表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タザリア王国物語  作者: スズキヒサシ
影の王子
3/287

1-2

 貧民窟(スラム)の通りは、すでに薄闇に包まれようとしていた。

 ジグリットは蝶番の壊れた扉を片手で器用に閉め、暗紫色(あんししょく)を帯びた雲が濃い群青の空を横切っているのを見上げた。彼は乱雑に林立する赤茶けた建物群の奥で、一際眸を引くサンダウ寺院の鐘楼が、テュランノス山脈の切り立った黒い岩肌を背に、僅かに残った夕焼けで小塔(タレット)の先だけ照り返しているのを見つめた。

 あそこに神を信じ敬う人々が暮らしていることをジグリットは知っていた。しかし、その宗教についてはあまり詳しくなかった。

 ジグリットのように生まれながらに孤児であり、大人と接する機会も少ないと、大抵の知識は生きるために必要不可欠なものだけに限られてしまう。

 サンダウ寺院が崇める神、バスカニオンの名と、世界を形創ったといわれていることは知っていたが、その厳めしい入口を飾る“天に向かい口を開いている少女の像”については何も知らなかった。そんなことは孤児達にとって、どうでもいいことだった。彼らは救いを待つ虚しさをすでに知っていたし、祈る時間があるなら稼ぎに行くべきだと考えていた。

 ただ、暮れていく街を見下ろす寺院の最後の反射光が消える瞬間、ジグリットは言い知れない胸の疼きを覚えて、その感傷とともにその場に立ち尽くし、街がさらに漆黒に呑まれるのを待った。やがて寺院が黒い影の塊にしか見えなくなると、ジグリットは闇に馴れて歩き出した。

 貧民窟から下層民の住む小路を抜け、妖しげな遊里がはびこる街路を通り、広場へ出る。そしてそこから大通りに近い、商家が軒を連ねる舗道を歩いていく。

 すれ違うのは、家路を急ぐ仕事帰りの男や、ガス灯をつける長い棒を手にした点灯夫。まだ冷える夜風に、ジグリットは毛編(セーター)の下に着た上衣(チュニック)の黒ずんだ襟を引っ張り出して、首に巻きつけるように立てると肩を丸めた。

 ――テトスとマロシュなら、この時間帯は絞首大通り(ガロウズ・アベニュー)だな。

 曲がりくねった小路を寒さに押されるように早足で過ぎていく。

 彼らの仕事は時間帯に合わせて、場所を移動する必要があった。まだ薄暗い今時分なら、絞首大通りを抜けて次の街へ移動する商人や貿易商を狙ってかっぱらいができる。もっと夜が更けると、大通りを抜ける人影もなくなり、今度はそこから通りを何本か入った場所にある西広場周辺の呑み屋街が狙い目になる。

 エスタークの街では絞首大通りを挟んで東は、ほぼ商家と上流階級(アルコンテス)の貴族の館が連なっていた。逆に大通りの西側は、西広場が呑み屋街、そこからさらに西に、女たちの住む遊里、下層民の家々、そしてジグリットたちの貧民窟と、大通りを挟んで不気味なほどキレイに分割されていた。

 ジグリットたちは西広場の大衆酒場で、よたつく足で帰宅する客をカモにしていた。ただし仕事熱心な商人や貿易商と違って、酒場ですっかり金を使い果たした酔いどれ客によっては、掏った財布がもぬけの殻だったり、冬の冷気で酒が抜けきっていたおかげで執拗に追い回され、捕まったら最後、半殺しの目にあうこともあった。

 ジグリットは盗みをすることに罪悪感を感じたことはなかった。確かに盗みをするのはよくないことだ。それぐらいのことはわかっている。しかし、それしか彼らの小さな胃袋を満たす暮らしはできなかった。

 絞首大通りへと出たジグリットの前に、馬車二台が楽にすれ違えるだけの舗装された太い道路が現れた。北から南への直線しかないその往来は、白い土を固めただけのもので、それでもここエスタークを貫く主要道路となっていた。

 ジグリットはさっそく二人の少年を捜そうと辺りを見渡したが、その直後、北側から走ってきた軍馬によって、盛大な土埃を喰らうハメになった。彼は一歩退いて、もうもうと立ち昇った砂塵を両手で掻き分けた。

 思わず咳込むジグリットの背後から、何者かが「鈍くせぇなぁ」と笑いながら肩を叩く。「遅かったじゃねぇか、ジグ」

 少しばかりジグリットより背の低いその少年は、黒くなったみそっ歯を見せ、生意気そうに笑っている。ジグリットは咳が収まると、苦しそうに彼を見上げて、すぐにニヤリと笑い返した。そして、その細い肩に腕を回しグイと引き寄せる。

