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友達

作者: 芍薬甘草

 

 先日、小中学校の同級生だった女性に偶然出会った時のことです。

 独り身で、友達と呼べるような相手もいない私に対し、彼女は既に子持ちで男の子を二人連れていました。


「子供達、大きいね」

「うん、上はもう五歳だからね」

「今は何て苗字になったの?」

「今は◯◯◯だよ」


 私はその場を円満にやり過ごそうとして、そんなたいして興味もない当たり障りのない会話をします。

 そしてぼちぼち行ってもいいかなと思った時……彼女はしゃがんで息子の肩を抱くと、その子に私を見せてこう言いました。


「ねえ××くん、この人ねえ、お母さんの友達なんだよ」



 私の頭は真っ白になりました。

 彼女とは小中学生の頃ですら仲よく遊んだわけでもなく、今の連絡先も知りません。

 SNSの類は私がやっていないのでまた別の話ですが、彼女が結婚して子供を産んでいたことも、その時初めて知りました。

 そんな私を彼女は『友達』として自分の子供に紹介したのです。


 やり過ごすには子供達に「初めまして、芍薬甘草だよ」とでも言えば良い場面だったのでしょう。

 しかし、その時の私はそれすらできずに立ち尽くします。


 幸い子供が手を振ってくれたので、私はそれに手を振り返すことで答えることができました。

 そのまま彼女達とは別れましたが、私の笑顔はさぞかし引きつっていたでしょう。




 誤解のないように言っておくと、私は彼女と友達であるということを否定したいのではありません。

 かと言って肯定はできませんし、嬉しく思ったわけでもなく。

 この気持ちを整理するためにこうして筆をとり、今ようやく結論を出せました。


 私はただ、彼女の善意を受け止める事が出来なかったのです。

 ――好意ではなく、善意。

 そして彼女に私を『友達』という美しい言葉で紹介させてしまったことが、申し訳ない気持ちになっていたのです。

 これが、友達の作り方すら忘れてしまうという現象なのかもしれません。



 私にはこの教訓から皆さんに語るような言葉は出せないのですが――あえて、友達のいる人は大切にしてくださいという安い言葉で締めさせて下さい。


 私は今も友達がいないことを辛いとは思いませんが……こんな言葉でしか話を締めくくれないのは、物書きとしては恥ですから。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少し大分作品のようなので、現状は著者様の状況も変わっているかもしれないので、軽く目を通すくらいでお願いします。 著者様の反応は普通だと思います。昔の知り合いと言ってもしばらく話をして…
[良い点] 人生の一コマを奇麗に切り抜いた感じが良かったです。
[一言] 大人の世界の『友達』と子供の世界の『友達』って、同じ言葉だけど色々違いますからね…。 あえて、子供に分かりやすく言おうとしたのでしょうけれど、私が作者さんの立場になったとしてその場面に居てそ…
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