灰色と失敗作
処女作です。
よく見る話をそのまま書きました。
深夜のノリで書いて、深夜のノリのまま投稿です。
父いわく、オレは失敗作であるらしい。
未完成で不完全で不恰好な駄作。
それゆえに、仕事と言う名目ばかりの放浪の旅に飛ばされることとなった。
この仕事の最後の地の視察を終え、この町に来たときと同じ無人駅に向かう。
この町は良かった。人々の心は優しく、暖かい。よそ者であるオレにも良くしてくれた。正直に言えば、このままここに永住してしまうのも悪くはないと思っている。だが、こんなどうでも良いようなことでも、仕事は仕事だ。命令通り、帰らなければならない。
そんなことを考えながら、オレは客も居ない無人駅で電車を待つ。
しばらく待つと、3車両ほどしかない古びた電車がやって来た。
車両内はやけに埃っぽい。座席につけばまた埃が宙を舞う。乗客はオレ以外に居ない。貸し切りのようで、その点に関しては嫌ではない。
しばらくして電車は動き出す。
規則的な揺れが疲労した体に心地いい。長旅の疲れから、オレはそのまま眠りへと落ちてしまった。
それからどれくらい経ったのだろう。未だ微睡むオレの耳にこんな声が響いてきた。
「終点、夢ー夢ー」
それは『声』と言うには余りに機械的で、所々ノイズがかっていた。
電車はゆっくりとその速度を落とし、駅のホームに停車した。
ドアが開くと、古ぼけた木造の駅舎が目に写る。駅舎どころか駅名すら覚えがない。いつもの路線の先にはこんな駅があったのか。
電車も動き出す気配が無いので、オレは試しに降りてみることにした。
電車を降りると、全体的に灰色がかった駅舎がある。客はオレ以外に居らず、人の気配も無いことからおそらく駅員も居ないだろう。
電車は今だ動く気配が無い。
駅舎の中には簡素な有人改札口と切符売り場がある。壁には時刻表と書かれた紙が貼ってあるが電車の到着時刻や発車時刻も記されていない、全くの白紙であった。
人の居ない改札口を抜けて外に出る。すると、強大な違和感がオレの中で生じる。
灰色の道。灰色の建物。灰色の空に灰色の光。目に入る物がみなそろって灰色なのだ。
道の先を目で追っても、立ち込める濃霧によって奥を覗くことはできない。
「あんたなにやってんだ、そんなところで」
呆然と立ち尽くすオレに声がかけられた。声のした方を見ると、そこには20代位の青年が立っている。
青年は汚れた灰色の服を着て、背中に背負った大きな銃が光を反射して輝いている。
「何で一般人がここに……いや、それよりもここは危険だ。早くこっちへ」
オレは青年に連れられて古ぼけたビルの中の一室へと連れられる。どうやら部屋は倉庫のようで、机や椅子、使わなくなったであろう家電なんかが雑に積まれている。やはり、ここにも人の気配は感じられない。
「ここまで来れば平気だろう」
青年は背中の銃を下ろすと、壁に背中を預けて座り込む。
「何故逃げる必要があるんだ?」
「この時間になるとあの辺は奴らが見回りに来る。だから見つかる前に隠れとかないといけない」
「やつらとは誰のことだ?」
「人造人間だよ、人造人間! わかるだろ?」
人造人間、というのはあれか。小説や漫画やゲームに出て来る作られた人間のことだろうか。
「人造人間……そんなやつらが居るのか?」
「人造人間を知らないって、お前外から来たのか? だとしたらどうやってこっちに来た」
「わからない。電車に乗ったらここに居た」
「電車ってあの駅のことか? あそこはもう随分前から電車何て来てないはずだが、本当に電車で来たのか?」
「本当だ」
青年は疑惑の目をオレに向けてきたが直ぐに元に戻した。
「まあ何にせよ、こんな所に来ちまうなんてあんたもよっぽど運が無いな」
青年は同情の言葉を溢す。
「それで、人造人間とはなんなんだ?」
「ああ、そうだった。人造人間ってのは名の通り、機械の人間だ。人を認識すれば問答無用で肉塊に変えようとしてくる。シリコン製の皮膚を被っているから遠目からだと普通の人間に見えるが、近くから見ればその違いは一目瞭然だ」
「いったい誰が作っているんだ?」
「わからん。東の方で作られているとか、老人が一人で作っているとか、噂は多く聞くがどれも噂の域を出ない」
青年は宙を見つめたまま、くたびれたように言った。
「何処だろうと関係ない。あの意思の無い木偶人形をこれ以上作ろうものなら、すぐに見つけ出して壊し尽くすだけだ」
意思の無い木偶人形か、まるでオレのことのようではないか。未完成、失敗作、駄作、父に言われた言葉が頭の中をこだまする。
違う、オレは失敗作なんかじゃない。仮にそうだとしても、オレは父に作られたわけではない。
「人間を作れるのは神だけだ」
「なんだあんた、神様なんて信じてるのか」
「ああ、空飛ぶサボテンデビル教と言うのに属している」
「はは、なんだそれは」