「よぉ、マロシュ」そう言ったつもりが、また息だけがシュウッと漏れた。

 マロシュは不思議そうな顔でジグリットを見上げた。

「どうしたんだ、ジグ? まだ体調悪いのかよ」

 ジグリットは腕を離して、どうにもならないとばかりに首を振った。

 ――本当に参ったな。これじゃ、まともに話しもできない。

 マロシュの怪訝な表情に、ジグリットは喉を指して、声が出ないのだとまたジェスチャーして見せなくてはならなかった。

 いろいろ話したいこともあったが、この状態では一つ意味を通すだけでも大変だ。ジグリットは仕方なく、一番聞きたいことだけをなんとか伝えようとした。

 辺りを見渡したかぎり、彼のもう一人の相棒の姿はない。暗い路地の影にも、テトスが潜んでいる様子はなかった。

 ゆっくり唇を動かし、マロシュが読めるように手振りを加える。

「テトス? テトスがどこかって?」

 ジグリットは首を縦に振って、そうだと伝えた。

「あいつなら、北の関所の辺りじゃないかな?」

 ――北の関所?

 ジグリットの困惑げな表情でわかったのか、マロシュは笑った。

「ああ、ジグは風邪ひいて寝てたから知らなかっただろうけどさ、ここ数日でナフタバンナとの戦争に折り合いがついたらしいぜ」

 ジグリットはそれを聞き、眸を見開いた。

 去年の白帝月からふた月近くの間、ここタザリア王国は、北東のナフタバンナ王国と国境(くにざかい)で局地戦争になっていた。とはいえ、戦渦になっているというロンディ川上流付近は、ここエスタークから200リーグ(およそ960キロ)以上北に離れていて、街にいると戦いのきな臭さは微塵も感じなかった。

 ただ、ときおり厳めしい軍馬が連れ立って絞首大通りを走り抜けるのを見るぐらいのものだったのだ。

 ジグリットは、口だけパクパクと動かして「それで、勝ったのか?」とマロシュに訊ねた。

「ああ、タザリアが勝ったみたいだぜ。だからテトスのヤツ、北の関所で帰還兵のおこぼれに預かろうってんだ。おれに言わせりゃ、そんなの一端(いっぱし)のかっぱらいのすることじゃねぇぜ。乞食かってんだ」

 言い方は酷かったが、確かにジグリットもそれは戴けないと思った。かっぱらいをすることに抵抗はあるが、物貰いをするよりはマシだ。自分たちは乞食じゃない。恵んでもらう気は、彼にもさらさらなかった。それはこんな生活をしていても、僅かに残ったプライドの問題だった。

 ジグリットは北の関所にいるというテトスの所へ行こうと、マロシュを誘おうとしたが、彼はいきなり「おっ」と声をあげ、見る間にその場から走り去っていた。それはまるで子鼠のような素早さで、ジグリットが急いで眸を走らせると、道路の反対側を歩いている小奇麗な老婦人の後を、何食わぬ顔で付いていくマロシュを見つけた。

 彼は標的(ターゲット)に選んだ老婦人が寒さに肩を丸めながら、早足で街灯の下を歩いていくのに、ちょうど良い距離を取り、ぴったり付いて行っていた。

 そのとき、北からまた軍馬が二頭、激しく蹄で土を蹴って駆けてきた。今度はジグリットは土埃を被らないよう舗道の脇に避け、その馬上に灰色の外衣(マント)を翻した兵士が乗っているのを見た。彼らは兜を着けておらず、二人の男の黒髪が向かい風に頭上へと巻き上がっていた。外衣の下の鎖帷子は古くくすんだ鉄の色をしており、彼らが下級兵であることを顕している。

 その二頭の軍馬の後ろからは、立派な一台の四頭立ての馬車が、これまた同じぐらいの凄まじい速度で走ってきていた。車輪が轍を作る間も与えないような、猛烈な速さで駆けてきた馬車馬のせいで、時折車輪が地面から浮き上がり、いまにも外れそうなほどだった。ジグリットはマロシュから目を離し、二頭の雄々しい黒毛の軍馬と、その後に続く四頭の栗毛や鹿毛の馬たちが自分の前を駆け抜けるのを見つめた。

 過ぎ行く瞬間、ジグリットに近い側にいた兵士の肩に、板金の紋章が載っているのが目についた。金メッキの剥げかけた銀地に黒い炎が立ち昇っている。それはここタザリア王国の王家の紋章だった。

 ――チョザに戻る帰還兵だ。

 茫然としていたジグリットは、馬車が過ぎ去ってもまだ彼らを追って南へと目を向けていた。しかし遠のいていく大きな車輪の音に混じって、誰かが叫んでいるのが聴こえ、ジグリットを夢から覚まし、現実の小汚い土埃の舞う舗道へと引き戻した。

