第12話 『器』を見せて?
どうも、狼々です!
この話を書いているときに、UA数が600を超しました!
嬉しい限りです。1、3話に至ってはアクセス数120超えてます。
1話はなんとなくわかりますが、なぜ3話……?
と不思議に思っている私でした。
1章の第1話だからですかね?
では、本編どうぞ!
俺は今妖夢と一緒に台所で料理をしている。
のだが、まだあの白いナニカがふよふよと妖夢の隣で浮いている。
……だめだ。気になる。俺は妖夢にそれについて聞いてみることにした。
「なあ妖夢、その隣でふよふよしているヤツは何だ? ずっと妖夢の隣に付いて離れてないが……」
「ああ、それは『半霊』といって、私の半分なんですよ。私は半人半霊ですから……」
ああ――そういえば、宴会で萃香にどんな種族があるのか聞いた時、その中の一つにあった気がする。
妖夢のことだったのか。
俺らは料理の手を止めず、目も料理をする手元に向けていた。
「へぇ……色々あるもんなんだな。まだまだ幻想郷には知らないことだらけだな」
「……ねぇ、天君」
「何だ?」
妖夢の少し沈んだ様な声に反応して、俺は妖夢の方を見る。
妖夢もこちらを向いていたようで、目が合う。手も止めていて、表情は声と同じく沈んでいるように見える。
「……天君は、嫌じゃないんですか……?」
「いや、なにが? てか、どうしたのそんな顔して」
「私は半人半霊と言いましたよね。名の通り半分幽霊で、人間なのは半分だけなんですよ」
「それで?」
「ですから――気持ち悪いとか、不快だとか思わないんですか?」
「いいや、全然? というか、何でそうなるんだよ」
「幽霊が自分と会話して、隣にいるんですよ?」
「ああ、なるほど。そういうことか」
妖夢は自分のことについてあまりいい思いをされなかったことがあるのだろう。
中身を見られずに外の肩書だけを見られ、避けられたのだろうか。
俺は別に嫌うことも不快に思うことも特にはない。まあ、交流がまだまだ薄いのもあるだろうが。
「――俺は、『外』だけ見るようなことはしないよ。これから俺は刀教わるんだ。そんときに『中』をずっと見ることになるだろうさ」
「……そうですか」
俺と妖夢はそれ以降先程のことには一切触れずに料理を完成させ、幽々子達の元へ料理を運んだ。
……にしても、なんか多くない? 俺と霊夢の二人が増えてもこの量は食べきれないぞ。
「えっと……なぁ妖夢? ちょっと多くない?」
「いえ、合ってますよ。これの半分くらいは幽々子様一人で食べられますから」
……まじかよ。これ八人分くらいあるぞ。幽々子だけで四人分……恐ろしいな。
食費とかどうなってんだろ……大変だな。
俺と妖夢は幽々子の部屋にたどり着く。
「あ、来たわね。早速食べましょ! 食べたら、まず天には抜刀してもらうわ」
「わかったよ。てか、抜けんのかあれ?」
「大丈夫よ。いざとなったら鞘は投げ捨てればいいわ」
「いや、回収するからね?」
刀のことはこの会話以外一切せず、他愛のない話で食事を進めていた。
……俺を気遣ってくれてるのか? いや、考えすぎだな。
俺達は食事を終え、刀を持って中庭に集まっていた。
「天、一週間よ。一週間で『器』を見せなさい」
「……ああ」
俺は刀を手に取る。ずしり、と重い感覚が右手に伝わる。
何とか持てる。これなら抜刀して、両手なら案外振れそうだ。
俺は刀を横にして限界まで腕を広げ、刀を鞘から出そうとする。
徐々に刃が見えてくる。銀色の光を反射させて光るそれは、まるで鏡のようだ。
刀を完全に抜刀させた。鞘は捨てずに抜くことができた。きつくないわけではないが。
構えとかわからないので、取り敢えず俺は刀を前に構える。
瞬間、俺の意識が飛んだ。
――気がつくと、俺は一面が白一色の場所に立っていた。さっきまで持っていた刀もない。
広さは……わからない。とても遠くまで、それこそ永遠に続いているかもしれないし、とても狭い立方体の中なのかもしれない。
