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サンデルマンの屋敷が襲撃され、彼自身が何者かに殺されたという噂は翌朝にはチョザの街を騒がせていた。しかしデザーネ家の屋敷では、まだその報せは届いていなかった。
「御主人様、かような封書が届いておりますが・・・・・・」
娘家族と息子二人と共に朝食の席についていたデザーネは、使用人が持って来た何の変哲もない封書を眸にぶっきらぼうに命じた。
「開けてくれ」
使用人の青年が朝食の席から少し離れた場所に立ったまま「かしこまりました」と告げると封書を丁寧に開く。
「うわあッ!!」突如、青年は落ち着いた態度を一変させ、封書を放り出した。
「なんだ、騒がしい」
デザーネが厳しく睨みつけると、青年は怯えた表情で落とした封書を指差した。
「ゆ、指が・・・・・・」
「持って来い」デザーネは不審に思っている家族を無視して、青年を急かした。彼はこの家の独裁者だった。
「さっさとしろ」
「は、はい」
並んで席に座っていた家族も、青年が拾い上げた布に包まれたものを眸にした。
老人は青年の手から物をひったくると、乱暴に布を解き、中身を食台に顕わにした。同時に家族の幾人かが「ひぃっ」と喉を鳴らす。太めの人間の人差し指がゴロリと転がった。デザーネは顔色一つ変えず言った。
「他に入っていたものはないのか?」
「ありません」
真っ青な顔色の使用人に、デザーネは不穏な眸を向けたが、嘘ではないと知り、男のものらしい指を無造作に摘み上げた。そして老人は指に黒い紋様があることを知り、まじまじとそれを見つめ誰にともなく呟いた。
「ふん、考えたな。炎の息子か。サンデルマンのヤツめ、正体を知られた上、始末されたな。どこまでも使えんヤツだ」
彼以外の家族と使用人は、老人の話す内容の意味を知らなかったが、そこに潜むあってはならない邪な臭いにただ俯いた。ただし二人の息子は興味深そうに父親を窺い、何かに勘づいて互いに眸を合わせて微笑んだ。それは老人と同等、もしくはそれ以上に悪辣な笑みだったが、まだ気づいた者は一人もいなかった。
デザーネはサンデルマンの指に施された焼印を見飽きるほど観察すると、ようやく長く重い溜め息をついた。
「だが、これで残りの九家は怖気づくだろう。我がデザーネだけで事を成すには性急すぎる」
老人は持病の足の間接の痛みに、顔をしかめた。最早、彼は歳を取り過ぎていた。そして本人がそのことに気づく前に、二人の息子は終幕の緞帳に手を伸ばさんとしていた。
高利貸しが死んで悲しむ者など民衆にはおらず、サンデルマン家の話はチョザの街を一巡りした後、侍女の口を通して、兵士に齎され、昼前には王宮へ浸透した。上流階級の十一家の一貴族だったこともあり、サンデルマン家を潰したのは、残りの十家のどれかだなどと、憶測も飛び交い始めていた。
夜更けに王宮へ戻った後、冬将の騎士は速やかに残務を済ませ、騎士長のグーヴァーに腕の手当てをされながらジグリットがこっぴどく叱られているのを眺め、上司に昨夜の説明を強いられていた。グーヴァーは二人が勝手に行動したことよりも、その型破りな作戦に激怒し、二人が昨夜の出来事を話す間に数え切れないほど癇癪を起こした。
話を聞き終わったグーヴァーは、近衛隊の隊長であるフツを呼び、彼と二人で話し合った。そしてフツが関与していないことを知ると、彼に後始末を任せて自分は手を退いた。
フツは騎士団を毛嫌いしていたが、それ以上に貴族を嫌っていた。その上流階級と結託して、亡きタザリア王の意思に背くような反乱は、彼も望んでいなかったのだ。フツの忠誠は、今でもクレイトス・タザリアに向けられていた。フツは反乱を起こそうと動いていた十二人の隊員を除隊し――うち四人はジグリットと騎士の手によってすでにサンデルマンの屋敷で殺されていた――近衛隊の隊長として王子に謝罪した。
戴冠式まで、もう七日を切っていた。ジグリットは自ら、危険を排除したが、それでも本当に安堵するには至らなかった。彼は亡きジューヌ王子が抱いていた日々の不安と重責を、今は理解していた。それでも自分が王位に就くという事実は、いまだ実感できずにいた。だが、願っていないわけではなかった。ジグリットはタザリアの形を変えたかった。貧困層を失くし、自分や仲間達が味わった飢えや寒さから、すべての子供を解放したかった。ジリス砦で会ったアイーダやバールカのような、貧しさのために激務に耐えなければならない人々を助けたかった。利益を漁るように、貧しい人々から搾取しようとする輩から、彼らの権利や生活を守りたかった。それができるのはタザリアの王だけだと、ジグリットは心の底から思っていた。