 彼は向かいの舗道で、さっきの老婦人が腕を振り上げ、真っ赤な顔をして怒鳴っているのを見た。彼女は手ぶらで、すでにマロシュの姿はどこにもない。きっとあの蹄の音に便乗して婦人のバッグを盗み、近くの路地に入ってジグザグにうまく逃げ切ったのだろう。

 あの調子なら、マロシュの心配はしなくても大丈夫だとジグリットは思った。そして、ナターシが言ったように、彼らがどちらがより稼げるかを賭けているとしても、それが今日の稼ぎに繋がるなら、諌めることはできないとも思った。ナターシには悪いが、食べ盛りの兄弟達が腹一杯になるには、多少の無茶も仕方がない。要は捕まらなければそれでいい。

 ジグリットはその場をゆっくりと歩き出した。見たばかりの軍馬に乗った兵士のことを考えていた。タザリアの兵士になれば、自分もあのように板金の紋章を肩に、外衣を風に靡かせて、英雄のごとくチョザの王宮へと駆けて行くのだろう。それは自分がこれまでしてきた生活を一変させ、生まれ変わるような気分になるだろうと彼は思った。

 ――兵士になって、タザリアのために戦い、英雄豪傑と謳われる騎士になるんだ。

 ジグリットは人知れず微笑を浮かべていた。後二年経てば、それが叶うとまではいかなくても、手の届く距離に近づく。

 しかし今のところ、ジグリットの心配事は、北の関所にいるテトスのことだった。彼はマロシュに輪をかけた向こう見ずで、無謀な少年であり、役人に捕まった回数では、ジグリットが知る限りぶっちぎりで首位を独走していた。

 絞首大通りは静かだった。ガス灯と通りに面した閉店の札を掲げた商店の、幾つかの鎧戸の隙間から漏れる明かりだけで、舗道はまだらに照らされていた。人通りもめっきり減って、代わりに西側の呑み屋街から、客寄せの女の声が響き始めている。ジグリットは足を早めた。

 ――早くテトスを見つけて、こっちへ引っ張って来なきゃな。

 稼ぎ時を逃すわけにはいかない。

 しかし駆け足になったジグリットは、しばらくして数ヤール先の路地から、小さな頭がひょいっと突き出るのを見た。ジグリットは音のない声で「マロシュ!?」と彼を呼んだ。

 マロシュは得意げに笑いながらこっちへやって来ると、その細い腕にぶら下げた刺繍入りの金糸の袋を持ち上げて見せた。

「どうだよ。ジグがぼんやり歩いてる間に、もうこんなに稼いだぜ」

 ジグリットは駆け寄って、マロシュの持っている袋の中身を見せて貰った。

「な? 銅貨十二枚に、銀貨が四枚。あのババァ結構な金持ちだぜ」

 ジグリットはその五千二百ルバントの金を前に、喜びよりも先に、おやっさんのことを思い、目を眇めた。

 ――これでもまだ足りない。

 あの中年の警吏のことだ、風邪をひいていたと言ったって手加減はしてくれないだろう。足りない金額の分は、ヤツの気が済むまで殴られることになる。ジグリットはまるで月に一度、ヤツの鬱憤を晴らすための砂袋(サンドバック)になっているような気がしてならなかった。

「俺はそろそろ裏通りの方に移るけど、ジグはどうすんだ?」

 ジグリットは絞首大通りの北を指差した。

「ああ、テトスか。放っといてもそろそろ戻ってくると思うけどなぁ」

 ジグリットはそれに首を振って、マロシュを置いて歩き出した。普段のジグリットなら、確かにテトスの様子を見に行ったりはしなかっただろう。ただテトスが狙っているのが兵士と聞いてから、ジグリットはずっと嫌な予感がしていた。

 ここエスタークには、北と南の門にそれぞれ関所が配置されており、チョザから来た衛兵が常時、街を出入りする行商人や兵士を監視している。煉瓦造りの関所はそれほど大きなものではなく、十人が入れば満員になるほどの規模だ。しかし、二階が衛兵の宿舎となっていて、彼らは月ごとに三名ずつ、チョザから交代で送り込まれてきていた。関所の裏は、馬が繋げる厩舎と、彼らの宿舎へ上がる階段がある。

 以前、関所にいる衛兵をジグリットの仲間が狙ったことがあった。あれは二年前、ジグリットがまだ八歳の頃だった。狙ったのはジグリットの先輩格だった少年で当時十一歳。盗みは成功した。呆気ないほど簡単に。彼は関所の裏にある階段から入り込み、衛兵の戸棚(ロッカー)から、銀貨どころか金貨五枚を盗み出した。しかし、それは後に手酷い報復を受けることとなった。