すると、突然目の前に幼女が現れた。いや、俺が気づかなかっただけで、最初からいた。
「こんにちは、あなたの名前はなに?」
幽々子のようなピンクでロングの髪。瞳はエメラルドというよりもコバルトグリーンに近い緑色。
服は水色の……ワンピースのような服を着ている。腕には銀のブレスレットが左右の腕に一つづつ付けられている。
靴はワンピースと同じような水色のサンダルを履いている。
洋服、か。まあ、服装はこの際はどうでもいい。それより、聞くべきことがあるだろう。
「俺は新藤 天だ。呼び方は天でいい。……で、ここが何処かと、君は誰かを聞いてもいいかな?」
「ここは刀の中、かな? 取り敢えず、魂同士で会話できたりしちゃうところ。名前は……別にいいよね?」
「……どうしてだい?」
「――一週間しか生きないだろうから」
俺はその言葉を聞いてすぐさま後ろへ全力で飛ぶ。
ただただ距離を取ったほうが良いと自分の本能が叫んでいた。
この幼女は恐らく――――
「あはは、そんなに怖がらなくてもいいのに。」
「――君が、刀に宿っている使用者を殺す魂、でいいのかい?」
「うん、そうだよ。私のこともう知ってるみたいだね」
「……『器を見せろ』、だろ?」
「そこまで知ってるの? なら話が早いわ。一週間で私に『器』を見せてね」
「……言われなくとも。一応聞くが、器って人間の心の広さのことか?」
「ある意味じゃそうだし、違うとも言えるね」
「……それが聞ければ十分だ。『器』が何かはまだ分からないが。皆のところにはどうやって戻れる?」
「私しか刀の中の魂の移動権は持ってないよ。だから、私しか天を外に出せないよ?」
「じゃ、出してくれ。出さないと、『器』とやらも見せられないし」
「出さないなんて言ってないよ。ただ、私は刀から天をずっと見ているからね?」
「了解」
「じゃ、目を閉じて。3秒くらいでいいわよ」
俺は言われた通り、目を閉じる。
3秒経つと、幽々子や妖夢の声が聞こえる。
俺は目を開く。目に飛び込んでくる光に眩しさを感じる。
「あ、起きましたよ!」
「「天! 大丈夫!?」」
幽々子と霊夢が血相を変えて走ってくる。
心配させたみたいだな……
「ああ、大丈夫だ。……例の魂に会ってきた。例の如く、『器を見せろ』だとさ」
「「「……!」」」
三人が顔を引き締める。
「妖夢、今から刀を教えてくれ」
「え……ですが――」
「頼む。一週間で終わるかもしんないからさ?」
俺がそう言った瞬間、妖夢は怒りと寂しさを持ち合わせた表情で俺を真っ直ぐに見つめる。
「――そんなこと言わないでください。この先ずっと教えていくんですから。一週間と言わず、ずっと」
その言葉を聞いて安心すると同時に嬉しくなる。
今日から、俺の刀の修行が始まる――
―*―*―*―*―*―*―
今日から私は、天君と一緒に修行する。
教えられるところは少ないけれど、出来る限りのことをしたい。
屋敷の外に出て、私は桜観剣を抜き、天君の隣に立って実際に見せる。
「じゃあ、まずは構えからですね。……これが中段の構えです。基本の構えですから、一番に覚えてください」
「……これでいいか?」
「足が逆ですよ。もっと足は肩幅に開いて……ええ、大体そんな感じですね。で、振り方なんですが……まず振れそうですか?」
「ああ、なんとかな……」
「刀を上に上げてください。……そう、それが上段の構えです。その構えから刀を下に振ってください」
「あ、案外振れると思ったけど、お、重っ……はぁっ!」
「結構いい感じですね。さっきの上段は、左右の足どちらが前に出るかで左上段と右上段に分かれます」
「わかった……」
「あと、上段は攻撃的な姿勢ですが、防御に向いていません。天君は最初はあまり使わないほうがいいでしょう」
「了解、俺もこれを上に上げるのは中々骨が折れる……」
さっき幽々子様にもらった――神憑、だっただろうか?