「元は空飛ぶスパゲッティ・モンスター教に属していたのだが、その教えに疑問を持ち、つい先日独立したのだ。ついでに言えば教徒はオレ一人だ」
「そうだろうな。そんな宗教誰も信じない」
「どうだ? 入信はいつでも歓迎してる」
「いや、結構」
青年は柔らかな笑みを浮かべる。
一通り笑った後、青年は突然真剣な趣になって話始める。
「なああんた、もし行く先がないなら抵抗軍に来ないか? あそこなら、少なくともここらにいるよりずっと安全だし、外から来たと言っていた仲間もいたはずだ。もしかしたら何か帰る手だてが有るかもしれない」
「なるほど、そうだな。特に行く宛も無いし、そうさせてもらおうかな。まあ、案外ポッと迎えが来たりするかもしれないがな」
「それがあの世からの迎えじゃないといいな」
青年は腰に付いたポーチから包みを2つ取りだし片方を渡してくる。
「食っとけ。夜明けと同時に移動する。その時に動けなかったら話になら無いからな」
包みの中身は拳程の握り飯。青年の方は既に握り飯にかぶりついている。オレも空っぽの胃を満たすべく、握り飯にかぶりついく。
あ、おかかだ。
「何もしないのも暇だ、何か身の上話でもしないか」
手に付いた込め粒を舐めとりながら青年は提案した。
「それもいいか」
「よし、じゃああんた、家族は居るか?」
「父と兄弟が居る。母の記憶は無い。そこら中に兄弟が居るから、おそらくそれが原因だろう」
「そ、それはまた、なんと言うか。元気なお父さんだな」
青年は苦笑いを浮かべる。無理もない。オレも他人の話だったらそんな顔になる。
「ああ、もしかしたらこっちにも居るかもしれないな。そうしたら本当にオレを迎えに来てくれるかもしれないな」
「だといいな」
「ああ、本当に。君は?」
「俺は両親とももう居ないんだ。幼い頃に人造人間に殺された。でも妹が居る。生意気で強情なやつだが唯一の家族だからかな、ついつい手をかけちまうんだよ」
そう語る青年の目は穏やかで、それでいて強い意思を感じさせるものだった。
「オレも兄弟が一人だけだったらそう思えたのかな」
「あんたのところは特殊だからなぁ」
「まったく、そのせいで最近は年下の女性、特に15・6歳の女子を『妹になってくれないかな』なんて考えながら見てしまうことが増えた」
「おそらくたが、それは兄弟が多いこととは関係ないと思うぞ」
「いや、全ては量産されたい兄弟、ひいては父のせいだ」
「強引な考えだな」
「この考えが理解できないとは。やはり君は空飛ぶサボテンデビル教に入りその曇った眼を晴らす必要があるらしい」
「邪教はお断りだ」
「空飛ぶサボテンデビル教を邪教呼ばわりとは、君は何て罰当たりなやつだ。そんなことだから恋人の一人もできないんだ」
言ってやった。さあ、図星を突かれて悔し涙を浮かべるがよい。
そう思って青年を見るが、何やら様子がおかしい。見れば、青年の顔にはオレ以上に汚い笑い顔が写っている。
「残念だが、恋人くらい居る」
「何…」
「俺と同い年で、抵抗軍のキャンプで出会ったんだ。食事の用意やけが人の治療でいつも忙しそうなんだが、目が合うといつも笑いかけてくれるんだ。それがまた可愛くてなぁ」
俺の予想を大きく外れ、青年は聞いてもいない惚気話を次から次へと垂れ流す。
「ところで、あんたはどうなんだ?」
あー憎い、あーあー憎い。その笑みが憎い。
「オレはあれだ、一人に絞れないだけだから」
「本当か?」
「人の言葉を信じられないなんて、やはり君の眼は曇って――ふぁあ……」
言葉の続きはあくびによって強制的に切られてしまった。お腹が満たされると眠くなるのは人間の性であろう。
「眠いなら今のうちに少し寝るといい。見張りは俺がしておく。久しぶりに笑わせてもらったお礼だ」
「そうか、ならお言葉に甘えようかな」
オレはその場に横になると、着ていた上着を掛け布団代わりに被る。目を閉じれば意識は簡単に体を離れていった。
それからいくら時間がたった頃、青年の声に起こされる。
「おい、起きろ」
「何か有ったのか?」
「やつらだ。ここがばれたらしい」
「迎えかな?」
「こんな時にふざけてる場合か! いいから向こうのドアから逃げないと――」
ガチャ……
青年の言葉と重なるようにドアが開けられる。ドアの向こうからは同じような顔がぞろぞろと入ってくる。
「クソッ! 早く後ろのドアに――」
「まあ待て」
銃を構える青年を制してオレは言う。
「なんだ、やっぱり迎えじゃないか」
「おい、何を言ってる!」
青年はひどく興奮している。仕方ないか。同じような顔がこうも並べば混乱のするだろう。
「紹介する、彼らがオレの兄弟。顔は似てるけどすぐ分かるようになる」
「おい……本当に……何を言ってるんだ……」
動揺しているようだな、まあ少し経てば落ち着くか。
それにしても、本当に久しぶりに彼らに会うな。話したいことは多々有るが、まあとりあえず。
「ただいま」
「……オ帰リナサイ……」