 衛兵たちはジグリットたちのアジトを探し出し、彼らの住処に入り込み、その少年を鞭で打ち、彼が血反吐を吐いて懇願しても止めず、その手のひらに鋼の長剣を突き立てた。

 ジグリットはそれを生きた心地もせず、血の匂いのたちこめる中、仲間たちとただ眺めていた。衛兵たちは彼の目に、底知れぬ怪物のように見えた。あれから、ジグリットは関所には絶対に関わらないようにしてきた。たとえそこにどんなに高価なものがあるとしても、たとえ軽々と盗み出せるとしても、手を出さなかった。

 ジグリットがいまだ畏怖するその関所は、彼の行く手にもう見えてきていた。今日もまた、夜の帳の中を二人の衛兵が北門の入口に立っている、彼はそう思っていたが、目に見えたのはいつもと違う景色だった。

 北の関所の前には、数十頭の馬が鞍をつけられたまま、寒い夜風を浴びていた。うちの二頭は、見たこともないような豪奢な銀の兜を鼻孔の上までつけられ、頑強そうなその背に見事な彫り細工の入った同色の鞍が乗せてあった。

 ――あの鞍一つだけでも充分、ひと月越せるぞ。

 ジグリットの目はその鞍に吸い寄せられ、一瞬自分がここに何をしに来たのかを忘れそうになった。

 関所の入口には、馬の騎手らしき数人が立ち話をしている。彼らはみな、さっきジグリットが見かけた灰色の外衣の兵士二人と同じ格好だった。これから夜を押してチョザへ帰る気はさらさらなさそうだ。どこか近くの旅籠(はたご)にでも泊まるのだろう。

 よく見ると、十頭の馬の向こうの北門前では、衛兵二人がいつも以上にピシッと背筋を伸ばして突っ立っていた。

 ――これじゃ、盗むに盗めないよな。

 ジグリットは嘆息し、テトスを探すため、辺りを見回した。

 諦めて別の通りから西広場へ戻っていればいいが、この中で盗みを働いたりしたら、二年前の比ではない事態になると彼は思った。兵士は街の商人や、お高くとまった貴婦人たちとは違う。彼らは鍛え抜かれた剣を腰に携え、ときにその刃で人を殺めることが許された処刑人なのだ。

 絞首大通りの閉店した帽子屋の入口の影から、ジグリットはじっと馬と兵士を眺めていた。ナフタバンナ王国との戦争に勝ったというのは本当なんだろう。兵士たちは薄汚れた格好(なり)をしていたが、それぞれが安堵の表情で談笑していた。きっとこれから西広場の呑み屋街へ移動し、そこで一杯ひっかけた後、遊里で女郎を買うか、もしくは旅籠で満ち足りた眠りにつくつもりだろう。

 ――それより、テトスはどこなんだ?

 ジグリットの視界では、そこから見える裏路地のどの影にも、自分の見知った少年のちぢれ髪は見えなかった。それどころか、すでに夜風の吹きすさぶ中、誰一人として大通りを北門へと向かって歩く人はいない。ときおり外套(コート)の裾を合わせて足早に歩く男がいても、東から西へと大通りを横切り、西広場へと向かっていくだけだった。

 ――ずっとここに立っていても仕方ない。

 テトスはもう戻ったんだろうとジグリットは判断し、帽子屋の影からガス灯の淡い光の下へ出ようとした。そのときだった。彼の闇に慣れた目は、小さな黒い影が一頭の黒毛の馬の脇腹で蠢いているのを捉えた。

 ――テトスッ!?

 ジグリットは人形のようにその場で固まった。その黒い影は、一番立派な体格の馬の腹に手を伸ばし、しきりに鞍の紐を解こうとしているように見えた。しかし、馬はそれを不服に思っているのか、その頑健そうな蹄鉄でガッガッと苛立たしげに舗道を削っている。

「ダメだっ!」とジグリットは口にした。しかし、またもや声にならなかった。彼の声は完全に空気と同化して消え去った。

 ジグリットは彼の元に駆けて行って、その身体を引っ剥がし、すぐさまその場から逃げ去りたいと思った。しかしそれと同時に、そうすれば完全に幾人かの兵士が自分たちに気づくだろうと思うと、身体はぴくりとも動かなかった。テトスが諦めてそこから去ることを彼は願ったが、そうはならなかった。馬はいまや鼻息を荒くし、警告を発するため(いなな)かんとしていた。その脚は激しく舗道を蹴っている。

 ――無茶苦茶だ。

 ジグリットがそう思った瞬間、その馬は後脚で勢いよく立ち上がった。銀の兜が天を衝かんばかりに高々と上向き、その背で鞍が不安定に片紐を残して垂れ下がった。兵士たちが一斉に馬を見やり、ついでその下で呆気に取られたように馬を見上げている少年を目にする。

「逃げろッ!」

 ジグリットは声なき叫びを上げたが、誰にも聞こえなかった。少年は放心したようにその場に立っている。そして兵士が動くのは、ジグリットが思う以上に速かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