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サンデルマンは険悪な雰囲気をなんとか打ち消そうと、必死に笑みを作っていた。それもそのはずで、彼はすでに二度も失敗をしてしまったのだ。一度ならまだしも、最早酌量の余地はない。広い大接室の中央で、彼は汗ばんだ手を交互に何度も組み替えていた。
「貴公には落胆させられたよ」
老人の嗄れた声に、巨大な狸のような姿形のサンデルマンが肩を丸める。
「デザーネ公、これには色々と訳がありまして・・・・・・」
老人は黒光りする見事な天鵝絨の長椅子に腰かけたまま、立ち尽くしているサンデルマンに杖を向けた。杖の頭部には金鍍金された厳めしい獅子の首が乗っている。金色に輝く獅子を向けられたサンデルマンは震え上がっていたが、デザーネが口を開くとさらに青褪めた。
「次に消える灯火は、貴公かはたまた黒き炎か」
「デ、デザーネ公・・・・・・必ずや、必ずや、貴方様の望みであり、上流階級の皆様方の積年の思いをわたくしが、このわたくしめが叶えてみせます。どうぞ、どうぞ、もうしばらくお待ち下さい」
デザーネに何度も頭を下げるサンデルマンの内心は、折れた威厳と自尊心で発狂しそうなほどだった。だが彼は理性を奮い起こし、苦笑いを浮かべた。
「なにせ、一度目の刺客は、近衛隊の隊員。正体がバレるわけにいかず、退くよりなかったのです。二度目の男は、わたしのところの客だったのですが、借金の回収が見込めないので、金の代わりに働いてもらったんですが、こいつがまた愚脳な輩で」
デザーネはサンデルマンの言い訳に耳を貸すつもりはなかった。彼らを起用したのは、他ならぬサンデルマン自身、ならその失敗も彼の失敗だ。
「貴公はなぜ、われら上流階級がタザリア王家を憎むのか、知っているのか?」
ふいの質問にサンデルマンは頭が真っ白になった。
「は・・・・・・いえ、確か・・・・・・過去の裏切りが原因ではなかったかと・・・」
デザーネの年輪のような皺が刻まれた手が杖の頭部を握りながら、ぶるぶると震えた。
「元はタザリアもこの地の貴族の一つに過ぎなかった。上流階級を出し抜き、古き王に取って代わったあの炎の一族を、長年われわれは疎んじてきた。だが、王となったタザリアに、その頃まだ上流階級には集まりもなく、協力関係の欠片もなかった。われら貴族が個々で立ち向かうには、炎はあまりにも巨大だった。いまやその影もないがな」
サンデルマンの青白い顔にデザーネは忠告した。
「次が最後だ。貴公の世渡り上手はわしも知っておる。だが、それも中流貴族において。我らが十家に自らを認めさせたくば、それ相応の働きを己が示さねばならん」
「重々承知しております」
「ならばよい。次に会うのは、貴公を讃えるとき。すなわち、王子の墓穴が塞がったときよ。のう、サンデルマン公」
サンデルマンは再び頭を下げた。彼がまだ礼を終えないうちに、部屋の扉口に立っていた二人の厳つい大男が歩み寄って来る。そしてデザーネを、銀糸入りの黒繻子の座布団が敷かれた脚のない椅子に載せると、二人がかりで壊れ物のようにやさしく持ち上げた。
サンデルマンはその様子を無遠慮に見つめた。デザーネはすでに年老いている。足も石のように動かないと聞いていた。サンデルマンは上流階級の十一家の中で筆頭貴族に挙げられるデザーネ一族が、この老人の代で終わることを予期していた。
――タザリアを滅ぼすことに躍起になっているが、デザーネも所詮、同じ末路だ。上ばかり見て、下を見ずして、主権が執れるか。
――この爺さんが死ぬまでの間だ。デザーネが終われば、おれの時代よ。
サンデルマンはデザーネが退出するのを、満面の笑みで送り出した。三度目の失敗などあるはずもない。彼が用意した次の刺客達は手練れの山賊達。ナフタバンナ王国からわざわざ金を惜しまず呼び寄せたのだ。
デザーネは確信していた。王子の死と、齎される栄光の日々を――。