それを一瞥して天君は疲れたように息を吐く。
「なぁ妖夢、その二本の刀の名前ってなんていうんだ?」
「こっちの長いのが楼観剣、短いのが白楼剣です」
「二本あるってことは、やっぱ二刀流なのか?」
「ええ、そうですよ。さぁ、続きに取り掛かりますよ。次は八相の構えと脇構えです。左足を前に出して、刀を上に立てて右手側に寄せてください」
「……こうか?」
「ええ、それが八相の構えです。重い刀だと持ち続けるだけで体力を使いますから、その構えで余計な力を抜くんです」
「なるほど……確かに持つのが楽だな」
「次は脇構えです。右斜めに体を向けてを剣先を後ろに下げて……そうです。この構えは自分の弱点の集まる中央部分を隠すことと相手に刀の長さを測らせないこと、左半身へ相手の攻撃を誘うことができます。まあ、殆ど対人戦にしか良いことがないですね」
「ま、逆に言えば人間には効果があるってことだろ? ……いや、一般人に剣向けたりしないからね?」
「私は何も言ってないですし、そんなことをするとは思っていませんよ……」
私は自然と溜め息をつく。
天君は色々と他人に気が回るし、頭も良い。幽々子様のことを初見で見抜いたくらいだ。
けど……なんというか――少し抜けている、というか天然というか……まぁ、私も人のことを言えないが。
「おや、結構信頼されているようで。俺は嬉しいよ」
「信頼とかじゃなくて、人間性から考えたんですよ」
「そうか。ま、いつか信用されるように頑張るよ」
「……それは、一週間以上生きる、ということでいいですか?」
「……あれ? もしかして妖夢俺のこと嫌いだったりする? 一週間で死んで欲しいみたいな――」
「そんなことはありませんよ!」
「うあぃ!びっくりした……どうした急に?」
あ……つい声を大きくし過ぎてしまった……
でも――少なくとも私は彼に死んで欲しいとは思っていない。
「……私は天君に死んで欲しいなんて少しも、微塵も思っていませんし、今後思うことも無いでしょう」
「これまた随分ときっぱりと言うもんだな。――悪かった。続きやろうか」
「……ええ。次は下段の構えです。刀の剣先を少し下げた中段の構えで良いです。……そうです、あってますよ。下段は上段よりも防御的構えです。」
「ああ、わかった」
「さっき教えた五つの構えのことを『五行の構え』といいます。剣術の基本なので、これらは最低限覚えておくべき構えです」
「了解、覚えたよ。多分完璧なはずだ。構えだけならね?」
……覚えた? この短時間で、簡単な説明しかしてないのに?
それも完璧に……過信にも程がある。
「へぇ……そこまで言うんだったら“完璧に”やってくださいね?」
「そのつもりだ。じゃ、教えてもらった順にやるから、見終わったら何か言ってくれ」
「――わかりました」
天君は中段の構えを取る。
……おかしな点は何も見当たらない。
「次、いいですよ」
「あいよ」
天君は前言の通り、上段、八相、脇構え、下段をどれも“完璧な”形をとっていた。
……ありえない。形を覚えるならまだできるかもしれない。
のだが――――教えていないところまでできている。
ということは……
「天君……この短時間で私の構えを盗んだの?」
「お、敬語取れたね。……そうだけど?」
「……私が構えを見せたのは長くて30秒、短かったら10秒も見せてないです。教えなかったところもありました」
「ああ残念、戻っちゃったか。……ああ、何個かあったな」
「早すぎる。覚えるには時間が足りないです」
「こと覚えるに関しては誰よりも頑張ってきたつもりだからね。覚えようとすればできるさ。ただ、覚えようと意識しなかったら無理だけどな?」
……ある種の才能だ。幽々子様の部屋での霊力量といい、さっきといい、この男は何なんだろうか。
「天君、あなたは正直“天才”だと思います。“才能があります”。剣も他のことも他人よりすぐに上手くなれますよ」
そう言うと天君は悲しそうな、諦めたような、苦しそうな。でも、慣れているといったような表情を私に見せた。
私はこの後すぐに、自分の失言に気付くことになる。
―*―*―*―*―*―*―
天才、才能がある、か……
結局――
「――やっぱり妖夢も、そう言うのか」
「……ぇ……?」
妖夢は戸惑った表情を見せる。
小さくだが、声に出てしまっていたか。
妖夢は意識してわざと言ったわけじゃないんだ。さっきまでと同じように接しよう。
「さぁ、続きをお願いしますよ、『師匠』?」
「……ええ。そう、ですね」
妖夢がまだ戸惑いの表情を収めない。
「どうしたんだよ、そんな顔して。さ、俺に刀、教えてよ」
「――わかりました」
妖夢がずっと浮かない顔のまま刀を教えていた。
初日は攻撃の受け流し方、体の捌き方を教えてくれた。
修行が終わり、今俺と妖夢は台所で夕食の準備を進めていた。
「「……」」
気まずい、気まず過ぎる……!
