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ペイスの裁判

活動報告からの移転です。ちょっとだけ加筆あり。

 「被告人、前へ」


 厳かな雰囲気を醸し出す場に、子供らしい高目の声がする。

 周りを幼い少年少女に囲まれた、ペイストリーの声だ。


 彼の少年の声に従って、周りの人間が何も言わずとも動き出す。


 「離せ!! 離せって!!」


 少年の前に、両脇をしっかりと押さえこまれた少女が連れてこられる。

 足をバタつかせ、活きのいい鮮魚がまな板に乗っているように、逃げようともがく。

 あるいは、罠にかかった鹿の如く暴れる。


 少女の名をルミニート。

 少年にとっては最も親しい友人であり、親友と呼べる存在。


 「判決。被告人を有罪とする」

 「「おぉお」」


 周りが一気にどよめいた。即決で有罪の判断が下されるとは、周りの皆も思っていなかったからだ。


 「罪状、つまみ食い。被告人は自らの欲求に従い、お菓子を許諾を得ることなく食し、かつその事実を隠蔽しようと試みた。反省の様子も見られず逃亡を試み、無用の混乱を生じせしめた」

 「あんなに沢山あったんだから、一個ぐらい良いじゃねえか!!」


 先日、モルテールン領に久々の来客があった。

 嫁に出ていたペイスの姉が、新屋敷の落成祝いの進呈の為という名目で、子供を見せる為に里帰りしていたのだ。年若いお爺ちゃん、お婆ちゃんとなったカセロールとアニエスの夫婦は、娘と孫の来訪を心から喜んだ。

 無論、ペイスも喜んで迎えた。若くして叔父になってしまったわけだが、どこか姉の面影のある姪には肉親の情が湧いてくるものだ。


 ペイスの姉にとっては、モルテールン家は実家。顔だけ見せてさようならというのもまた素っ気ない。

 さし当たって一晩泊って帰るにあたり、歓迎の料理はペイス直々に腕を振るった。畑違いとはいえ、多少は現代の料理知識をもつ少年だけに、その味は皆の舌を満足させるものだった。

 モルテールン領でとれる食材で作られた、本格的なフルコースが振舞われ、姉と共に来ていた義理の兄などは心の底から驚いた。


 当然、デザートにもペイスが腕を振るった。

 元々デザートが本職の人間だけに、凝りに凝った超絶美味なるスイーツが出来たのだ。それを来客に振舞っている最中。用意していた筈のお菓子が僅かに減っていることにペイスは気付く。


 つまみ食い。


 ペイスにとっては、万死に値する重罪である。

 血眼の犯人探しが行われた結果、犯人が見つかる。頬にクリームを付けたままの少女が隠れていたからだ。物的証拠を頬に付けていては、言い逃れなど出来ようはずもない。

 逃走と追走の捕り物劇が即興開演し、ペイスは村の子供たちを総動員して少女を捕まえた。

 そして、件の裁判ごっこと相成った次第である。


 「以上のことから、ルミニートには……」


 ゴクリと皆が唾を飲む。


 「くすぐりの刑を敢行する。皆、かかれ!!」

 「や、やめろ~!! うひゃひゃ、変なとこ触んな。脇はやめ、やめてくれ、あひゃひゃひゃひゃ」


 以後、本村の子供たちが、つまみ食いだけはしないようになったのは、言うまでもない。

次はモルテールン夫妻の馴れ初め話です。


ちなみにこの話は、書籍化にあたって店舗特典に書いていた短編のボツ案です。

ボツにした理由は「少女が悶えさせられる描写を印刷物で配布」というのが、嫌だったからですね。成人用書籍もある場所で、勘違いさせそうなものは止めておこう…という自主規制。

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