

「ああ。妖夢が抑えてくれたからよかったものの、どうだろうなぁ……嫌われたかなあ……」


途中で妖夢の敬語が抜けていたし。お前には敬語を使う価値もない、ってね。

オレのことを話していない妖夢にとって、俺の犯行だろ思われてんだろうな……


「大丈夫でしょ。天君には使う、って言ってたし、どこかで天とは違うってことがわかってたのかもね」


さすがと言うかなんというか。栞曰く、『天を一番わかってる』人物なだけある。自分でもそう思っているが。

となると、別の問題が……


「怒られっかなぁ……? 『何で言ってくれなかったの!?』って感じで」

「あ~……ありそうだね。もうこうなった以上、幽々子も黙ったままじゃないでしょ」


ですよねー。何のために言わなかったのか、わからなくなってくる。

心配かけたくなかった、と言えば、『信頼できませんか?』とか言われそうで。

むしろ一番信頼しているというかなんというか。


「だよな……帰ったらすぐに謝っとかないとな」

「そうだね。……もう、早くあいつは取り込んだ方がいいのかもね。できれば、幻獣が来ない今のうちに」

「……ごもっともで」


戦闘中に変わったらたまらない。

何するかわからないし、疲れるし、倒れるしでいいことがない。


「まぁ、三日は休んだ方がいいらしいじゃん。しばらくの休暇ってことで、休みなよ?」

「そうするか……じゃ、早速寝るよ。おやすみ~」


そう言って、俺はすぐに眠ってしまう。案外疲れがあったのか。


「あ……って、もう寝ちゃったのか。……相変わらず、天にだけ負担がかかっちゃってるなぁ……私だって……」


栞のその声は、眠っていた俺に届くことはなかった。







ユメ。また、あのユメ。随分と長く見ていなかったユメ。

悪夢のように続くユメ。




――おい、俺。弱すぎだ。オレが手本を見せてやったんだ。感謝しろよな?


    はいはい。それより、オレには言いたいことがあるんだよ。


――へえ、何だよ珍しい。聞いてやらないこともないぞ?


    そうかよ。……いつまでも孤独じゃいられないぞ。少しは信頼を覚えたらどうだよ?


――わかっている。そんなことは。……でもよ、どうしても信頼できない。裏切らないとは限らないからな。


    意外だったよ。信頼を覚えようとしていたとはな。


――さすがに一人の限界を理解できないようなバカじゃない。


    そうか。少しだけ嬉しくなくもないかな?


――どういう風の吹き回しだ? オレを嫌ってんだろ?


    まぁな。でも、さっきの言葉を聞いて少し印象が変わった。オレも俺だし、悪いようにはしないよ。


――そうかよ。だが、オレはオレしか信用できない。オレは俺だから、俺を信じるのと同義だ。


    何が言いたい?


――俺の可能性は信じたい。俺が、仲間を持って信頼の可能性があるなら、それを信じたい。


    オレこそどういう風の吹き回しだ? 急に友好的になったなあ?


――気の所為だろ。俺が弱かったら、今まで通り無理矢理に前に出る。弱い俺の信頼もしたくなくなる。


    俺の強さ次第では、信頼の俺に取り込まれる、ってことでいいのかな?


――ご勝手に。その飲み込む、ってヤツが少し気に入らないがな。元々俺なんだ。飲み込まれるのはオレだ。


    そうだな。飲み込んだ時は、一緒に前を向けるようになれるといいな。


――なわけねーだろ。少しは絶望を知れ。そもそも、オレが俺を飲み込む可能性だってあるんだ。容赦はするつもりはないから、覚悟しとけよ!



そう言って、今までで初めてオレが先に抜ける。

少しだけオレの本質を知れたのかもしれない。まぁ、オレが厄介な存在であることに変わりはないが。

このやり取りが、後に大きく影響することを信じて。


―*―*―*―*―*―*―


さて、あれから約一年が経った。

とうとう幻獣が解放できる秒読み段階までこぎつけた。


「おい、叢雲(むらくも)。――の幻獣を出すのにあとどれくらいかかる」

「えっと……アタシにかかりゃ、遅くとも五日だね。早いと四日だね」


ふむ……じゃあ、どうするか。

出す幻獣は決まっている。場所もその時の状況によるが、後は解放の日数のみが足枷だ。


さて……天よ。どう出る?


俺は口元を歪ませて嗤っていた。

今回は、あまり物語が進む回ではありませんでした。

天の過去に、新キャラの鈴仙と永琳、そしてアイデアライズの叢雲の名前が出ました。

アイデアライズの方は、あと一人ですね。


次回は、妖夢ちゃん書きます。前回叫ばせておいて、今回でなかったので。

ごめんよ、妖夢ちゃん……すみません、皆さん……


ではでは!

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