黙々と進めていると料理はどんどんと完成していく。
そろそろ何か言わないとまずいよな……?
「な、なあ!」「あ、あの!」
俺と妖夢の互いへの呼びかけが重なる。
さらに気まずくなったじゃないか……
「お、お先にどうぞ……」
「……妖夢は、ずっと剣を教えているとき浮かない顔をしていた。どうしてだ?」
「……浮かない顔なんてしてません」
「いや、してたな」
「……胸が、苦しかったんですよ。あの時の天君の顔は、私にとってとても辛そうに見えました」
ダメだ、繕いきれてなかったか。そうだろうな。そりゃバレるよなぁ……
「……『あの時』っていつだ?」
「『妖夢もそう言うのか』って言ったときです……」
「……俺はそんなこと言った覚えはないよ?」
馬鹿か俺は。嘘ついてどうする。言葉覚えられるくらい記憶に残ってんだぞ。
往生際が悪いにも程があるだろうに。我ながら呆れてしまう。
「……そう、ですか?」
「ああ、そうだよ?」
「……私たちはまだ会って間もないです。ですが、これから関わり続ける予定です。今すぐにとは言いません。……何かあったら、私に相談してくださいね……?」
俺は妖夢の言葉を聞いて心が痛んだ。
会って初日の男の顔を見て胸が苦しくなり、辛いことは相談に乗ると言ってくれるような優しい少女に。
……俺は嘘を吐いてしまった。
「あ、ああ……何かあったら妖夢に頼らせてもらうよ」
「……ありがとうございます!」
妖夢は屈託のない、純粋に嬉しい。そういった笑顔を浮かべる。
俺の心はさっきよりも痛む。
その光輝くような笑顔は、俺には眩しすぎた。
料理を完成させ、幽々子の部屋へ運んでいる最中。
「妖夢はさ、何か能力とか持ってんの?」
「ええ。『剣術を扱う程度の能力』を持ってますよ」
やっぱ剣系統の能力か……なんとなく気づいてはいたが。
「剣の研鑽をすればずるほど強くなっていく、というものです」
なるほど。剣を使えば使うほどってか。
努力の能力と少し似ている所があるな……
「俺の能力と少し似てるな」
「ええ。案外私たちは似ているのかもしれないですね」
「違いない」
そんな他愛のない話をしていると、幽々子の部屋に辿り着く。
「幽々子様~お料理お持ちしましたよ~」
「ありがとうね、妖夢~天もありがとう~」
相変わらずマイペースなようで。
部屋で霊夢を見つける。まだ帰っていなかったみたいだ。
「そうそう、霊夢がね、天が浮いた時の話を自分のことのように嬉しそーに話してたのよ?」
「ちょ、ちょっと幽々子! あんたさっき言わないって言ってたでしょ! ……そこ! ニヤニヤしない!」
おっと、恥じらう霊夢を見てニヤニヤしてしまっていたか。
俺が重い刀持ちでも自由に飛べるようになったら霊夢はどんな顔をするのだろうか。
楽しみができたな。後でこっそり練習するか……
「じゃ、食べるか!」
俺達四人は食事を楽しんだ。
こんなに楽しく食事ができたのはいつ以来だろうか。
いつも一人で食事していたからな……たまにはこういうのも悪くない。むしろ良い。
この楽しい生活を一週間では終わらせない。終わらせたくない。
俺はそう思いながら夕食をとった。
ありがとうございました。
途中妖夢がプロポーズに取れなくもない言葉を言いましたね。
少しラブコメの要素も入ってきたでしょうか?
妖夢視点の時、地の文も敬語だと違和感があったので、敬語は使っていません。
私は剣道経験者どころか竹刀すら握ったことがありません。
なので、この話で書いたことが本当かどうかもわかりません。
間違っていたら、修正の報告をしていただけるとありがたいです。
ではでは!